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第二十話 石板に刻まれた運命

 王都を出て数日が経った頃、二人は深い森の入り口に立っていた。行商人から、この森の向こうに『世界の源流』の記憶が眠る場所──と言い伝えのある古代遺跡が、この近くにあると聞いたのだ。


 レオンが、少し不安そうな顔で尋ねる。


「お嬢様、本当にこの森に入っていくのですか?」


 この森は『魔の森』と呼ばれ、危険な魔物が棲みついているとされている。


「ええ、レオンさん。私の『秘術』の力をもっと深く理解するためには、この噂を確かめる必要があるわ。それに、この世界の『物語』の真実を知るためにも、手がかりが欲しいの」


 二人は慎重に森の奥へと足を踏み入れた。昼間だというのに薄暗く、苔むした巨木が不気味な影を落としている。奇妙な鳴き声が周りを取り巻き、時折、唸り声が聞こえてくる。


 数日後、森の奥で古代の遺跡を見つけた。遺跡は巨大な岩でできており、その壁には奇妙な文字が刻まれている。扉に手を触れると、掌から微かな光が放たれ、文字が光り始めた。


「……読める…」


 声が漏れた。扉に刻まれた文字をスラスラと読み進める。


「『虚無の力を持つ者よ。我らの願いに応え、この扉を開け』…」


 全ての文字を読み終えると、巨大な扉はゆっくりと音を立てて開いていった。二人は遺跡の内部へと足を踏み入れる。中心には一つの祭壇が置かれ、その上に石板があった。


 石板に手を触れると、再び光が放たれ、文字が輝き出す。


「『我らは、この世界の『物語』の創造者。我らは、この世界に、一つの『物語』を創造し、その『物語』が正しく進むように、『運命の糸』を創り出した』」


 この世界の『物語』は、誰かによって創られたものだったのだ。


 さらに読み進める。


「『しかし、我らの『物語』は失敗した。この世界に、『イレギュラー』が誕生したからだ。その『イレギュラー』は、我らの『物語』を破壊する。そして、この世界を、滅ぼすだろう』」


 文字を読み進めるうちに、胸が締め付けられる。


(……やはり、私は、この世界を滅ぼす存在……)


「『我らは、この世界を救うため、もう一つの『物語』を創り出した。それは、この世界の『物語』を正しい方向へと導く『悪役令嬢』の物語』」


 驚きがこみ上げる。


(……悪役令嬢の物語……? まさか、私が……)


「『我らは、この世界の『イレギュラー』を、この『悪役令嬢』の物語に、転移させた。それは、我らの『物語』を完成させるため』」


 その文字は、この世界の『物語』の真の目的を語っていた。この世界の『悪役令嬢』として転生したのは偶然ではなく、物語を完成させるための『道具』だったのだ。


 石板から手を離し、その場に座り込む。

 私は、この世界の『物語』の一部であったのだ。


 レオンに石板の内容を伝えると、彼は驚きと怒りを露わにした。


「…そんな…。お嬢様は、『道具』なんかじゃありません! お嬢様は、お嬢様です! この世界の『物語』に縛られる必要なんてありません!」


 胸が熱くなる。

 私は、この世界の『物語』の『道具』ではない。

 私は私だ。

 この世界の悪役令嬢として、この物語をハッピーエンドに書き換える。

 それは、私だけのハッピーエンドではなく、みんなのためのハッピーエンド。


 再び石板に手を触れる。

 掌から強大な魔力が放たれ、石板がゆっくりと姿を消していく。


 石板が完全に消えると、遺跡は、最初から何もなかったかのように静寂に包まれた。


「……終わったの……?」


 私の声は震えていた。掌に残る光の余韻だけが、ここに何があったかを教えてくれる。

「この静けさ……何か、試されているみたいですね…」


 レオンの視線は、まだ、光の消えた遺跡に向けられていた。言葉に出さずとも、彼の手の震えが緊張を物語っている。


「確かに……ただの遺跡じゃない……」


 私は息を呑んだ。


 ここで触れたものは、私たちの理解を超えていた。

 まだ、この世界のすべてが分かったわけではない。けれど…石板から本質的な”何か”を示された気がした。


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