模擬戦:神坂vs黒羽
最後に彼らを全力で戦わせてみる
■REFの過去
空間管理者になる際に、自身の代名詞となる魔術は何がいいのか?
と自問した。
結論としては、未来を見通す力。結果を演算する力を求めた。
あとは……いくつかの空間操作。
ラプラスの悪魔という概念がある。
周囲のすべての情報を掌握していれば未来の演算すら可能だ。
BMIによって機械化した以上やってやれないことはない。
しかし、一つこの魔術には欠点がある。
未来が分かってしまうということは、期待感も何もない過程を経るということ。
楽しみ、という感情は削げ落ちて久しい。
未来を見通す力は、同時に“驚き”を殺す力でもあった。
結果が分かる以上、どの瞬間にも心を動かされない。
期待も、高揚も、もう何年も感じていないはずだった。
だからこそ、あの時、黒羽と戦った際。
不確定因子を飲み下して、戦闘を強行したのは。
その虚無の心を奮い立たせる儚い試みだったのかもしれない。
……だからこそ、黒羽とのあの一戦で、
未来が乱れた瞬間に“嬉しい”とすら感じた自分がいた。
星間級の兵器で身体を撃ち抜かれた瞬間、心躍り、
南下が指揮を執って俺を追い詰めてくる姿には目が輝いた。
見逃す、という俺ができる最大の応援。
それを糧にして楽しそうに反逆してくれて、俺は──
管理者である立場を顧みず、かれらを見逃す選択をしたのは、後悔していない。
■お祭り騒ぎのきっかけ
反逆軍構成員たちが元の配置に戻ってしばらくたったある日。
ふと、準空間管理者・南下が手を止めた。
南下「──ん?そういえば黒羽の奴ちゃんとガス抜きできたのか……?」
REF「業務に集中しろ。お前ら今、執行猶予中みたいなもんだぞ」
南下「いや、気になるじゃん」
糸代「愛しの弟子♡と仲直りはできたけど、その分不完全燃焼かもしれないよな」
三淵「根鈴への巻き込みを気にしていた風だったよな」
古俣「気になって業務に集中なんかできないなあ」
「「「なー」」」
芝居がかった同調。普段一緒につるんでいるグループの連携を見せつけられている。
まあ、黒羽本人の末路は確かに気になるところだ。
一回交戦した関係だし。
REF「はー。あとでMIFに連絡してみよう」
ため息に反して口角がわずかに上がっていたのは、自覚しつつも気づかないふりをした。
──しかしこの行動はやがて大事件(お祭り騒ぎ)に発展してゆく。
■お祭り騒ぎ
◇◇神坂視点
MIF「と、いうことで黒羽と神坂のエキシビションマッチを始める!」
神坂・黒羽「「どういうことだよ」」
いやほんとに。
突然MIFに呼ばれたかと思ったら説明すらなくXR空間に放り込まれてこれだ。
MIF「審判はREFが立候補した」
REF「紹介に預かった、空間管理者REFだ
──フッ」
意外な人選だな。
じゃなくて。
神坂「おい説明しろ」
黒羽「というかなんだいまのふくみ笑い」
いやまあ本人の専攻的に予測演算したっぽいけどさあ。
南下「もう勝者を演算したらしい」
REF「ああ。面白い戦いになった」
糸代「いやそれは俺らも既に予想してるが」
MIF「だからこそこんなに盛り上がっているところもあるのにな」
根鈴「……どっちが勝ったんですか!?」
REF「……ネタバレ防止の配慮が分からんか」
南下「まー、両方頑張れー」
いや模擬戦自体はいいが。
急すぎるんだよ!空間管理明けの足だぞこっちは。
三淵「ほーい。オッズは神坂:黒羽で1:1.5なー」
古俣「1:1.2だろ」
三淵「じゃあそれで」
おいそこ。見世物じゃあ……見世物ではあるか。
にしても実力の差が1.2倍程度ね……。
信頼厚いな反逆軍リーダー。
俺の生暖かい目から黒羽の顔が逸らされる。
根鈴「じゃあ黒羽さんで!」
弟子にも慕われて……感無量だね。きっと。
うっかりニヤけてしまう。
REF「……」
あ。REFの野郎も目をそらしてる。
あの現場を見る目線だけで周りがネタバレをくらいかねないからか?
