第九話 情報収集と策謀
宿に戻った私は、ベッドに腰掛け、頭の中を整理していた。
王子エリックと聖女アメリアの真の姿を目にして、私は、この世界の現実が、いかに私が書いた物語と乖離しているかを痛感していた。
「(私が書いた小説は、ただの娯楽だった。でもこの世界は違う。この世界ではすべてが本物なんだ)」
私はポケットから、わずかに残った金貨を取り出した。
情報収集には、お金が必要だ。
私はフィンを連れて、街の情報屋を訪れることにした。
街の裏通りにある、薄暗い酒場。
そこは様々な情報が行き交う、街の裏社会の中心地だった。
私はフードを深く被り、フィンの手を握りしめ、その酒場の扉を開けた。
酒場の奥には、いかにも情報屋といった風貌の男が、一人で酒を飲んでいた。
私は男に近づき、テーブルの上に金貨を置いた。
男は金貨をちらりと見ると、ニヤリと笑った。
「お嬢さん、何が知りたい?」
「……王子エリックと、聖女アメリアについて」
私の言葉に、男の表情が少しだけ変わった。
「そいつらは、この街でも一番の有名人だ。特に、聖女アメリア様は、慈悲深いことで有名だからな」
男は、私の探りを入れているようだった。
私は、男の言葉には乗らず、ただ静かに言った。
「真実が知りたいの」
男は私の目を見て、静かに頷いた。
「……面白い。その金貨に見合うだけの情報を教えてやろう」
男が語り始めたのは、私が知っている「物語」とは、全く違う真実だった。
まず聖女アメリアについて──、その美しさと慈悲深さで民衆の支持を集めていたが、その裏では、貴族たちから多額の献金を強要していた。
王子エリックについては──、表向きは民衆の英雄として振る舞っていたが、その裏では、政敵である公爵家を失脚させるために、様々な不正を働いていた。
そして、その不正を告発しようとした公爵家の娘が(つまり、私が…)がターゲットにされた。
王子の策略によって、不正を働いたという偽の証拠を突きつけられ、断罪されたという。
「公爵家の娘は、王子によって不正を働いたとして、王都から追放された。だが、本当に不正を働いたのは、王子の方だったんだ」
男は、そう言って、酒を一気に飲み干した。
私は、その言葉に息をのんだ。
私が書いた物語では、セレスティーナが不正を働いたことになっていた。事実”私は”婚約破棄されて王都を追放されている。でも現実は、王子が不正を働いて、それをセレスティーナ(つまり私)に被せたんだ…。
私の記憶と”現実”が、再び乖離していく。
私は自分の書いた物語が、この世界の真実を反映していないことに、再び直面させられた。
しかし同時に、私は、この世界の真実を知ることで、この物語を書き換えられるという希望を見出していた。
「ありがとう。……とても、役に立ったわ」
私は、男に深々と頭を下げ、フィンと共に酒場を後にした。
街の夜空は、星一つ見えないほど暗い。
しかし、私の心の中には、確かな光が灯っていた。
私は、この世界の真実を知った。
今度は、”私が”この物語の真実を書き換える番だ。




