5.フロドラの森
「"Flock of Doragons"龍の群れってことですか?」
「そうです。2m程の大きさのドラゴンの群れが良くいる場所なんです」
ドラゴン!?実在するのも驚きだが、目の前には耳の長いエルフがいるのだ。流石異世界だと思うべきだろう。2mほどの大きさのドラゴンという事は、イメージとしては渡り鳥の様な感じだと考えた方がいいのか?
「それは…どれくらいの高さを飛んでいるモノなんでしょうか」
「普段は大体、あの尖塔の倍くらいの高さを飛んでいます」
ユスティーナが指さす先を見ると、窓の先から城の立派な尖塔が見えた。大体100ft(約30m)程、倍という事は200ft(約60m)ぐらいだろう。流石に旅客を運ぶ航空機が、その高度を巡航している筈はない。
「では、そのドラゴンの群れがそれ以上の高さにいることは?」
「いや~、いつも見るのはそれくらいというだけで、それ以上は分からないです」
「なるほど、ありがとうございました」
もし、バードストライクだと考えるのならば、いやドラゴンストライクか。名称はどうでもいいが、ドラゴンの群れに空中で遭遇して、2発のエンジンが停止した。もしくは機体のどこかを破損したか。
「まだ機体がどういう状況なのかは、分かってないんですよね?」
「引き続き調査中だ」
「分かりました。では皆さんに見て頂きたいものが」
「ほう」
隣の会議室に集合した3人の前に、時系列を書いたホワイトボードと、レーダーの画像を並べて、事故概要を照らし合わせる作業を始めることにした。これをすることで認識の違いや、新しい発見なんかがあるかもしれない。たとえ解明されている事だったとしても、自分の考えの裏付けになる。
「では、説明を開始します。まず結論から言うとKA132便は、森にいる大きい生物、もしくは小型の生物の群れに衝突したのではないかと考えています。ホワイトボードを見てください」
そこからは、把握した時系列の説明をした。リアが頷いているので、ここまでの説明は間違っていない。
「では次に、このレーダーの画像を見て下さい。この13:40分の画像では、KA132便が消息を絶った場所付近に小さい影があります。その前の13:30分にはなくて、それ以前の画像では他の場所で、出たり消えたりしているんです」
覗き込む3人の目線は真剣だ。見比べが終わり、最初に口を開いたのはリアだった。
「そうだな、正直これは我々の中では、ノイズという事で片付けていたのだが」
「その可能性も十分あり得ます。私がいた世界では、飛行機側に”トランスポンダー”と言われる機械が取り付けられていて、レーダーに返信しているので正確な位置と機番が分かるのですが。ここでは違うようなので」
「そんな便利なものがあるのか。だが、これでは何とも言えんな。ユスティーナはなんかあるか」
「私は総務課なのでなんとも…強いて言うのであれば、飛行機はどれくらいの高さを飛んでいるものなんでしょうか?」
「一応管制記録では、事故に遭った時間は3000ftと言っていました」
「3000ft?」
「約900mですね」
「そんな高いところに飛んでる動物なんているんでしょうか」
逆にこちらに質問が飛んできてしまった。それを聞きたくて二人を呼んでもらったのだが、答えは持っていないらしい。
「生物学者とかはいないんですかね?」
「いるにはいるが、一応ドラゴン研究をしている者を呼び出してみようか?」
「そうですね、お願いします。あっ、機体の調査結果を待ってからでも大丈夫です。忘れていたのですが、事故の時”フロドラの森”はどんな天気だったのでしょうか」
航空機で飛ぶ上で大事な情報が、まだ貰えていないことを思い出した。
「あー、えっと。すまんがそれは気象局に聞かないと分からない」
「では、絶対に聞いておいてください」
「私、分かるかもしれません」
これまでダンマリだった。ルルがおずおずと手を挙げている。
「どうしてですか?」
「この事故の時、帰省していたんです。確かこの日は、朝から強い雨が降っていました」
タンスーラは地図によると、事故現場から150㎞程東側だ。大体80マイルという事は、160ktで巡航するKA132便だと30分程度で到着する。強い雨という事は周辺に積乱雲があった可能性が出てきた。その雲の中に突っ込んだか、視界が悪かったとすれば、空間識失調の可能性も高まるのだ。
もしくは積乱雲に機体が耐えきれず、何かしらのトラブルが起きたか。
こちらの世界の耐空性審査基準が分からないので、何とも言えない。
「すいません…お役に立てなくて…」
思い悩んでいる自分とリアに、二人のエルフは申し訳なさそうにしている。
「いやいや!謝ることないですよ!参考になりました」
「そうだぞ、二人とも仕事に戻っていい。またなんかあれば呼ぶ」
美女二人が退出してしまった事を残念がる心の内が、表情に出ていてしまったようだ。明らかにリアの表情が不機嫌になってしまった。
「どうだ、参考になったか」
声の調子までぶっきらぼうだ。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。