とおもったら俺の方を向いて……
REF「まあ、ご苦労さん」
──どっち?お前の中で俺敗けたの?ねえ?
糸代「ドーピングいる?」
黒羽「……いらん」
あ。一瞬迷った。良くないぞー、実力で勝負しろー。
……いや、叩き潰す所存だけど。
白洲「大人げないぞー」
黒瀬「模擬戦なんて久しぶりに見るなぁ!」
はいそこー。突っ込んでいいか?
なんで上位管理者がいるんだよ!
黒羽「……」
ほら、黒羽も固まってる。
格上に評価されるということだからなー……。
そもそも相手も格上だった。
ご苦労様。
MIF「固まってないで、さっさと始めろー」
えー……。この空気感で?無理無理。
REF「まあ、あと30秒は無理だな」
糸代「俺らが空気をギャグ寄りにしているせいでなぁ!」
南下「いったん静まるか。ここの全員、クールダウンしろー」
──静かにされてもそれはそれで始めづらいな。
◇◇黒羽視点
「えっと、いつでもいいぞ?」
──目の前の神坂に促される。
そういえば、途中からこの人との闘争を反逆の主目的に据えていたんだっけ。
まあ、いろいろあってそんな余裕はなかったが。
……俺はこの人に感謝しないといけないんだ。
すれ違ってしまったが、この人は確かにADRIから法術師を守ろうとしていた。
単身突入して、捉えられた子たちを救出したんだ。
そして最後には根鈴を抱えて一緒に俺を止めに来てくれた。
……読心術がある以上、これも看破されているだろうけど。
──眼を逸らす。すると根鈴と目があった。
最終決戦において俺の心を揺さぶった張本人。
そして最愛の弟子。
もしかしたら初恋であり両片思いかもしれない。
それでもなお一回殺した本人である俺を、恒星表層まで救いに来てくれた。
俺、この戦いが終わったら──
──なんか神坂さんの眼が冷ややかだ。
心の中で惚気ていないでさっさと始めよう。
◇◇
《空間開闢》!
……何度行使したか分からない術式。
俺の特色だと思っていたそれを、
もはや呼吸をするように行使できてしまうそれを……
──神坂は片手間かのように行使して拮抗していた。
異空間を呼ぶ空間歪曲の衝突。
そのわずかな隙間には台風の目のように「正常な景色の膜」が張り詰めていた。
※
ギャラリー
根鈴「え?空間をぶつけあってる?」
黒瀬「というか両方超光速許容空間かよ」
南下「違和感の正体それか。全く同じものを展開していると。
だがぶつかり合って削りあっているのはどういうことだ……?」
白洲「……あ、そうか。ディラックの海」
REF「どっちの用法だ?反物質の場?反空間?」
黒瀬「テンソル反転空間だな。空間テンソルを反転させた黒羽の空間の鏡像を当てている」
根鈴「中和……?」
黒瀬「に近い。相殺ともいえるだろう」
※
憧れ。
嫉妬。
劣等感。
感情は術式に込める。
魔力被覆、プラズマ弾発射。誘導開始。目視-座標送信。
山なりに降り注ぐグループ。地を這うグループ。直接狙うグループ。
※地を這う?
