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蘇生魔術と空間管理者たち  作者: なー
神坂たちの視点
16/33

決戦準備

「黒羽派との決戦前夜・ブリーフィング」


◇◇ルノー視点


ADRIという組織の悲願、法術師を自身が発見した喜びはある。

“真実を独占”しているという甘美な高揚もある。

が、問題はここからだ。

「なぜ、いま発見されたのか?」


回答としては、諸事情故に浮足立っていたから、だ。

とある法術師が法術師の組織体全体から離反、内紛中。

ちなみにその遠因は我々ADRIの過激派が名も知らない彼ら彼女らを追い詰めたかららしい。


追い詰めておきながら我々は把握していない。笑わせてくれる。


報告する際は紛糾するのが予想できる。

これ報告しなくてもいいですかね……?


法術師に対して恐怖に駆られて殲滅を叫んでいる派閥、協調を望む派閥。

両方ともに心中穏やかではあるまい。もう既に目に見えているまである。


それに。

報告書のタイトルをどうする?

“法術師接触事例 第一号”――いや、まだ早い。

書けば最後、上(Director)が群がる。

……報告をしないのは非科学的か?

だが、科学を壊すのはいつだって、科学を盲信した連中だ。

それに、彼ら(法術師)は我々を“許してくれた”。

ならば、今度は我々が沈黙する番だ。



さっき別れた法術師の一人、神坂と呼ばれていた彼の目を思い出す。


まるで今の私の心理を言い当てるように微笑んで……

「そうすると思っていた」

と、過去から言われているようだ。


彼は、なんだ?人間ではない。

かといって、神でも悪魔でもない。

“理解”の形をして、なお“理性の外側”に立っている。


あれを人が見上げるとき、

理性は崇拝と畏怖の区別を失う。


──報告は、明日でいい。


◇◇神坂視点


……良かった。

彼が組織への報告を見送ってくれて。


来たのが彼でよかったよ。


報告を企図していたら、記憶干渉を強引に行っていたところだ。


《目標:Vec(0,-1.2,3474)[m]》

《個体名:ルノー・シュワルツェ》

《思考ログ:……あれを人が見上げるとき、

理性は崇拝と畏怖の区別を失う。


──報告は、明日でいい。》


拡張脳のHUD表示、読心術結果詳細を目線だけ動かして確認し、


「ニューラルネットワーク干渉終了

ログアウト

……読心術(2型)、発振終了」


しかし、ポストヒューマンとはいえはっきり人間ではない、と畏怖されるのは仕方ないが不本意だった。


「俺の所為で基底世界と法術師連合の迎合が遅れたらどうしようね」


どうせ、今回すら見送った時点で俺の行動は誤差の範疇だろう。

と思うからこそ、その声にはいくばくか冗談めかす雰囲気が含まれていた。

しかし、その言葉の奥にほんのわずかな焦燥が混じる。


空間ログが静かに閉じる。

観測対象ルノー・シュワルツェ──協調の可能性あり。

記録を残さず、削除を選ぶ。


直後、耳朶に通信が刺さった。


『神坂、読心術は切れたか?』


MIFの声だ。

いつもの軽口混じりの調子ではない。

背後の通信ノイズには、複数の法術師の魔力揺らぎが混じっている。

つまり、集合だ。空間転移の準備を整える。

通信から座標を逆探知。いつものことだ。


「切った。解析も終わり。……どうした?」


『ブリーフィングだ。

黒羽派──反逆軍、空間要塞を開闢した』


「……早かったな。建設は半年はかかると思ってたが」


驚いた。てっきり別件の集合かと。

……いや、すっとぼけるのはやめよう。

仮にも俺から一回逃走している。脅威度評価を上方修正すべきだ。

数日以内で防御ライン構築なぞやってのけるだろう。

むしろそうしないといけない局面だ。


『南下が動いた。恒星ごと持ってきたらしい。』


「はは、やるねえ。あの男はやっぱり“観察者”じゃなく“実行者”だな

……いや、南下?」


『逃走先が南下の所属空間だったとのことだ』


「あのモノ好き暇人に、とは悪運が強い」


短く笑って立ち上がり、転移座標を呼び出す。

足元の空間が薄く波打つ。


『座標は転送済み。第2会議空間に集合だ。

xect、REF、それとMIF本隊がいる。』


「了解。──接続」

《転移点:Vec(0,0,0)→第1広域空間群・第12空間/中枢会議層》


視界の端で光子が空間を捩じ曲げる。

数ミリ秒後、人工重力の揺らぎが足元に戻った。


◇◇


室内にはすでにMIF、矢場、根鈴、そしてxectが揃っていた。

壁面に投影された立体ホログラム──黒羽の開闢空間の観測映像が映る。

恒星を中心にリング状の構造体が三重に交差している。


「……反乱軍の要塞、完成したらしいな」


◇◇法術師連合・第1広域空間群 第12空間 会議記録


「さて、黒羽派──反逆軍の動向について整理する」


MIFが軽く指を弾くと、空間にホログラムが展開される。

恒星を中心に、三重のリング構造が回転している。

おそらくこれが黒羽たちの開闢要塞だ。


「恒星系ごと転移、恒星を中心に三軸リングを回転させて人工重力を得ている。

三淵・古俣・糸代・南下・黒羽、主要構成員。

あの要塞が恒星フレアを制御可能なら、通常の空間管理者クラスでも突破は困難だ。」


