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Love On Ice  作者:
3/4

Daily life2

つまらない授業を受ける。

私がこんな授業で考えるとすれば私と狼の練習を密着したいというあのカメラマンでどう遊ぶか、唯ひとつだ。


隣に座っている狼を見ると目が合う。

「(何見てんのよ。)何?そんなにあたしが好きだからって見つめてると火傷しちゃうぞ☆」

その言葉に狼の頭が垂れる。

「(は?火傷?)そんなに見てねぇよ。」

「(見てるから聞いてんのに。)じゃあ何?はにぃ通り越して誰を見てんのよ!この浮気者!はーちゃん泣いちゃうんだから!!」

私はプイと顔を狼から背けた。

ちなみに狼は無意識で葉央を見てることに気づいてない。

「はいはい。」

そういうと狼は私の顔を元に戻して耳元でささやく。

「お前しか見てねぇよ。は・に・ぃ。」

彼の言葉に私は真っ赤になった。

いくら冗談と分かってていても自分の想い人からそう言われて赤くならない訳がない。

「(この天然タラシが!)」

私はぶつぶつ言ってるのが余程面白かったのだろう。

「くっ、今回は俺の勝ち!」

実はこの二人、両思いなのだが、ある約束のためお互いにそれを告げるのは絶対にないのだ。

ちなみに周りはというとこんな二人を微笑ましく見ているのだった。

ついでに言うと、只今授業中である。

紫苑サマのお怒りまで5秒前。


「このバカップル!!授業中くらい大人しくしてなさい!!!!」

ゴンっという音が教室内に響き渡る。

紫苑は困っていた教師に向かってニコリと笑った。

「先生。どうか授業をお進めください。」

「(かっかわいい…。)お、おう。」

かくして紫苑サマは教師陣(男女共に)に絶大な人気を誇っているのだった。


紫苑が騒ぎを抑えた後は何事もなかったかのように落ち着いた普通の授業風景が見られた。

初夏のじめじめした暑さが授業へのやる気を削ぐ。


キーンコーンカーンコーンと授業の終わりを告げるチャイムが鳴ると狼と私の周りに人が集まってきた。

愉快な仲間たち勢ぞろいだ。

「お前ら授業中までいちゃついてんなよ。」

「そうそう!独り身の俺らには毒だっての!!」

始めに話した黒の縁がいかにもなイケメンは蓮見爽だ。

紫苑同様「おしいねー!はじゃなくてかだったらカスミソウだったのに!」と言ったら「リアルに犯すぞ。」と脅された。

まぁその後狼の後ろに隠れて難を逃れたのだが。

奴は男版紫苑だ!気をつけろ!!


紹介すんのが面倒だがその後に話したやつは馬鹿で変態の綾小路伸一郎だ。

何が綾小路だ!

お前なんか行き着く先々が袋小路で途方に暮れろ!


