乱入者
南下side
南下は空間転移によって別空間に転移してきていた。
胞構造空間群内の第3広域空間群・第8空間。
基底世界の文明は純科学文明。核融合炉を実用化したレベル。
人工衛星をやっと実用化し、恒星系外にいくつかの探査機を送った程度の宇宙技術だ。
あまりに空間異常がないので、文明を見守るはずの法術師たちは宇宙戦争に明け暮れている。
基底世界の文明に探知されないよう、異空間である開闢空間で。
黒瀬(広域空間群管理者)は認識しているのかというと。
認識はしていて、黙認してる。「公認の娯楽」扱い。
法術師たちは2ないし3陣営に分かれて戦闘。
ここでいう法術師はここの、第2広域空間群・第2空間所属の者だけでもない。
他の空間の暇を持て余した法術師たちの参加も歓迎している。
つまり、ここは仮想戦争専用異空間。
基底世界(基底文明のある空間)では魔術行使は厳禁。
出力制限したレーザー砲のみの戦争や
法術の制限がなく艦載法術師が制空権を左右する戦争もある。
──この時、ここは純科学兵器のみ、のレギュレーションにて仮想戦争を行っていた。
ある程度の情報量により星空を孕んで創生・開闢された仮想戦争用の開闢空間。
そこにて10光秒の距離を隔ててにらみ合う宇宙艦隊。
片方は蒼、もう片方は赤にペイントされた艦隊の内、
蒼の艦隊旗艦、ブリッジに空間管理者・橋明は10秒前の敵艦隊を肉眼で眺めて頬杖をついていた。
「さて、いつも通りの戦術でいいかな?
ECM・ECCM準備。合図に備えろ」
艦体全艦が足並みをそろえ、推進する。
いつも通りの戦術。彼がそういう通り、何度も行われている仮想戦争にたいし、
彼は気怠さを隠さない。
「射程内に入り次第、射撃開始。
全砲門開いておけよ」
右翼から光が伸びる。
「おい、まだ射程外だぞ。誰だ?」
「新任艦長の砲艦です」
「……まあ、よく目立って恥をかいただろう。いい経験だ」
もうそろそろ、互いの射程内に入るな。
「機関減速。シールド艦を前に出せ」
ここで仮想戦争のレギュレーションを紹介する。
仮想戦争とはいえど、撃ち合うのは殺傷力のある兵器だ。
死傷者を抑えるため、法術師が艦体に纏わせる結界を破ったら撃沈判定。
そして旗艦に撃沈判定が下れば終了。敗北。
という形だ。
というわけで。
旗艦の前方に艦隊のシールド艦を配置するのは当然だ。
シールド艦が橋明の眼前で防御陣を形成するや否や。
「敵艦隊、発砲!」
「こちらも攻撃しろ」
「対艦ミサイル検知。この艦に誘導されています」
「迎撃。こんな序盤から弾薬を使いすぎるなよ」
旗艦側面から光の雨。そこに光が逆流するように突入して、
爆発。
「──前が見えねえな。爆炎による電波妨害に警戒しろ」
「──突入艇を検知!接近してきます」
「あちゃー。爆炎の影から突っ込んできたかー」
と同時に。船全体が揺れる。前方を見ればシールド艦の表面で折れた光の軌跡。
敵艦隊の砲撃がシールド艦に当たった。
まあ、この程度では平気だが。
しかし、その隙に突入艇に取りつかれた。
防御銃座が迎撃しようと躍起になって光の雨を降らせる。
「やはり乱戦になったか。
……こちらの突入艇は?」
「敵艦隊の懐に入っています」
「……普段通り、敵艦隊に接近するぞ」
もう少し引き付けて……。
「主砲の有効射程に敵艦隊を捉えました」
「発射。連射速度を見せつけてみろ」
「了解!」
艦隊全体から光が伸びる。
が当然、向こうも撃ち返してくる。
光の筋が交差する。
「艦隊左翼、駆逐艦D-14撃沈判定!」
「艦隊右翼、巡洋艦C-5中破!」
被害が出てきた。仕事を始めるか。
敵側は撃沈した艦には射撃は禁止。撃沈された側は艦内の法術師、
もしくは旗艦の空間管理者に安全圏まで転移してもらう。
こっちでは橋明の仕事だ。
座標定義。目標は左翼駆逐艦D-14。半径200メートル。
空間転移。
と、被害を受けた友軍の退避に集中していると。
「敵艦隊、前後に別れました!
手前側のグループが吶喊してきます!」
「レーダーに影!艦載機です」
おっと?
