2.謁見
牢獄の居心地は、予想と違って悪くなかった。
剣と甲冑を装備している男達に連れられて途中の中世ヨーロッパ風の城を見てきた分、天井から水が滴りジメジメとした空間を想像していたが、きれいな断面の石造りのような、レンガのような物を使った場所だった。
腰かけているベッドはスプリングマットレスを使っているようだし、蛍光灯のような物で室内は明るく、文明のレベルは高そうだ。
随分と待たされ、半日は経っただろうか。
小窓から差し込んでいた陽の光が橙色になった頃、コツコツと硬い石畳を歩く音が二つか三つ聞こえてきた。真っ直ぐとこちらに近づいてきた足音は、自分の牢獄の前で止まったようだ。
顔を上げると自分のことを連行してきた二人と、もう一人女性が立っていた。
「立て、奥の壁に手をつくんだ」
女性の低くぶっきらぼうで有無を言わせない声が、牢獄の中に響いた。
おとなしく言うことに従い、立ちあがり奥の壁に手をついた。まるで昔見たアメリカドラマのようだった。
監獄に入ってきた男二人が自分を拘束して、牢獄の外に引き出した。
「これから国王と会うことになる、妙な気を起こすなよ」
妙な気なんて起こしようもないし起こすつもりもないのだが、それでもいきなり国王に会うとはびっくりだ。たった一人の不法侵入者に国王まで出て来る程の大ごとなのだろうか。
城内は豪華な作りになっていて、ひとつひとつの装飾や柱でさえ目を奪われる。そこを拘束されながら歩くと、いささか洋ドラマの主人公になった気分だった。
随分広い作りの城のようで長いこと歩かされた後に、重厚な扉の前に立たされた。
その扉の前には二人の男が直立不動の体勢を取っていて、装備はどちらかと言えば儀礼的なものを感じさせる。
「勇者の森にいた男を国王陛下に謁見させる」
二人の衛兵は静かにうなずくと扉を開けた。
さすがに王がいる空間だった。天井が高く威厳を感じさせる装飾の空間の中に、パッと見ただけで偉いことが分かる人たちが左右に居並んでいる。
その人達の視線が自分に注がれているのを感じながら連行され、王の前へと進み出て跪かされる。
「こちらに居らせられますは、ナブエイド王国・第9代国王にして、我らがアグスタ大陸の守護者、レオナルド・ナブエイド国王である。ウェストランド伯爵、用件を述べよ」
自分の頭上から降ってくる声の持ち主は、おそらく国王の横にいた人だ。
そして、呼び出されたウェストランド伯爵とは、自分を連行してきた女性の様だった。彼女は自分の二歩前くらいに進み出ると、もう一度跪き話し始めた。
「我が王、急遽の謁見を許可頂き感謝申し上げます。こちらの者は勇者の森より出てきた不審者、もしくは”勇者”でございます。この二人の警備兵の話によれば、夜の交代以降、門扉は一度も開かれていないそうです」
伏し目がちだった王が、目線をこちらに向けた。表情は真剣そのものだった。
「であれば、ウェストランド卿はその者が勇者であると言うのか?」
「確証はありませんが、可能性は高いかと。なので、各地域の議員と司法長官、王と大臣がいらっしゃるこの場での、尋問を行いたいと思います」
ホールの中にざわめきが広がり始めた。「本当に勇者だと証明できるのか」「今やる必要があるのか」「どうせ侵入者だ」などの野次が方々から投げかけられている。その野次に答えるように、王の隣に立っている男がウェストランド伯爵に質問をした。
「最後の勇者の出現は150年前、戦乱の最中だ。その前も、世界の危機に出現したが、世界が平和になっている今、勇者が出現する理由が分からない」
「私も当然わかりません、なのでここで証明できればと」
「如何いたしましょうか、我が王」
「構わん、やれ」
「承知いたしました。歴代勇者の資料を持ってこい」
近くに控えているものに指示を出すと、すぐに大量の分厚い本が運ばれてきた。
いくらなんでも早すぎる。そもそも、いきなりこんな偉い人の中に引っ張り出されるという事は、今までの問答は予定調和なのかもしれない。
資料が置かれ、尋問の準備が整ったのだろう。ウェストランド伯爵がこちらを向いた。
「そこの者に問う、名前は?」
「坂井航介です」
「サカイ?聞いたことない響きの名前だな。コウスケ家は何処にある」
違和感なく会話できていたので、何故か日本語が通じていることに気が付かなかったが、苗字と名前が海外の様に逆になっているらしい。
それに周りを囲む人たちも、東洋系の顔立ちの者はいないので余計に日本語を普通に喋っていることに、今更ながらビックリした。
「なにを、キョロキョロとしている。質問に答えろ」
「すいません。名前が航介で苗字が坂井です。坂井家はえーっと、日本にあります」
「名前と苗字が逆と、分かったニホンか少し待て」
そういうと、過去の資料を持っている者たちがペラペラと何かを調べている。そのうち一人の男が手を挙げてこちらに質問してきた。
「ヒノモト、という言葉に聞き覚えは?」
「あー、はい日本は昔そう呼ばれていました。日の本で日本です」
「ふむ、出身は一緒と、ではこれは知っているか?…」
そこからはひたすら質問と、過去の資料に書いてあることの説明をさせられたりと、長い時間を使った。最初は夕日に照らされ輝いていた、王座の後ろにあったステンドグラスも、ホールの中を煌々と照らすシャンデリアの光で、外に向かって輝いているはずだ。
「そこまでにしなさい」
皆の顔に疲れが浮かび始めた頃、鶴の一声がかかった。
「ですが我が王、まだ勇者と証明できた訳ではありません」
「えぇ!まだですか!?勇者じゃないにしても、この世界の人間ではないことは分かって貰えませんか?」
長い長い時間拘束されながら、質問攻めにあったために我慢の限界だった。思わず普通に口答えしてしまう。それを受けて王の隣に立っていた男(総務大臣らしい)が”キッ”っと睨んだが、こちらも限界なので睨み返した。
「まぁ、他の世界から来たことはほぼ確定とみていいでしょうけど、この平和な時代に来た意味が分からないのです」
そういって困り顔をするウェストランド伯爵は、今になって初めて真正面から見たが、疲れからなのかとても美しく見えた。
「とりあえず、牢に戻しておきましょう。処遇は後々決めて行けばいい事です。ウェストランド卿、これからの尋問はあなたに任せます。結果が分かり次第、報告なさい」
「分かりました。では私は、この男を連れて失礼いたします」
一礼して離れるウェストランド伯爵に合わせて、自分も乱暴に立たされた。
硬い床に座っていたせいで腰が痛い。
「戻るぞ」
目の前でこちらを見据え、冷たく言い放つウエストランド伯爵を見て、キツイ美人は中々良いのかもしれないと思った。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。