REFが口を開く。

「外縁部に宇宙艦隊が展開している。橋明とLXの艦隊群だ。

黒羽たちはすでに“戦う体勢”を整えている。」


「それにしても……要塞の設計が黒羽らしいな」

神坂が指先で光の線をなぞる。

「防御結界を魔力フレアと同調させて、恒星活動そのものを防壁に転用している。

物理的にも、精神的にも、誰も近づけない構造だ。」


「皮肉だな」

MIFが肩をすくめる。

「彼は、かつて“守るために”術式を磨いた。

今は“守らせないために”使っている。」


「恒星を中心に回転軌道を形成。人工重力で恒常化。

エネルギー反応、出力2.8×10^16W。……一国分だ。」

MIFが淡々と解析値を読み上げた。


「随分と派手な“独立宣言”だな」

神坂は軽く笑った。だが視線は真剣そのもの。


xectが腕を組む。

「問題は、これを潰すか、交渉するかよ」


「潰すなら、恒星ごとやるしかないな」

「交渉するなら、誰が行く?」


その一言に、全員の視線が自然と神坂に集まる。


「……まあ、そうなるか」


「……さて、問題はどうするかだ」

xectが静かに立ち上がる。

「私は直接干渉を避ける。空間系統の崩壊リスクがある。

神坂、MIF、REF──あなたたちが接触を試みなさい。」


「了解」

神坂が短く応じ、視線をMIFへ送る。

「時間をかけると敗北する。やるなら今すぐだ」


MIFは少しだけ笑った。

「後続の攻略部隊も結成しつつある。

仕事は残せよ?」


「説得が失敗した場合は、俺が“いつもの役”をやる。

君は“言葉”のほうを頼む。」


「了解。俺は言葉を、君は銃を、か。

難しい役回りを押し付けやがって」


「お互い、やることは変わらないさ。」


通信が終わり、空間が静まり返る。


◇◇


xectの背中が消えると同時に、神坂はHUDを再展開した。


《作戦コード:Reconciliation / Phase 01》

《目標:黒羽 蘇芳》

《目的:接触・説得・停戦提案》

《補助目標:根鈴 和沙との接触成功》


「さて。説得……ね。」

思わず笑みがこぼれる。


「根鈴の立場なら具申したくもなる。

人間の説得術って、いまも通じるのかな。」


「あのっ」


振り返ると緊張した顔の根鈴だ。


◇◇根鈴視点


空間が静まり返ったあと、

しばらく誰も動かなかった。


会議が終わったのに、

足が床に縫いつけられたみたいに動かない。


ホログラムの残光がまだ部屋の空気に残っていて、

黒羽さんの作ったあの要塞の輪郭が、

まるで記憶の残像みたいに私の視界に焼きついていた。


「恒星ごと、か……」

無意識に呟いていた。


その規模がどれほどのものか、

私でも想像できる。

でも、私が感じているのは恐怖じゃない。


──罪悪感だ。


黒羽さんは“守るために”術式を磨いた。

それを知っているのに、

その結果が“守らせないための防壁”になった。

その矛盾の理由を、私は知っている。


ADRIが、彼を、追い詰めた。

その中には、あのときの私の叫びも混じっている。


「……私のせいだ」


その言葉は、誰にも聞かれないように呟いた。


神坂さんは何も言わなかったけれど、

彼の目は、たぶん最初からそれを見抜いていた。


そういう人だ。

理屈で人を観るけれど、決して冷たくはない。


転移しようとする神坂さんが、視界に入った。

神坂さんは一瞬だけ私の方を見て、

何も言わずに転移ゲートを開こうとした。


「……黒羽さんを、お願いします」

言葉に出した瞬間、胸の奥の何かがやっと動いた気がした。

その何かに背中を押されて。


……その背に、気づけば私は叫んでいた。

ようやく声が出た。


「──私も行きます!」


空気が止まる。

反射的に振り返った神坂の目が、淡く光る。


「……理由を聞こうか」


「私がいないと、あの人はきっと……

誰の言葉も届かないからです」


自分でも驚くほど、はっきり言えていた。

あの日から胸に溜めていた言葉が、ようやく形になった。


けれど、その声は震えていた。

祈りではなく、懇願だった。


神坂さんの目線が痛い。視界が遠くなる。


ちがう。これはたぶん恐怖。黒羽さんと顔を合わせるのが怖いんだ。


「……良くたどり着いた。正解だ」


頭上から声がかかる。

顔を上げるとさっきまで黒羽さんの要塞ホログラムを睨んでいた人たちが、

こっちに微笑んでいる。


REFは腕を組み、何も言わない。

xectだけが、ゆっくりと視線を上げた。


「……神坂、連れていきなさい」


「判断が早いな。

……予定調和か?」


「彼の“原点”は、その子です。

よって説得はその子しかできない。」


「鍵はこの子……か」


「ええ。未来の回答用紙にはそう書かれていますよ」


「了解」


神坂が空間座標を再設定する。

光が二つの影を包み込む。


「行くぞ、根鈴。

……この先は、綺麗ごとじゃ済まない。」


「ええ。それでも──行きます。」


「……証明して見せろ。黒羽との関係を」


彼女の声は震えていたが、

それでも前を見据えていた。



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