「俺をお前と一緒にすんな。」

伸一郎の言葉に反応して爽が伸一郎を冷静にグーパンチで殴った。

「えー!何でだよ!!」

「(うるせぇ。)それより、いちゃつくなって話だ。」

狼は否定する。

「いちゃついてなんかねーよ。」

「あれをいちゃつく以外に何ていうのよ。」

呆れたように紫苑が言う。

「戯れ?」

私がそう言うと紫苑にほっぺをつんとされた。

「まぁどうでもいいが、紫苑の手を煩わせるなよ。」

はぁと片手で頭を抱えながら爽が言った。

紫苑と爽は恋人…というわけではなく、従兄弟という関係であり、また婚約者という関係だ。

そんな中莉子は教室の隅に向かって話し出した。

「貞夫さん、変態なんか慰めたらまた成仏すんの遅くなるよ?」

伸一郎の抗議なんか普通に皆無視だった。

だから教室の隅っこでのの字を書いていた。

唯一貞夫(享年85歳)が慰めていたようだが。

「貞夫さん、変態は駄目だよー!いくら男好きでも。あれはごみ虫以下だよぅ。」

莉子は教室の隅にいるだろう貞夫(享年85歳)に呼びかける。

「「「「貞夫はゲイだったのか!?」」」」

意外な場所で衝撃の事実が発覚した。

当の慰められていた伸一郎は未だのの字を書いていた。


SHRも終わり、放課後となった。

「じゃ、行くか。」

そう狼は言うと、私の手をとった。

これは思春期、恥ずかしいからといって競技中に手を握らないというわけにもいかない。

だから敢えてそれを乗り越えるために登下校と言わず、普段から二人で歩くときは手をつなぐ。

「うん。」

二人して教室を出ると例のカメラマンが待ち構えていた。

「(え!まさかラブラブなの!?)や、やぁ。」

カメラマンは片手を挙げて挨拶した。

「(よくどもるな。)やー。」

私はカメラマンの真似して、さらに飛び上がってみた。

「馬鹿。」

コツンと狼に頭を殴られる。

「馬鹿じゃないもん、ぷー。」

唇を尖らせて目線だけ狼に向けた。

「(やば…。)はいはい。」

カメラマンはそぅっと二人に尋ねてみた。

「ふ、二人は恋人同士なの?」

「違うよー。」

「え、そうなの?(あんなに甘い雰囲気で?)」

「オリンピックで金獲るまで、もし相手のことが恋愛感情として好きで付き合ったとしても別れて競技に影響が出る可能性が少しでもあるなら、それなら伝えるのはよそうって二人で決めたから。な、葉央?(俺は昔からずっとお前一筋だから別れるなんてあり得ないけど。)」

「そだねー。(あたしにはずっと狼だけだったから別れるなんてことなったら演技どころじゃないし。)」

「へぇ、そうなんだ。(意外に考えてるんだな。まぁ二人が想い合ってるのは一目瞭然だけど。)」

「じゃあ、今からリンクに行くんで着いてきてねー。」


かくしてカメラマンは二人についていったのだった。


リンクに着き、練習着に着替え、まずはストレッチ。

まだコーチは来てないようだった。


カメラマンはその様子を撮っている。


「じゃあ、軽くアップね。」

私は狼の手を取るとリンクに入った。


同じスピードで、同じ動きで二人は駆け回る。

その二人の姿は鮮やかだった。

お互いを見つめあい、微笑みあう。

カメラマンはそんな二人を見て思う。

「(互いを想い合ってる彼らが結ばれる日はそう遠くない。)」


コーチが来て、細かな動作の練習だ。

「狼!もうちょっと葉央に近づいて!葉央!あんたは狼を置いて行くな!」

怒声が響き渡る。

先ほどまで見ていた授業風景の彼らなんて微塵も思わせない程彼らは真剣だった。


「狼!スピンの速度がちょっと速い!葉央!もうちょっと手はしなやかに!」

彼らのコーチは厳しかった。

妥協は許さない。

それは彼らもそうだった。

「じゃあ、今から通しでフリーの演技ね。」

その言葉でフリーの曲が流れてくる。

曲は映画「タイタニック」からだ。


先ほどのコーチの指導が良かったのだろうか、二人の距離は近く、スピンの速度も回転も合っているししかも速い。


カメラマンはゴクンと息を呑んだ。

素人目に見ても凄い演技だった。

そして思い出した。

紫苑の実力者という言葉を。

気付くと涙がこぼれていた。

なんて悲しいのだろう。

見るものをタイタニックの世界に引きずり込む、そんな演技だった。


私たちは滑り終えるとカメラマンの傍に寄った。

なぜなら泣いていたからだ。

「どしたー?」

「泣くほど俺らの演技良かった?」

カメラマンは無言で頷く。

「いやぁ、感動したよ。もう何て表現したらいいんだろう。言葉で表現するのがおこがましいくらいだ。」

私たちは二人互いに顔を見合わせ微笑んだ。

嬉しかった。

次も期待してる、なんて言葉なんかより、こんな素直に言ってくれる言葉が私たちには嬉しかった。


「取材させてくれて本当にありがとう!!これからの取材も絶対俺、来るから!!あんなすばらしい演技、見られるんなら仕事だって大歓迎だ!」


私たちは声をそろえてこう言った。

「「有難うございます。」」

彼に初めて敬意を払った瞬間であり、彼と長い付き合いを予感させる瞬間だった。


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