結局のところ互いの空間開闢が拮抗している以上、
ここはまだどの開闢空間にも入っていない。
閑話休題。
しかし神坂は弾幕といっていい物量のそれを。
魔力放散、銅球の多量拡散、液化窒素弾。
この3段階で対処してきた。
「本来の対処方法はこれだ。
予測して準備してれば防げるものなんだよ」
加えて。
液化窒素が銅球に当たって飛散する。
もしくは銅球の至近距離で突沸、蒸発して銅球が発射される。
液化窒素と銅球の混合弾幕。
液化窒素による酸欠防止の防壁を作れば銅球に貫かれ、
銅球への防壁を作ればその外部で液化窒素が蒸散しその後の大気成分の制御が困難となる。
──向こうの戦法を真似しよう。
魔力収束、拡散。
弾幕のすべてをはねのける。
一手凌いだところで攻勢に出る。
魔力放散で生じた暴風圏。これを抽出して成形、維持。
さながら《風の槍》だ。
材量は広く、かつ大量にある。
連射だ。
◇◇
神坂はそれに対し右手を薙ぎ払う。
特に何かの術式を行使したようにも見えない。
だが、次の瞬間。
風の槍は勢いを弱め、消失していた。
なんだ?何も見えなかった。
右手の動き以外は。
防壁を展開したわけでも、手で迎撃を試みたわけでもなさそうだ。
※
白洲「うわ、大人げねえ。
上位管理者名物、分からん殺しだ」
黒瀬「完全に手品じゃねえか」
笑いを含みながら観戦する上位管理者の二人。
当然注目が集まる。
MIF「手で仰いだ風を複製、増幅した……とも違うんだよな」
白洲「空間管理者なら察してしかるべきだぜ?
まあこの時点でヒントではあるな」
根鈴「空間操作?」
黒瀬「惜しいな。正解は予測演算。
正確には大気の振る舞いの初期値鋭敏性を使ったトリックだ」
REF「未来を見通すほどの処理性能があれば
どのような因子で任意の未来へ誘導できるかもわかる……か」
白洲「あの風の槍──渦──ベクトル場たちをかき消す風力テンソル。
これをバタフライエフェクトでかき寄せるにはどのような初期値を与えればいいか?」
黒瀬「それがあの右手の動きだ。
これからあいつは最小の動きで黒羽を追い詰める。見逃すなよ」
※
目の前の神坂が右手を鋭く上に掲げる。
重力が消えた。
そう錯覚するほどの上昇気流。
左手の指先を下に向ける。
風が頭上で渦巻いて、収束した槍が頭上から打ち付ける。
一瞬遅れて察した。風の槍じゃね?これ。
意趣返しならわかりやすく返してくれ。と切実に思う。
ともかく。
飛行術式急制動!回避!
すんでのところで回避するがその最中に指を鳴らすのが聞こえた。
風の槍が震え、すぐ隣で爆ぜた。
直接的なベクトル干渉じゃない!
攻撃の起点、弾道予測が困難だ。
指を頭上で一回転させる。
上昇気流によって打ち上げられた水蒸気と土の粒子が、
先ほどの刺激によって不安定になった空気に乗って渦を巻いて黒く立ち込める。
それはやがて粒子の摩擦によって雷鳴を轟かせ始めた。
──積乱雲。
しかも間接的にそれを発生させてきやがった。
神坂が右手を振り回す。
指揮者のようにも乱雑にも見えるそれは、
コマンドのように遠隔のベクトル場に影響を与え、操る。
その結果は。
──落雷。
予測はしていた。だから窒素をまとって絶縁体による障壁は構築していた。
だが、凌いでも連続して落雷が打ち付ける。
皮膚のすぐ下を、火花が走った気がした。
(まずい、この障壁……持たない)
……絶縁破壊が近い。
撃ち抜かれる前にもう一回。
《空間開闢》を──
「面白いものを見せてあげる。
──《魔力の弾》、斉射」
一目見てコマンドのようだと直感できる幾何学的な弾幕が空全体に広がり、
積乱雲に吸い込まれていく。
次の瞬間、視界が白く染まった。
術式行使は急には止められない。
《空間開闢》が発動し「かけて」、
──歪んで、消えた。
※以下の機序があり得るか思考実験。
魔力の弾の炸裂(=気流ベクトル場)によって積乱雲内の粒子を摩擦。
落雷が起こる。
そこでバタフライエフェクトを制御するほどの処理性能による魔力の弾の弾幕
すなわちカオス(複雑系)なテンソル干渉によって特定座標に誘雷。
複数の落雷を同時に一点に収束。
雷速で移動する荷電粒子(=落雷)が他のそれとぶつかることによって、
粒子加速器のような現象が起こる。
◇◇
空間干渉がキャンセルされた!?
