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第六話 偽りの身分

 森を抜け、私とフィンがたどり着いたのは、王都のすぐそばにある城下町だった。

 遠くに見える王都の城壁は、まるで巨人のようにそびえ立っている。


(うわぁ…なんか、リアルで見るとすごい迫力だ…)


 私は思わず立ち止まり、その威容に見入ってしまった。


「……行くぞ、セレスティーナ」


 フィンは、私が立ち止まっていることに気づき、不機嫌そうにそう言った。

 私は慌てて彼の後を追う。


 街の入り口には、多くの人々が行き交っていた。商人、兵士、そして、私と同じような貴族の馬車も見える。私は周囲の視線に気づいた。彼らの視線は私のボロボロになったドレスと、泥まみれの足元に注がれている。


(そりゃそうか。公爵令嬢がこんな姿で歩いてたら、誰だって二度見するよね…)


 セレスティーナの顔は、この世界では有名だ。

 このままでは王都の衛兵に捕まってしまうかもしれない……。自分の身分を隠す必要がある。


「フィンくん、私、このままだとまずいと思うの」


「……なんでだ?」


 フィンは不思議そうに首を傾げた。


「私、この国では結構有名で……。こんな姿でいたら、すぐに衛兵に捕まっちゃうかもしれないから」


 私はそう言って、彼の小さな手に自分の手を重ねた。


「(どうしよう……。顔を隠す何か……。そうだ! 過去の私の知識を活かそう!)」


 私は、必死に記憶をたどった。

 確か、フード付きのマントを被って、髪の色を変えて……。

 しかし、そんな都合のいいアイテムが、この場所に転がっているはずがない。


 その時、私の目に街の片隅にある古着屋が飛び込んできた。

 私はフィンを連れて、その古着屋へと入っていく。

 店内には、薄汚れたボロ服が山積みにされていた。


(うーん、これは、さすがに……)


 私は、ため息をついた。

 しかし、他には選択肢がない。


 私は店番をしていた老人に声をかけ、マントと地味な色の服を何着か購入した。

 マントはフードを深く被れば、顔を隠すことができる。その場でボロボロのドレスの上から、地味な色の服を着て変装を完成させた。


「(よし。これで、誰にも気づかれないはず…!)」


 私は古着屋を出て、フィンと街の中を歩き始めた。

 周囲の視線は、もはや私に注がれていない。


(それにしても、こんなにボロボロの服が、まさかこんなに役に立つなんてね…)


 公爵令嬢としての常識からかけ離れた、私の現実的な思考。

 それは、私がこの世界で生きていくための、一番の武器になるかもしれない。


「これから、どうするんだ?」


 フィンが、私の顔をじっと見つめてきた。

 彼の瞳は、私の中の「すずか」と「セレスティーナ」の、どちらを見ているのだろうか。


「まずは、宿を探して、ちゃんとしたご飯を食べよう。そして、街の情報収集をするの」


「情報? なんのだ?」


「……王子と聖女の、ね」


 私は、ニヤリと笑った。

 その笑顔は、かつての公爵令嬢セレスティーナには決して見せなかった、内気で腐女子気味だった私自身の、強い意志を宿した笑顔だった。


 私たちは安宿を探し、その日の夜を過ごすことにした。

 本当の戦いは、ここから始まる。

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