7.生物学者
「ご機嫌よう!私を呼び出したのは君たちかね?」
ロングの黒髪をまとめたポニーテールを揺らし、眼鏡を直しながらこちらを見つめて来るのは、見た目の若さと相反して、年寄りの様なやたらと仰々しい口調の女性だ。口調だけは、予想していた通りの”学者”然としている。
「来て頂きありがとうございます。私はアメリア・アウグスタ・ウェストランド。運輸安全委員会の委員長をしています。隣の彼は…調査官です」
「あっはいどうも、調査官?の坂井です」
「ふむ珍しい名だな。私は王都大学生物学教授のヴァネッサ・ベルだ、して用件とは?」
まだ、挨拶もそこそこで、座ってもいないのに随分せっかちな女性だ。こちらとしても直ぐに用件が終わるのは悪くない。会議室の椅子へと案内すると、これまでの調査結果を踏まえた予想を話し、ヴァネッサ教授の反応を待った。
「いや、有りえない。とも言えない」
「はぁ……と言いますと?」
「今は確認できていないかもしれないという意味だ。発見できていない新種かも知れんしな」
「では、サンプルを教授が見てもらう事は可能ですか?」
「勿論可能だが、それにしても血液とかの付着物の調査はどこでやったんだ?正確な調査結果も出さずにただ『生物でした~』なんて調査があるか」
「いや、あの~……申し上げにくいんですが、王都大学生物研究室です……」
「うちの研究室か」
「はい」
「それは済まないことをした。急ぎ私が引き継ごう、研究員も叱っておく」
そう言い残すと彼女は荷物をまとめて、呆気にとられる自分とリアを置いて部屋から出て行った。嵐のように過ぎ去ったヴァネッサ教授は、時間にして2時間も居なかっただろう。静かになった会議室で思わず、リアと顔を見合わせた。
「えーっと、これでひとまず喫緊の課題はないですよね?」
「そうだな。教授の調査結果を待とう」
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「待たせたな!調査結果だ!」
調査結果が届いたのは、依頼した10日後の朝。会議室内でおとなしく朝ご飯を食べながら資料を見ていたところに、扉を開け放ちながら挨拶もなしに入ってきたのは、ヴァネッサ教授だった。
「ありがとうございます!」
「いやいや、こちらこそありがとうと言いたいところだ!これを見てくれ」
応接セットに乱暴に座ると、鞄から大量の紙の束を机一面に広げ始めた。なにやら細かい文字やグラフでいろいろ書いてあるが、全くの門外漢である自分には何が何だか理解できなかった。それはリアも同様で顔に疑問符が浮かんでいる。そんな自分達をヴァネッサ教授は全く意に介す様子はなく、専門用語を交えて一枚一枚の紙について色々解説し始めた。
「教授!ヴァネッサ教授!!」
「ん?なんだね?この鱗についての考察に疑問があるのか?」
「いえ、そういう訳ではなく……我々に知識がないもので、かみ砕いて解説頂けませんか?」
「ふむ。そうなのか」
「すいませんが、お願いします」
「ではこのすべての資料を端的にまとめて結果を言おうと思う。分からない!」
「……ん?は、え?」
「分からないのだよ。この肉片や血液その他のサンプルを見てもドラゴンだ。分析すると恐らく5m……もっと大きいかもな、7mくらいの可能性もある」
「でも、この大陸には5m級以上のドラゴンはいないと」
「そうなのだ。だから新種か、他の大陸から迷い込んだとしか考えられない」
「つまり特定できないと」
「いや、つまるところ分からないことが分かったのだ。調査に行こう!」
「え?」
「フルドラの森の上空は、事故が起きてから飛行禁止だろう?運輸安全委員会の調査なら飛行できる」
「いや、出来はしますけど……我々としましては、それが5m級以上のドラゴンの物だと分かった時点で満足でして」
「いや、まだ推定だ。特定出来ていない」
「……分かりました。少々お待ちください」
「待つとも!」
リアは頭を抱えながら事務室に向かって歩いていくと、何やら職員たちを集めて喋っているようだった。ガラス越しには喋り声が通ってこないので、何を話しているのかまでは分からない。
「ときに坂井君とやら」
「はい。君は異世界から来たらしいね」
唐突な質問に思わず体がフリーズしてしまう。ヴァネッサ教授の獲物を逃さない真っ直ぐな目に射抜かれ、身動きが取れない。自分が異世界から来たのは秘密らしいが、教授まで知っているという事は、もはや公然の秘密の様な物なのだろう。
仕方なく答えようとすると、後ろから警備兵が制止するために飛んできた。耳打ちで「しゃべるな!」と言われるが、これで喋らなくても確証を与えるだけだ。ヴァネッサ教授からは「どうなのだ?なぁどうなのだ?」とひたすら返答の催促を受け、警備兵とヴァネッサ教授に板挟みにされ困っていると、リアが戻って来てくれた。
「ウェストランド伯爵!!どうでした?」
「うわぁ、ビックリするな。許可することにした」
「助かるよ!これで調査に行ける」
「ただ教授。条件が私とこの坂井を同行させ、こちらで航空機も用意します」
「いやぁ、至れり尽くせりだな~」
「今回は調査の為に特別ですよ!」
「分かってる」
「今から行きましょう。我々が空港に向かう頃には準備が出来ています」
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




