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かぐや姫の子  作者: ラミ
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第一章

毎日、ベットに入って、眠ると私は、あの時代にいる。


「おはようございます。」

「ええ、おはよう」

「姫様は、まだ寝ております。」


そうやって私は、平安時代に生きている。どうしてそうなったのか覚えていないけれど、気づくと私は、少女であり、ただの女子中学生だった。


「おはよー」

「んー」


あさ、起きて目が覚めると、ああ、こっち側かと思う。ちょっと遅めの朝、起きてもまだ眠くてはじめのうちは、まだ、赤子のよう。そのうち、戻ってくる。


ご飯を食べて、制服を着て、髪を整えて家を出る。外は、息が白くなるほど寒かった。

(あっちはもっと寒かったな)

そんなことを思いながら学校に登校した。


友達は、少ないほうだ。自分から話しかけることもないから、朝はただ、ぼーっと窓の外を眺めている。けれど、古典の時間だけは、なぜか目が覚めてしまう。日記、随筆、漢文。中でも一番気になるのは、平安文学と和歌だった。中でも竹取物語だった。竹から出てきたとても美しい女の子、かぐや姫。彼女は、この世の人ではなく、月の迎えが来て、帰ってしまうという物語。かぐや姫は、人を愛していたのだろうか。いつもそう考えてしまう。


学校が終わってなんてことなく、帰り道、本屋さんによって一冊読むのが習慣だった。ふと、古本屋に置いてあった古い歌集が目に入った。なぜかはわからない。気になって少し読んでやめた。


お風呂に入って、ご飯を食べて、少し本を読む。それから、ラベンダーの香りを置いてベットに入って寝る。一度、夢から戻れなくなったことがある。そんな時、これは助けてくれた。それ以来お守りのように持ち歩いている。


「姫さまー。起きられましたか。」

「乳母や。起きたわ。」

お屋敷の北殿。その一角にある寝所で私は、起きた。相変わらずの寒さだ。

「お着替えを。お風邪をひかれます。」

「うん。」

衣擦れの音。平安の世の衣装というものは、どうにも重いようだった。あちらとつながっているからなのか、私は、ラベンダーの香りにいつも包まれていた。ほのかな柔らかいにおい。他のにおいとは合わないからと、私の服は、香がたかれていない。それが心地よかった。

「北の方に挨拶を」

「うん。」

平安の貴族の一家に生まれたけれど、私の生みの母はすでに死んでいた。そんな私を北の方は、不器用ながらも愛してくれていた。複雑な事情があるからなのだろう。


「お母さま。おはようございます。」

「おはよう。」

「今日は、空がとてもよく澄んでいますね。」

「ええ。」


返事は短いものの、無視することはない。目を見てよくいろいろなお話をして下る。お優しい方なのだ。穏やかな時間。けれど、今日は少し違った。


「格子を上げて頂戴。それから下がっていいわ。」

いつになく真剣な顔でざわつきを感じた。

「あなたに、話さなければならないことがあるの。」

「なんでしょう。」

「あなたに、このことをどう伝えるべきかずっと迷っていたの。できる限り、この平穏な時間をそのまま過ごさせてあげたかった。でも、もう長くはないの。」


長くはない。それは、お母さまの死を意味していた。まだまだ元気そうに見えるその体には、けれどやはり、年月が色濃く残されていた。それでも、乳母が言うには、とても健康で長生きされていて、まるで仙女のようなのだそうだ。けれど、人は死ぬもの。お母さまが長くない。そう淡々と話すお母さまに頭が追い付かなかった。


「そんな顔をしないで頂戴。わかるのよ。もうすぐだって。だからその前に絶対におしえなくてはいけなかったの。あなたは、あなたの母上がなくなったと聞かされてきたわね。けれど、それは違うの。」

「それは、どういう…」

「あなたのお母さんは、厳密に言うと、元の世へ戻ったの。あなたを生んだときにね。あの子は、あなたを生む前に、自分は、もうすぐこの世に入れなくなってしまう。だから、あなたのことを守ってほしいと、そういったの。」

「でも、それじゃあ。それなら。どうして」


そういって言葉が詰まった。元の世。それは、きっと私と同じ。あっち側を指しているのだろうか。でも、なんで死んでしまうとわかっていたのか。未来を知っていたのだろうか。


「不思議に思わないのね。元の世って聞いて。やっぱり、あなたも行き来しているのね。」

「え、それならお母さまも、」

「残念ながら私は、生まれ変わりよ。あなたのお母さんが、こちら側に落ちてきて、思い出したの。自分のことを。それから、家族として、姉のように、母のようにあの子と生きてきたわ。夫と暮らしてきて、あの子に会って、都に移って。そうしていつだったか、私たちがかぐや姫の物語と同じ境遇みたいねって気づいたの。そして、みたいじゃなくてそれは、本当だった。それでもあの子は、必死になって生きたわ。この世界で生きようとしていた。けれどね、運命は残酷なものよ。あなたが来たときあの子は、それはもう喜んでいたの。あなたのことを愛していたわ。物語なんて関係ないって。なのに、あの日。あれは、秋だったわ。

少し寒い夜風の中、私は、夫とこれからのことについてとてもいい気分で話し込んでいたの。幸せな日々を祝ってね。それで、すのこの外にいたあの子があんまりにも静かだったから、少し様子を見に行ったら、おなかを抱えてあの子は、まるで幽霊でも見たかのように月を見上げていたの。その時、とても強い風が吹いて、空がとても明るくなったの。月の明かりが部屋中満たしてまるで昼のようになったわ。だんだん暗くなって、気づいたらあの子が消えていたの。震えたわ。最愛のあの子が物語のように月に帰ってしまったのかと思ったの。屋敷中探させて、探して、見つからなくて、ふと外を見たら、あの子が顔を白くして、表情が抜けた顔で元の場所に立っていたの。不安になって尋ねたら、「あのね、もう。もう…」それだけで言いたいことが分かったわ。最初は、泣いて、でも次の瞬間に、急に母親の顔になってこの子を守らなきゃって。この子は、私が守るんだ。って。


そこまで言って、お母さまは、涙を流した。

信じられない話だった。母親がかぐや姫で私が、その娘だなんて。

「それから、あの子がいなくなって、あなたを育てていて気付いたの。あなたが元の世界について知識があることに。だから、教えたくなかったの。教えてしまったら何かが変わってしまうとわかっていたから。」

「変わらないわ。それに、これまで、お屋敷が平安のそれと違うと気づいてから、何かあるのだろうとは思ってたわ。だからそんなこと言わないでください。それだけ、私を思いやって、愛してくれていたのでしょう?」

「当り前じゃない。大事な私たちの子よ。幸せになってほしいと願っている。それと同時にとても不安なの。これは、私の仮説だけれど、今この時代も物語なのだと思うの。源氏や、伊勢もすべて。でも、あなたは、違うわ。物語になかったかぐや姫の子。そして、この世界を行き来できる。私の知る限り、もう行き来できる人は、この世界に存在しない。これから、あなたが、一人になって、困ることもあるでしょう。この屋敷は、見てわかる通り他とは違うわ。いろいろな秘密も隠されているの。それは、私とかぐや姫からあなたへの贈り物のようなものよ。まだ、大丈夫だと思うけれど、狙われることもある。月のこともね。だから、紫夕。外を、見てきなさい。まだ、7歳だというのにこんなことを言うけれど、後見人も必要よ。ゆかりのある神社に話は、通してあります。すべてを見て知ってきなさい。」








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