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蘇生魔術と空間管理者たち  作者: なー
神坂たちの視点
15/33

曝露

ADRI・法術師合議ログ


警戒が場を満たす中、まず、切り出したのはMIFだった。

「さて、互いに互いは把握しているだろ。

軽く自己紹介だけするぞ」


「まあ、神坂たちの意を汲んで、

──最上位管理権限者、xectです」

「まあ、階級順でいいか。

──神坂 樹、上位管理権限者だ」

「MIF・管理権限者」


どう名乗ればいいか困惑する残りの二人に神坂が声をかける。

「君らは……まあそのまま名乗っていいよ」

いまさら法術師という語句を隠す段階ではない。

本題は空間管理者の情報検閲。

……これを守るためには法術師の情報は餌にする。


「分かった。──矢場 真・二級法術師だ」

「根鈴 和沙・四級法術師です……」

「なるほど“法術師”……。

やはり、私たちが追い求めていた“法術師”か」


ルノーの喜色の混じった発言。

これにMIFと神坂は表面上は当然かのように応じる。


「まあ、否定はせん。

……隠し通す状況でもない」

「まあ、肯定はしておく」


あくまで表面上は、だが。

なにがこちらにとっての隙になるか分からない。

だからこそ、神坂の援護射撃にはさすがにMIFですら安心感を覚える。


「ふふっ、嬉しいね。

……さて、もう一つ。

“管理権限”とは何を管理している?」


……やはり来た。まずは遅滞戦闘を神坂は試みる。


「……まずは、なぜ君がその単語に注目したかを聞かせてもらおう。

場合によっては記憶を消させてもらう」

「いや、ただ気になっただけですよ。

──管理とは、支配か、それとも保護か」


「……いや、ただの指揮系統だ。気にしなくてもいいが……」

「まあ定義はどうとでも言える。ただ一つ、我々が我々の無秩序を許さないということだ」

当然、これでは引き下がるまい。


「“秩序”。ふふ、言葉の響きはいいですが……

後半に自己紹介したお二方、

……おそらく管理されている側はどう思っているのですか?」


……根鈴と矢場に矛先が向いた。

根鈴がおずおずと答える。

「私たちは……それを

……あなた方を正しく見守るために……行使するために」


「どのように?

何を管理してわれわれへの保護の、

いえ、“正しく見守る秩序”を管理していると?」


容赦のない反撃に根鈴が短く悲鳴を上げる。

それをかばうように矢場が補う。

「……法術の、だ」


神坂はルノー……ひいてはADRIへの評価を心の内で上方修正。


(まあ、さすがに奴らも馬鹿じゃないらしい。

……ここの全員、話を合わせるぞ。

めんどくさいから空間管理者の情報まで誘導する)