前衛の艦載機だろう。手数を増やしてきたな。
「本艦に艦載機接近!数5!」
乱戦状態に入った。こうなると戦艦は弱い。
えーと?今は艦載機に取りつかれていて、敵艦隊は前衛と後衛に別れているな。
いつもの戦術、いつもの撃ち合い、いつもの突入艇。
普段通りの流れ。様式化され、半ば飽きかけたそれに、
今日に限っては異常事態が発生した。
退屈なはずの舞台に、突然、筋書きにない幕が降りてきた。
使わないはずのアラート。空間歪曲アラームが艦橋に鳴り響く。
「直上に空間歪曲!
超空間転移です!」
「は?このタイミングで?
それよりそんな予定も予告もなかっただろ。
向こうの新兵器か?」
「不明です。少なくとも敵艦隊は空間歪曲には関わっていません」
「敵艦隊、空間歪曲に発砲!」
「空間歪曲の強度増大中」
「ECM解除。射撃停止しろ。
明らかに異常事態だ。向こうの旗艦に通信」
星空が歪む。何が出てくるのか。どこからなのか。何の情報もない。
「敵艦隊の砲弾、消失!」
「解析しろ」
目前のモニターがズーム。軌道演算が可視化され、
重ねあわされ、正しい事実に収束する。
「解析結果出ました。力学結界です」
「……いや、法術師かよあれ。
通達しろよ、仮想戦争区画だぞここは。
現に撃たれてるし。文句は言わせんぞ」
モニターの中で砲弾の破片が周囲にきらめく。
爆炎に照らされて星空が局所的に濃くなる。
◇◇
「……ところで敵艦隊の応答は?」
「──ああ、悪い悪い。少し手間取った」
敵……いや、敵役の艦隊旗艦艦長、空間管理者LXだ。
相変わらず軽薄な印象だな。
LXは続ける。
「──……悪いついでで言うと、俺らあいつに発砲したんだよな。
砲術長がガチで焦ってたぞ」
「まあ、互いが互いの新兵器と疑っていたからな。
向こうが予告してないのが悪い。
双方ともに予想外だ。フォローしておけ」
「──了解っと」
そこに割り込む第三の声。
──「まあ、そうだな」
空間の、背景の歪みが収まった後には一人の人型が浮いていた。
……驚きはない。法術師である以上生身で電波通信くらいできるだろう。
それより。
「突然出てきて、どこの所属だ?」
──「第2広域空間群・第2空間・準空間管理者・南下だ」
──なぜ、準管理者級がこんなやり方でここに来た。
「参加希望か?悪いがもう締め切ってる」
まあ、無いだろうけど。だったらまず通信をよこすはずだし、礼儀だ。
──「いや。あんたらを本物に招待しに来た」
◇◇
仮想戦争に明け暮れる俺たちにとって“本物”とは仮想ではない戦争のことだ。
日常が変わる希望を心の奥に感じる。ただ、
「それで来たのが準空間管理者?」
俺たち空間管理者二人からしてみれば申し分しかない。
状況から読心せずともわかる。こいつの目的は。
「つまり、戦力不足だから拡充のための勧誘だな」
本当に俺たちを使えるのかという疑問もある。
とはいえ、本物の戦場に関わりたい気持ちもある。
というところまで考え、肝心なことに気付く。
「というか、本物って何するんだ?」
南下は口角を上げる。
「法術師連合への反逆だよ」
法術師連合への反逆。
それは、広域空間群管理者以上も、特に神坂が敵になる。
格上の、さらに上澄みが間違いなく敵になり、上澄みではない格上も十分脅威だ。
──無謀だ。しかし、それゆえに惹かれる自分もいる。
迷っていると背を押しようにLXから声がかかる。
「──乗ろうぜ橋明。退屈な仮想戦争よりよっぽどマシだ。
ただし条件がある」
◇◇
LXと奇しくも同時に空間転移。
この仮想戦争を管理する2人が乱入者と星空の中で向かい合う。
その直後、LXが南下に切り出す。
「俺たち直々にお前の意思を図らせてもらう。
無制限の法術戦で確かめてやる。」
結局2対1。しかも、空間管理者2と準空間管理者1だ。
ということで。
「もちろんハンデをつける。
そっちの勝利条件は二人の魔術のトリックを暴くこと。
自己紹介も兼ねられていいだろう?
敗北条件は……そっち側が気絶するまで。手加減はしてやる」
まああれだ。彼らの“本物”に参加する前にデモンストレーションだ。
「ああ、それでいい。始めよう」
双方にとっての前哨戦、“本物”が幕を開ける。




