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第八話 王子の本性

 私はフィンを連れて、街の裏通りを歩いていた。

 表通りでは、聖女アメリアの偽善的な慈善活動が続いているだろう。

 しかし街の裏側には、その恩恵にあずかれない人々の現実があった。


「……腹、減った」


 フィンが、遠慮がちに呟いた。


 私たちは、安宿に泊まってはいるものの、食料は最低限しか購入できていない。

 私は、ポケットに入っていたわずかな金貨を握りしめた。


(まずは、ちゃんとご飯を食べさせないと…)


 その時、私たちの目の前を、一台の豪華な馬車が通り過ぎていった。

 その馬車は、王族の紋章を掲げていた。

 馬車の窓から一人の男が顔を出した。


 王子、エリックだった。


 彼は、豪華な衣装を身につけ、民衆に手を振っている。

 その顔には、完璧な笑顔が浮かんでいた。

 聖女アメリアと同じように、民衆を安心させるための、作り物の笑顔だ。


 馬車の後を、多くの兵士が歩いている。彼らは、先ほどアメリアがいた広場へと向かっているようだった。


(王子が、聖女の慈善活動に参加する、か……。絵になる光景だね、全く)


 私は心の中で、冷ややかなツッコミを入れた。


 その時、私の目に、一人の兵士の顔が止まった。

 彼は、私が追放された日、馬車に私を乗せた御者だった。

 私は、慌ててフードを深く被り身を隠した。

 が、彼は私のことなど気にも留めずに、馬車の後を歩いていく。


 彼の姿を見つめながら、私は一つのプロットを思い出した。私が書いた小説の、悪役令嬢セレスティーナのパート──。

 彼女は不正を働いたとして、王子エリックに断罪される。しかしその不正は、すべて王子エリックが仕組んだ罠だった。


 私は、この世界の現実が、私が書いた小説と一致していることに、鳥肌が立った。


 王子エリックは、聖女アメリアの慈善活動を盾に民衆の支持を集め、その裏で自分の政敵を排除するために、冷酷な策謀を巡らせていた。

 フィンの住む集落の食料を断ち切ったのも、その一つだ。表向きは”民衆を救う英雄”として振る舞いながら、裏では”その民衆を苦しめていた”


「(……なんて、ひどいやつ…)」


 私は、震える声で呟いた。

 私の書いた王子エリックは、傲慢で嫉妬深いただの男だったけど、この世界の王子エリックはもっと複雑で、そして狡猾な人間だった。彼は自分のプライドと野心のためなら、どんな手段も厭わない。


 私が書いた物語は、あまりにも単純すぎた。

 この世界は、私が想像していたよりもずっと”善と悪の区別が曖昧”で、そして裏切りと欺瞞に満ちている。


 私が…。


 自分の書いた物語に、もっと深みを持たせていれば、こんなことにはならなかったのだろうか……。


「街には、王子の命令で、たくさんの兵士がいる。……危ない」


 フィンが、不安そうに私のマントの裾を掴んだ。

 私は、フィンの小さな手を握りしめた。

 大丈夫。

 私は、もう逃げない。

 私は、この世界で、自分の力で、この物語を書き換える。

 それが私にできる、唯一の償いだ。


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