真実の断片を眼前にぶら下げる方針に変更する。

そう判断したと同時に指向通信。ここにいる法術師たちに方針を共有する。

と、同時にその情報共有を悟られないよう発言する離れ業を行う。

「……正確にはその“正しく見守る秩序”の基礎たる正しき運用、を管理している。

ここで言う、矢場と根鈴たち一般階級の監視と言い換えてもいい」


「……へえ?“正しき”、ねぇ……。

──われわれADRIではいくつか法術を観測した記録資料が残っている。

……こんな多層的な監視を潜り抜けてわれわれADRIに捕捉された、というのか?」


認識されているのか。誰が?などと犯人捜しを無意識に脳裏で始め、

即座にそんな場合ではないと思いなおす。

「まあ、そっちにあるならそうなんだろ」

と、一瞬の後にMIFがすっとぼける。


が、反撃。

「特に、今の話を聞いてあなた方管理者の表情が変わらないのはおかしい。

管理しきれていないではないですか」


「……すでに把握しているからな。

管理はできているさ」

神坂の発言は実際正しい。

とある前提がなければ。


「いや、それはおかしいはずです。

先ほどあなた方が言っていた、“記憶干渉”。

それでわれわれに干渉していないというのは違和感を覚えます」


記憶干渉。先ほどの会話を聞かれていたか。

「記憶干渉されたいのか?」


「話題をそらさないでいただきたい。

……というよりほとんど記憶干渉はされていないように思えますが」

さすがに論点をずらす戦法は通じない。


ならばと、矛先ではない人物、矢場が口を挟む。

「われわれの使う法術、記憶干渉術式の行使すら、

より上位に監視されているんだよ」


「へえ、ここに最上位管理権限者とやらがいるのにですか。

と、いうよりそこの神坂さんは独断で記憶干渉をしようとしていたように見えましたが?」


神坂たち法術師に沈黙が下りる。

さすがに矛盾が出すぎた。


「答えられません、か。

──ならば話題を戻しましょう。

──本当にあなた方管理者は法術の行使を管理しているのですか?」


ついに管理対象の真偽に触れられた。

ルノーの口撃は続く。


「先ほど、ADRI拠点から“空を曲げている”報告がありました。

……空を管理しているのでは?」


根鈴たちから悲鳴が漏れる。動揺を隠しきれなかった。


「やはり、ここに何かありそうですね。……“空間”」

「……!」


なぜそれを。いきなり核心を当てられた。

すっとぼけてもいいが、根鈴たちの動揺を悟られた以上手遅れだ。


「引っかかりましたね。……本当に“空間管理者”なんですね」

「──認めましょう。確かにわれわれは……この空間たちを管理・制御しています」

「では……改めて、本来の自己紹介をしていただきたい」


「仕方ないですね。

──法術師連合総帥、xectです」

「まあ、誘導していた感あるけどな。

──神坂 樹、第1広域空間群管理者だ」

「わざとっぽいんだよ、あんた等。

──MIF・第1広域空間群・第12空間・空間管理者」


一応、神坂が補足する。

「ああ、第1広域空間群・第12空間というのはこの世界のことだ」


それに続けて残りの二人も自己紹介をする。

「矢場 真・二級法術師だ」

「根鈴 和沙・四級法術師です……

あの、私たちまでもう一回いう必要はあったんですか?」


「ないな」

「ないのかよ」

MIFと矢場から軽口が漏れる。

緊張感が続いている以上、根鈴たちへの負担を危惧したMIFの気遣いだ。


その一方神坂とルノーの対峙はまだ続いている。

「なるほど“広域空間群管理者”……

案外こちらの記録よりも“空間管理者”は多層的なのですね」

「当初俺たちはその情報すら渡すつもりはなかったがな。

……これ以上は踏み込ませんぞ。次の質問を誤れば先ほどアンタが出した“記憶干渉”だ」

「味わってみたい気もしますが……まあいいでしょう。十分です。

で、なぜこの状況に?」


「──我々の中からお前らADRIへの攻撃を企図する勢力が現れてな」

これこそが伝えたい情報であり姿をさらすことを許した理由だ。

「と、いうわけであなた方にも危機感を持ってもらおうと思いましてね」

「ま、腹の探り合いをするほどこちらに余裕がない。真実だと思っていいし、ADRIに報告してもらってもいい」

「つまり、協力体制だと?」


「そうだな、戦力面でそちらにはできることは無いだろうが……」

「国家中枢とかへの通達はそちらからのほうが円滑ですからね」

神坂が肯定し、xectが具体策を提示する。

ただ、協力するといっても、全員がすぐに納得できるわけはなく。


「……もともとはあなたたちのせいです。

あなたたちが黒羽さんを追い詰めたから……」

根鈴のADRIへの怒り、黒羽の豹変の理由たる元凶への思いが漏れ出る。


「……身に覚えがありませんね。詳しく聞いても?」

「……っ。襲撃しておいて覚えてないって……!」


口に出した瞬間、根鈴の喉が震えた。目の前の男に怒りをぶつけながらも、

心の奥では、今の行動と黒羽の行動との境界線が掴めていない迷いが渦巻いていた。

その迷いが根鈴の感情を鈍らせ、一方でルノーに隙を与える、前に。


「落ち着け。俺が説明する。

……2年前。お前らADRI内の過激派が学園を襲撃した事件があったはずだ」

矢場が割り込む。しかしその矢場自身の胸も荒れていた。

二年前のあの日の惨劇。

砲撃で倒れた根鈴やその同級生たちの姿が想像されて、

自然と声が荒ぶ。


守るべき相手が隣にいる。

それだけで彼の思考は単純に燃え上がった。


「……ええ。即座に我々穏健派に鎮圧された記録が残っていますね」

その一方で冷静に答えるルノー。

当然だ。ルノーがその場にいたとは限らない。

水をかけられたかのように思考が冷やされる。


「ああ。根鈴……この子はその時に砲撃を受けているんだよ」

「そして、黒羽さんはそんな私に自衛手段を教えるために、

師匠になってくれたんです」

根鈴の声には穏やかだった時期の黒羽を懐かしむ響きが滲んでいる。


その成分を……根鈴たちの尊い過去をルノーに追及される前に神坂が間に入る。

「さて、加えて半年ほど前にADRI本部に襲撃があっただろう」

「……ええ。」

「まあ、犯人は俺だが。

お前らADRIがそれに懲りずに法術師候補たちを拉致・人体実験を行っていた、

……だから開放しに来たんだが……まあそれはいい」


黒羽と根鈴の過去を共有されたMIFも会話に入ってくる。

「問題はもし拉致されたのが根鈴だったら?

と黒羽が考えてしまったことにある」


「だから私たちへの攻撃を企図し始めた……と?

……なるほど。黒羽の心境も理解できます」


「そうだ。……お前たち穏健派には責任は問わない。だが、自分たちが狙われていることは認識してくれ」


◇◇


「なるほど、だから我々は国家中枢などにそれを共有。

そののちにじっとしていろ、ということですね」


「まあ、その通りだ」




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