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異世界運輸安全委員会  作者: 都津 稜太郎
2.運輸安全委員会
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9.Take off


「少し、前で見ても大丈夫ですか?」

「ん?何をだ?」

「この飛行機の始動のプロシージャ(手順)を見たくて」

「ほう。ウェイド機長、いいか?」

「大丈夫ですよ。見ても面白いものでもないと思いますが」

「ちょっと待ってください」


 後ろから見張りの一人が制止してきた。なにやら回りくどく言葉を並べているが、どうやら自分が”不審人物”なので、見られるのはマズイのでは?と言いたいらしい。見張りの言いたいことは分かるが、これだけ真面目にしているのに、未だに全く信用されていないのは落胆を超えて、怒りにも似た感情が出て来る。

 頭に血が上り思わず振り返り言い返そうとした時、後ろからリアの落ち着いた声が聞こえて来た。


「君たちの仕事は分かっているよ。だが、こっちも仕事でやっているんだ。そして彼も私たちの一員だ」

「ですが「坂井の知識が必要で、その助けになる事かも知れない」」

「……いいか、私たちは今、KA132便が墜落した原因を探る為に一つのチームとして動いている。護衛の君たちもそうだと思っているよ」

「……そうですね」


 リアの眼差しを見れば、その言葉に嘘が無い事が分かる。彼女は全力でこの事故の原因究明に取り組んでいるのだ。リアの言葉にしおらしくなった厳つい顔の見張りは、静かに席に戻るとその後何かにつけて文句をつけて来ることは無くなった。



ーーーーーーーーーー


「……カチッ、カチッ」


 航空機のエンジンを始動する段階になって、ウェイド機長が無言で手順を進める横でキース支部長は手持無沙汰に明後日の方向を見ている。この光景に信じられない思いが湧いてくる。

 まずもって本拠地であるはずの空港で外に見張りが居ないので、周囲の状況が分からないはずだが、キース支部長は外をぼんやりと見ているだけで、ウェイド機長は機内の手順に集中している。

 更に集中しているウェイド機長も、チェックリスト(手順書)を使っているわけではなく、記憶を頼りにエンジンを始動している。後ろで運輸安全委員会の面々が見ている上に、右席に上司が居ても”これ”なのだ。普段通りなのは分かるが、これではミスや抜けが多発してしまうはずだ。

 ウェイド機長が何も言葉を発しなくても、なんとなくだが何をしているか分かるのは、経験の賜物だろう。Before ENG Start CL(エンジン始動前チェックリスト)から、ENG Start CL(エンジン始動チェックリスト)に入ったのが分かる。

 IGN(イグニッション)音から、外に見えるプロペラがゆっくりと回り始めて、徐々に加速していく開店で、エンジンに火が入ったのが分かる。徐々に回転数を上げ始めた右側のプロペラが、轟音を機内に響かせ始めた。

 そして同じ手順で左側のエンジンの始動が始まった。今度は機内の操作をメインで見ていくと、イグニッションボタンを押し、エンジンの回転数を見て燃料を頃合いで投入した。元居た世界では煩雑な指導手順は省略されていて、スイッチを押すだけだ。ロートルの訓練機でもこんな方法は取らないだろう。少なくとも事故機体である”ライオネル330”も、スイッチでの起動だった記憶があるのでこの機体が特別古いだけだと思われる。

 そのままチェックリストは進み、独り言のように耳元のヘッドセットで管制と通信を始めたので、いよいよ飛び立つようだった。その管制用語も厳格に決められた用語ではなく、日常会話のように進んでいくので、先程までのテキトーチェックリストも相まって、本当にこのまま飛んでも大丈夫か不安になってきた。

 不安げな自分をよそに、地上滑走を始めた航空機は誘導路から滑走路へと入って行く。


「どうだった?何かわかったか?」

「飛び立つ手順はこれが一般的なんでしょうか?」


 ジャンプシートがある訳ではないので、飛び立つ前に自主的に自分の席へと戻ったところ、興味津々のリアに話しかけられた。


「そうだな……見ていた限り、いつも通りだと思うが」

「分かりました、ありがとうございます。気になる所は後で話しますね」


 リアが頷くと同時に、体が座席へと押し付けられた。窓の外から見える景色は後ろに流れる速度を上げ、同時に体に掛かるGも大きくなり始めた。離陸滑走は期待の大きさに対して、乗せている人数が多く重いのだろう、十分な距離を滑走した後、体が浮く感覚と共に空へと飛び立った。

 徐々に離れる地面が、この異世界で飛んでいるという事実を見せて来る。窓から見える青い空と地面の二分色は、どの世界も変わらないという事だけが、心にふと訪れる孤独を癒してくれる。


「怖いですか?教授」

「は、初めてだからな!逆になぜそんなに、平常心を保っていられるんだ?」

「私は何度か乗ったことが有りますから」


 前の座席を掴んで震えている教授は、地上にいた時の口数の100分の1以下だ。他にも見張りの一人も同じように怖がって、ひじ掛けを掴む手に力が入っている。


「こっから、2時間強暇ですね」

「あぁ、私は少し眠らせてもらう事にするよ」

「私もそうさせてもらいます」


 疲れていたのか、少しの風で大きく揺れる機内で目を閉じると、直ぐに眠りに落ちた。

はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
権力で見張りを有無を言わさず黙らせるリアとかいう暴君、怖っ。 なおTalk off、は黙る、という意味にはならなず、むしろお喋りをし始めます。そんな話は会話の箸『休め』(Take off)。
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