1.異世界転移
体の節々がズキズキと痛む。
ゆっくりと体を起こして周囲を見回してみると、体が痛いのも当然だった。
「何処だ?ここ」
石舞台の様な、石でできた祭壇の様な、その頂上の平らなところで寝てしまっていたみたいだ。傍らには自分の荷物も落ちていた。
祭壇の周囲は森で囲まれていて、全く自分の知らない場所だった。
状況が呑み込めず、混乱する頭の中に”パイロット、不法侵入で逮捕”というニュースの見出しがよぎる。
取り敢えず、ここから急いで出ていかなければならない事は確かだ。
もし途中で土地の所有者に出会ったら、謝り倒すしかない。
すぐ横に落ちていた自分の鞄を抱えて、ゆっくりと階段おりた。
石の上で寝た事で体の節々が痛む。ゆっくり響かないように降りたつもりでも、アラサーの男が硬い場所で寝たツケが体中を痛みとして駆け抜ける。
痛む箇所をさすりながら、森の切れ間に伸びている通路を歩き、一つ一つ最初から昨日の出来事を思い出した。
昨日は大変だった。
パイロットは技能を維持しているか、定期的に審査が行われる。
それが昨日は13時から始まったのだが、コッテリ絞られて終わったのは19時とかだった。デブリーフィング(飛行後ミーティング)の時間は、3時間近くになった気がする。面倒くさい審査官だというのは、前もって分かっていたが予想以上だった。
それでその後は、西田とお疲れ様会をした。
ひたすら、審査官の悪口を言い合って、そして2件目に突入して、その後は、
「ホテルに帰って、シャワーも浴びずにベッドにダイブしたよな…」
どうもおかしい、記憶ではベッドに寝たはず。だが格好は昨日のままで、鞄も昨日の中身のままだった。
多分記憶違いで、どっかの神社?か何かで寝てしまったのだろう。
きっとそうだ。
おそらく直線距離で4~500m位だっただろう道が、もうそろそろ終わろうとしていた。
森の出口は、陽の光が強く輝いて見える。
陽の光に目が慣れた頃、自分の前に広がっていた光景は見たことが無いものだった。
高くそびえる城壁と見事な鉄製の扉。
昔、研修で行ったヨーロッパを思い出すような風景に心を奪われた。
「おい!貴様!!何をやっている!!」
後ろから聞こえてきた怒声に、体が跳ね上がる。
「おい!そこのお前だよ!!」
別の声もこちらを威嚇しているようだった、土地の所有者だろう。
一瞬逃げるという選択肢が頭の中をよぎったが、目の前の10mはあろうかという高い城壁と、鉄製の固く締まった城門がその考えをやめさせた。
あー、やっちまったなー、お酒を飲みすぎて人生を棒に振ることになるとは…
観念して振り向くと、二人の西洋人のような男が二人武器を持って立っていた。
昔、本や映画とかで見たような、重そうな甲冑にロングソードをこちらに向けていて、目や表情からは動揺が伝わってくる。
自分はコスプレ会場か何かに、迷い込んでしまったのだろうか。とも一瞬考えたが、相手の表情からみるに、冗談…ではないみたいだ。
よく状況が分からないが、謝ることが一番大事な気がする。今までない角度まで腰を折り曲げた。
「すいませんでした!!気づいたらここにいました!!」
「どうやって入った!」
「わからないです。起きたらここにいて」
「分からないなんてことがあるか!!」
分からないものは、分からない。ちらりと二人を見てみるが、まだこちらにロングソードを向けたままだ。このままだと切られそうな空気を感じる、どうしようもなくなる前に証明しなくてはいけない。
「すいませんが、ここはどこですか?」
「『ここはどこ』って勇者の森だろ!」
聞いたことが無い地名だ。やっぱりテーマパークの中なのか?とも思ったが、目の前の男二人がこちらに向けている剣の光が、嘘ではないと主張している。
「今は、何年ですか?」
最初に声をかけてきた黒髪の男が「統一歴100年だ」と訝しんだ表情で答えた。
自分が知ってる暦の中には、統一歴なんてものはなかった。
ここまでの問答で察し始めたが、どうやらここは自分が知らない世界らしい。
「ここはなんていう国なんですか?」
「ナブエイド王国だが?それにここは王城の中だ。最後のチャンスをやる、どうやって入ったか正直に答えろ」
聞いたこともない国を答えられるのも予想通りだ、これが噂に聞く異世界というやつなんだろう。予想外の予想通りの回答に、事実を突きつけられて混乱する頭を何とか落ち着かせて質問に回答しないといけなかった。
でないと今にも切りかかってきそうな気配をヒシヒシと感じる。
「私は日本という国でパイロットをやっている、坂井航介と言います。昨日ホテルで寝て、朝起きたらここにいました。なので、どうやって入ったか、ここがどこかも分からないのです」
すべて、正直に話した。
これで切りかかられたら、それはもうどうしようもないことだった。向こうの返答を待つ間に、逃げるか戦ったりするかの思考を巡らせるしかない。
「うーん…正直に話してそうなんだがな」
様子を見ていたもう一人の男が口を出した。こっちの方は気迫を感じない。
黒髪の男もそれに頷いて、同意している。
「とりあえず、捕まえて連れていくか」
そう言ってにじり寄って来る二人に恐怖を覚えたが、抵抗するとひどい目に合いそうなので、素直に捕まることにした。
前に出した手を掴まれ、素早く後ろに回されると後ろ手に手錠のようなものを掛けられた。
そのまま城門横の通用口を通り、城内を連行される。いろいろな人がいるが、日本人らしき人は見えない。それでも日本語が通じるのは異世界だからなのだろう。
そのまま暫く歩き、手錠を外されて地下にある牢獄に突っ込まれた。
「暫くそこで待ってろ」
黒髪の男がそう吐き捨てるように言うと、どこかに行ってしまった。
自分以外がいない牢獄では考え事する時間が沢山あった。そこで一つの決心をする。
”犯罪にだけは手を染めないようにしておこう”
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。