7 当然に信じてくれる人
「トム!ディラン!」
急ぎ庭に向かったカトリーは、はしたないとと思いつつ大声を出して庭のどこかにいるトムとディランを呼ぶ。
「こんな時間にどうしたんだ」
カトリーの呼びかけに応え、背の高い植物の間から顔をだしたのはディランだ。
いつもならベアトリーチェとシーダにこき使われ、空いた時間にかつての輝きを取り戻すわと家中を掃除している時間だ。
「びっくりすることが起きて、それで――」
「しっかり聞きたいからちょっと待っててくれ」
信じられないことが起きたといったふうなカトリーに、ディランは笑みをこぼし休憩も兼ねてしっかり話を聞くことにする。
ディランは急いで仕事道具を片付けると、今はほとんど使われていない東屋に冷やしておいた果実水を持って移動する。
「父さんはいないから、聞けるのは俺一人だけど勘弁な」
「ディランだけでもいて良かったわ」
カップに注いだ果実水をカトリーに渡し、ディランもイスに座った。
「で、どんなびっくりすることが起きたんだ」
「部屋の中でキラキラ光るのが移動して、飾ってた花の上で見えなくなったと思ったら花がこれになったの」
カトリーは持ってきた宝石をハンカチごと机に置き、それをディランがまじまじと眺める。
「宝石?」
「そうみたい」
怪訝な顔をするディランの対面ではカトリーも同じような顔をしている。
目の前で見ていたはずのカトリーも信じられないようで、ディランとトムの元にきたのだが、急に信じられるはずがないとカトリーは沈んだ声を出す。
「信じられないわよね」
「いや、信じる。カトリーは隠すことはあって嘘をつくことはないだろ。それに――」
「それに?」
カトリーが言葉を止めたディランに続きを求める。
ディランは少し悩んで躊躇いがちに口にした。
「この前カトリーに渡した花と見事に同じ色なんだよなぁ。グラデーションもそっくりだし、いたずらにしちゃ手がこみすぎてる」
「花の色、覚えてるの?」
浮かんだ疑問が思わず口から出て、その言葉にディランが頷いて、呆れた顔をする。
「カトリーの部屋のやつだけはしっかりとな。あれだけは父さんが張り切るから、時間がかかって仕方ない」
「そうだったのね」
その間に屋敷に飾る花はディランが選んでいるらしい。
昔はディランの方が遅かったようだが、慣れてきた今はカトリーの部屋に飾る花もディランが手伝っているようだ。
「それにしても花が宝石になって、キラキラ光る何かか」
「うん。手紙を書こうとしてたんだけど、唯一住所のわかるお祖父様に送るにはお金が足りなくて困ってたら――」
「光が現れたと」
カトリーは頷くと続きを話し始める。
「先日、商人さんから頂いた髪飾りに移動したら今度は花に止まって消えたの」
「なんだろうな。けどそれって昔話に似てるよな。綺麗な心を持った貧乏な家の女の子に、精霊の力を借りた妖精が女の子の宝物を宝石に変えて幸せになるやつ」
「確かにそっくりね」
妖精がいるといわれていても、それを感じられる人間はごくわずかだ。
カトリーもディランも小さな頃に聞いた物語としか思っていない。現実に起きた昔話だとは微塵も考えない。
「手が空いたら、妖精について調べてみるよ」
「わたしも調べてみるわ」
それからディランはカトリーを少しだけ待たせると、部屋に飾るための花を素早く用意して戻ってきた。
それは白い花をメインに、愛らしくまとめられた花束だった。