「はいそこ。隙だらけ」
魔力の弾がかすめてゆく。
呆けている場合じゃない。
反撃をしないと。
足元に魔力収束、自身を射出。
向かう先は神坂の懐だ。
周囲に風の槍を起こす。
弾幕とともに突撃する。
近づくと同時に二人の防御層同士が接触。
互いの結界は互いの結界を排除する対象と見定め、
互いにはじき出さんとする。
ベクトル干渉の倍々ゲームだ。
その攻防の中黒羽の風の槍が接触面を貫こうとするが、
当然それはベクトル干渉に特化した自動防御領域に歯が立たない。
同じ轍を踏むまいと黒羽本人はわずかに遅れる。
しかしただ遅れるだけではない。
《風の杖》。
渦抵抗を成形、近接兵器とした戦闘用術式。
その距離まで迫った黒羽を見て神坂は
「へえ?」
と、面白そうに笑みを浮かべる。
その右手には鏡写しのように光の杖が浮かんで、握られた。
次の瞬間、互いに袈裟懸けのように振り下ろす。
手の中にある杖が衝突して、暴風と光の雨があたりに散らばる。
法術師どうしの戦闘として、珍しい近接戦闘が始まる。
※力学結界と近接戦闘
球状に力学結界を展開している法術師たちが近接戦闘した場合、
力学結界同士が接触するがその際どのような挙動になるだろう。
相手の力学結界を脅威と解釈した力学結界はその対象、
相手の力学結界にベクトルを印加する。
……ところでベクトルが飛んでくるという現象はほとんど衝撃と変わらない。
そのベクトルは次の瞬間相手の力学結界に脅威として捕捉され、
こちらの力学結界にベクトルが飛んでくる。
そうして倍々ゲームが始まる。どちらかの力学結界の処理性能の限界が来るまで。
単純に双方一定量の魔力を消費する、という結果になる。不毛。
相手の魔力量がこっちよりはるかに高いリスクも存在する。
つまりこちらが丸腰になる一方で相手の防御手段は残るという最悪のシチュエーションになる可能性がある。
だから基本初手近接戦闘は避けられがち。
◇◇
──《近距離転移》。
黒羽が神坂の力学結界に対処するために選んだ手法はこれだった。
上位空間管理者、広域空間群管理者としてややマージンを取って範囲展開された自動防御。
すなわちいったん内部に入ることができれば気にしなくてよくなる。
瞬時に目測の距離が乱された神坂はそれでも余裕を崩すことはない。
認識が遅れたのではない。
しっかりと認識してなお笑みを浮かべている。
0.1秒にも満たない予備動作。
その静けさを打ち破る互いの手の内にある杖の衝突。
鍔迫り合い。
その周囲の風景が歪む。
近接戦闘中とはいえど、有り余った演算処理能を飛翔体魔術として互いに直撃させんとする。
しかしここで黒羽はもう一歩先に進んだ。
周囲の飛翔体魔術、《風の槍》は目くらまし。
──《空間開闢》!
