表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蘇生魔術と空間管理者たち  作者: なー
根鈴たちの視点
5/33


◇◇

……根鈴なのか?

その姿を認めた瞬間。

神坂との戦闘中ということも忘れて数瞬硬直してしまう。

思考加速中だ。0.1秒以下しか硬直しなかったにもかかわらず、


……致命的だった。


「動きを止めたな?……動機を見させてもらう。

《読心術》、2型。透過魔力によるMRI開始。」


声が聞こえるや否や。

神坂の読心術が突き刺さる。

心と記憶を、容赦なく暴かれた。

強制的に、閉ざしていたトラウマが引きずり出される。


◇◇


……あれは、確か。

雨が降っていた日だ。


教室の隅で、根鈴は窓の外を眺めていた。

誰とも喋らず、誰にも呼ばれず、

でもなぜか、あのときだけは

俺の視線と重なった――そんな気がした。


「……傘、持ってないの?」


声をかけるつもりなんかなかった。

でも、気づいたら、言っていた。


彼女は、こちらを見た。


まっすぐじゃない。

どこか、探るような、迷うような、怖がるような目で。


「……ううん、大丈夫」


そう言って、根鈴は笑った。

その笑顔が――忘れられなかった。


**


それから、どれだけ経っただろう。

俺は、彼女が「法術師」だと知った。

俺と、同じように“異常な力”を持っていることを。

……故郷を同じくするものだと。


それでも、彼女はいつも通りだった。

教室の隅に座り、ノートに何かを書き、

気配を消すようにして、時々、俺を見ていた。


あの目が、ずっと頭から離れなかった。

そして――


帰り道、白衣の集団と砲台のようなものを目撃した。

……あれはADRIの工作員と大型焦点具だったのだろう。


(お前は、なぜあのとき止めなかった?)


神坂の声が、意識の奥に響く。


あの日。

爆発があった教室。

崩れた部屋の中で、立っていたのは――


黒羽だった。

彼の隣に、倒れていたのは――根鈴。


(お前は知っていた。彼女が追われていたことを。)


違う、違うと叫びたいのに、

記憶は、止まらない。


血の匂い。

焼けた魔力の残滓。

根鈴の唇が、震えながら、何かを言っていた。


「――来てくれるって、信じてた……よ」


あの声が、心の奥に焼き付いている。

無意識に反論する。信じてもらう資格はない。


自分は自分を信じていない。

根鈴を守れなかったのだから。


◇◇


「それが、お前の“心”か」


神坂の言葉が、脳に直接焼きつく。

心を覗かれ――暴かれた。


一度暴かれると止められない。

本質に迫られる。


◇◇


ベッドに横たわる根鈴。

毎日のように目覚めない彼女を眺める日々。


何かできたのではないか?

少なくとも、防御層で守れたはずだ。

もう少し早く合流できていればあそこにはいなかった。

もう少し運が良ければ彼女は巻き込まれなかった。


後に知ったことだが。

ADRI(基底世界側研究組織)に根鈴が捕捉され、

ADRI過激派の強硬手段、根鈴を拉致して法術の解析サンプルとする目的のため、

学園が襲撃されたらしい。


が、陽動のためのADRI側の砲撃、

集団魔法、《爆撃の杭》にたまたま根鈴がまき込まれた。

砲撃直後に穏健派が砲撃部隊を確保。


根鈴は基底世界文明の好奇心に害され、殺されかけたのだ。


なぜ捕捉されたか?

根鈴の決闘祭における魔法のパターンにADRI側の持つ法術記録との近似点を看破されたため。

特に彼女の《風の結界》が決め手だった。


転生者としての発想だったのだろう、球状に風の壁を展開する魔法。

球状なのが興味をひいたらしい。


分かるわけがない。

もう少しで、すべてに対して恨みを振りまく人物になってしまう直前で、

根鈴が目を覚ました。


◇◇


今から根鈴に何かできるのではないか?