意外そうな笑みを浮かべる神坂の眼が見え、
ここからだと気を引き締めた。
◇◇
舞台は黒羽の超光速許容空間-開闢空間に移る。
臨時戦闘用空間。情報量は最低限。
物質はほぼ無し。
すなわち、真空かつ無重力。
鍔迫り合いを繰り広げていた二人は地面との摩擦というアンカーが無くなりそのまま高速で離れる。
──さて、ここで問題が一つある。
まだ外側には神坂の防御層、力学結界が存在する。
しかし、黒羽はそれを利用した。
力学結界に内側から切り込み、あえて自動防御、ベクトル干渉を受けたのだ。
勢いのまま退く神坂と、反転してそれを追う黒羽。
超光速許容空間という環境に移った影響で互いの放つ弾幕も変化する。
神坂は相変わらず《魔力の弾》。
黒羽は《超光速粒子砲》。
◇◇
──超光速粒子砲。
黒羽反逆事変の際に根鈴を巻き込んで神坂を被ばくさせた曰く付きの術式だ。
だが、黒羽本人はそれを罪悪感の象徴としないよう、
根鈴の被ばくという自身の術式に対する悪印象を払しょくさせるため、
たゆまぬ努力を続け、一つの到達点に至った。
反射光が青方偏移し、高エネルギーの放射線になるのならば、それを防げばいい。
そしてできたのがこの漆黒の弾頭だ。
ミクロレベルの構造色によって可視光は吸収。
開闢空間という漆黒の亜空間に溶け込み暗殺に長ける、
という副作用ももたらした。
……。
そもそも超光速なら認識する前に対象に着弾するけど。
◇◇
神坂の《魔力の弾》の弾幕が視界全体に広がる。
しかし、神坂から目は逸らさない。
《超光速粒子砲》を撃ち込み続ける。
自身を超える期待。
管理者としての矜持。
今、彼は揺らいでいる。
ここは既に神坂の自動防御領域の内側だ。
手作業で超光速粒子砲にベクトル干渉して防御するしかない。
いや、超光速で飛来する以上、それも不可能だ。
魔力量の差、絶対的な量にものを言わせてしらみつぶしに空間を捻じ曲げて逸らしている。
神坂を後手に回らせている。このまま押し切る──
……。
突如、空間歪曲が晴れる。
その場所にはこちらを撃ち抜くように、
こちらを見据え、示指と中指を向ける神坂の姿。
──レールガンだ。
身を翻し、ベクトル干渉を併用。
持てるすべての手段を使って、しかし最小限の動きで次に移れるように。
やり過ごす。
……。
今更、レールガン?
続いて眼前の神坂が両手をこちらに掲げる。
周囲空間の誘電率が変化してる。
レールガンが誘電体を空間にばら撒いた?
気付くのが遅れた。
おそらく、雷撃。
もしくはそれに準ずる攻撃が来る。
今は超光速粒子砲の発射体勢に入っていて無防備だ。
せめて、差し違える。
最期の一発となるであろう《超光速粒子砲》を放った後に──
◇◇
■戦闘結果
▶敗北ルール:
第一種致命傷(失血死相当)をうけた時点で敗北判定。
▶結果:
引き分け
(※神坂側が0.01秒早く致命傷を与えた)
▶決め手:
黒羽→神坂:《超光速粒子砲》
神坂→黒羽:プラズマ体EML→プラズマ砲
▶戦闘時間:
181.31秒
主観時間:
戦闘時間*(思考加速性能)(行使割合)
神坂:181.31*(1.42*10^6)(32%)sec
黒羽:181.30*(2.31*10^5)(75%)sec
※思考加速の仮想戦闘における評価ってどうなるんだろ
◇◇
■戦闘後
◇◇神坂視点
ふぅ。いい成長を見せてくれた。
しかし引き分けるとは。
ルールはちゃんと確認しないとね!
黒羽の成長に感心していると、
こちらを見てニヤリとしているMIFと目があう。
からかわれるな?これ。
「いくら感心しているからって引き分けはよくないなあ」
「……別にいまからお前ともう一戦して叩き潰してもいいんだぞ」
「その体力はどこから出てくるんだよ」
そうしているとREFに引き分けになるってわかってたのか?