そう思ったから俺は。


「師弟関係になったと」

「ああ」


◇◇


神坂に聞かれるまでもない。

初めて法術を学んだ根鈴の目、表情。

師として、覚えている。

読心術によって記憶をほじくり返されるまでもない。


ベクトルの概念。前世地球にもあったそれが、魔法に応用できることへの感動。

空気制御魔術や水分制御魔術の難しさの理解。

マトリクスの概念。頭が焼き切れるような演算量。ベクトル場操作の成功。


短距離転移。

防御層、高密度結界。

隠蔽層。


根鈴の成長は、おそらく本人より覚えている。


その最中。学園の自分の後進、及び自分、根鈴にADRIの襲撃が継続していることを知る。


後進の法術師が拉致、法術解析・人体実験の果てに死亡した噂を耳にする。

その瞬間、根鈴がそうなっていた光景を脳裏に映し出してしまう。

そのとき、なにかが頭の中で切れた。


情報元は、法術師コミュニティの定例会議。

拉致された法術師の友人からコミュニティへの通報・相談。

議題としてそのうわさが提示され、対策を話し合った。


法術師コミュニティの会議では、穏健派と過激派が真っ二つに割れた。

過激派は都市ごと滅ぼす案を主張したが、多数決で敗北。

以降、対策会議は開かれず、俺の不信感だけが募った。


結果、ADRIに先制攻撃・報復を企てる。

過激派最高戦力、一級法術師として、単騎で壊滅させられる自信から相談はしなかった。

対策会議をしない、法術師連合に対するいら立ちもあったかもしれない。


そこから独学で空間操作・空間開闢を会得。

法術師ネットワークにはアクセスせず、思考を重ねて到達。


アクセスしなかった理由は不信感からだ。

2重の理由で、法術師連合には習得を認められないだろう。

まず、権限不足。たかが1級法術師が空間操作の教育を受けられるとは思えん。

そして、法術師の基底世界への保護理念。

やろうとしていることは、暗部・過激派とはいえ基底世界文明への攻撃だ。


誰も信じられない。

誰にも相談できない。

だから、このまま一人で進む。

それが、引き返せる最後の地点だった。


いつしか、恐怖・見下し・孤独感により、

われわれに見守られている分際で法術師に害をなそうとは、恩知らずが。

と一方的な感情を抱くようになる。


手始めとして自身が育てた法術師・根鈴で実証実験。

有効性を確認したのでADRIに報復を始める。


……法術師に妨害されたなら応戦、できれば逃走。殺害も辞さない。

目的と手段がぐちゃぐちゃになっている自覚はある。

だがもう止められない。

根鈴を自ら殺害して、退路は自身で絶った。


これによって自己暗示。根鈴のためにもこの報復を完遂する。


◇◇


「で、今に至る、と。

……なるほどねぇ、まあここのADRI拉致疑いの件は知っていたが……」


「知っていたなら、なぜ、対処してくれなかった。

空間管理者・神坂!対策会議もせずに!」


「結局、あの後、俺が強襲、救出したからだよ。

……通達が君に行ってなかったのは予想外だった。

……どうだ?納得したか?」


俺が空間開闢術式の独学中にか?しかし。

「だからといって、急に納得できるわけがないだろう!」


感情のままに空間操作。

《空間開闢》!

即座に経路を切断。

追跡を妨害する。

胞構造内の別空間に接続、転移。

連続で繰り返して逃走する。


◇◇


「ちっ。連続で空間開闢でもしたか?

黒羽の行動を見失った」

神坂が舌打ちする。


「詰めが甘くないか?」

MIFの茶々が入る。


「否定はしない。戦闘後、かつ読心術で記憶を暴かれた後に、

あそこまで空間開闢をできるとも、

さらには、俺からの逃走に使うとは思わなかった」


神坂の口角が上がる。

「……しかし、それは悪手だぞ、黒羽。

その連続転移はかくれんぼ中に大声を上げて逃げる獲物と変わらん。

いずれ、法術師たちのだれかに見つかる」

神坂の声が静かに響く。

「──お前の心は、まだ“見つけてほしい”って叫んでる。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