と詰め寄る南下たちが見えた。
ああ、そうだった。そういわれてみるとこいつこの黒羽の成長ぶりを予測していた口ぶりだな。
俺ですら対処が遅れたのに?どうなんだ。と俺も詰め寄ってみる。
「言っただろ、ネタバレ注意だって」
とその詰問の中心であるREFは笑みをこぼしていた。
その一方黒羽に健闘をほめる他メンバーの喧騒も聞こえる。
「引き分けだぞ!すごいなお前」
「俺が見込んだだけある……」
「糸代が見込んだ……ねぇ」
「まあこいつはやりそうだと思ってたがな」
「せめてこの黒瀬さんレベルの格を手に入れてから言うセリフだぞ糸代」
「なんかせっかくの上位管理者のお褒めの言葉が捻じ曲がったぞ!」
「論点がずれた!」
そんな喧騒の中心でやいのやいのともまれる黒羽。
その姿を少し離れたところから眺める根鈴の姿が見えた。
……どれどれ。《読心術》。
見える気持ちは純粋な賛美。
仲間とともに笑う姿、肩の荷が下りたような姿を喜ぶ心。
でも、その仲間に遠慮していつ声をかけたらいいか分からない、困惑と寂しさ。
……一肌脱ぐかね。
その根鈴の背中を優しく押す。
突然のことに震えてからこっちを見る根鈴の目。
「行ってこい」と、いうのは野暮だろう。
ただ、隣に並んで、黒羽の姿を眺める。
「今回はご苦労だったな
……いや本当に、俺に抱えられて宙間戦闘とか、さ」
「……ほんとですよ」
返す言葉もないぜ!
「でも、あなたが黒羽さんのもとに運んでくれたから、
私の声が届いて、黒羽さんは戻ってこれた」
「……ああ」
「それだけで、よかったです」
そうして話していると、黒羽の目線がこっちに向く。
根鈴の姿を見て道を空ける黒羽の周りの法術師たち。
みんな察しがいいな。
改めて、根鈴の背中を叩く。
勇気すら科学的に解析して、魔術で干渉できるが、そんなのはいらない。
その期待に応えるように勇気を出して声をかける根鈴。
どぎまぎする黒羽。
……漢みせろー。
とか思っていると、黒羽の上から水が降りかかる。
糸代が空気中の水蒸気を収束させて文字通り冷や水を浴びせたのだ。
おいおい。
他のメンバーに「いいところを邪魔するな」と追いかけられる糸代。
自業自得だな。もっと追い詰めろ。
──全く、気を遣うならもっと手柔らかにすればいいものを。
糸代の犠牲の甲斐あって笑顔を見せる黒羽。
その横顔を見つめる根鈴。
いい雰囲気じゃないか。
そのころ。
糸代はついに怒れる野次馬たちに追い詰められ、
──黒瀬のブラックホールに引きずり込まれていた。
黒瀬も糸代討伐隊にいつの間に入っていたのかよ。
「さっきせっかく黒羽をほめたのに注目持っていきやがって……」
……納得した。
それを見て
「海水浴場で砂場に埋められて顔だけ出してるあれだ!」
とつぶやく根鈴と隣で曖昧にうなずく黒羽が見える。
……うん。まあ純粋に楽しめないよな。
上位管理者の権能を目の当たりにしてこわばっているとみた。
おっと、こっちと目があった。
まあまだ切り札は見せてないからな。
とりあえずどや顔しておく。
「大人げなっ」
うるさいなあ。
白洲たちに総攻撃をもらう。
あー効かない効かない。
耳ふさいでるから聞こえませーん。
黒羽の顔を見ると、わずかに笑みを取り戻していた。
──その喧騒から少し離れて笑みを浮かべて見守るREF。
なんか黄昏てるな。
ツッコミしておこ。
「この未来を見てたのか?」
「こんな面白いもの、先に見るわけないだろう」
おっと?予想外の回答が返ってきた。
見ていないということは……未来予測演算していなかったのか?
ありえるな。未来予測演算は未来の楽しみを奪うから。
ふと、REFから問いかけられる。
「お前は楽しめたのか?」
楽しめたのかな。
……うん。俺は楽しんでた。間違いはない。
「ああ」
黒羽の成長も見れたしな。
その証明かのように俺たちの背景には黒羽たちの笑い声が響く。
この光景は、ハッピーエンドだろう。
後日譚ふくめ、おわり




