54 許すことはできないけれど
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今更――いまさら何の用だと思ってしまうのも仕方がない。
読まずに破り捨ててしまったところで誰からも批判はこないだろうともカトリーは思う。
それだけの扱い、それだけのことをずっとされてきたのだから。
カトリーは貴族らしからぬ嫌そうな顔を全面に出し、年配の侍女に注意をされる。
侍女も仕方ないとでもいうように、あれこれをいうこともなく、ただ人様に見せられないほどの顔をしていることだけは注意をした。
手紙の差出人はフラヴィオ・グレイと書かれていて、カトリーの父だ。
カトリーにわかりやすいようにとファミリーネームにグレイと使われているが、正直そう名乗られる方がカトリーの神経を逆立てた。
軍の検閲済みの印が押された手紙は、フラヴィオがカトリーに宛てて送った手紙で、リサは見せるべきか迷ったが親が勝手に判断していいものではないとカトリーに渡した。
夫婦は縁が切れるものでも、親子となると簡単ではないから。
封を開けずに捨てても、手紙を読んでも、それはカトリー自身が選ぶものだと。
一応、カトリーにとってはたった一人の父親で、どれだけ嫌っていても恨んでいても家族というものは簡単に切ってしまえるような縁ではないから。
カトリーは深呼吸を一つして、手紙の封を開けた。
読まずに破り捨ててしまいたいとも思ってしまうけれど、カトリーはそれを選ぶことはしなかった。
そうしてしまえばきっと楽になれる。だけど、嫌いなまま嫌いなものを遠ざけるだけになってしまう。
それは父であるフラヴィオやベアトリーチェたちと同じことになってしまうし、何よりもカトリーの憧れる人たちは逃げずに立ち向かう人ばかりだから――。
カトリーもせめて、この関係を終わりにするしても続けるにしても、今ここで逃げずに立ち向かうと選んだのだ。
封を開けて、封筒から手紙をとる。
全く飾り気のない便箋は軍から用意されたのだろう。
無骨な字で書かれていたのは謝罪の言葉と許しを乞う言葉で、定型文のようなそれはカトリーに向けて書かれたものではないような気がした。
まるで、自分自身に向けた謝罪。自分のしてきたことを正当化するためだけ言葉の羅列。
おかしすぎてカトリーは笑いが溢れた。
「あはっ、バカみたい」
あんな仕打ちをしておいて、あれほどまで拒絶をされて、なぜまだ嫌われてないと思うのか理解に苦しむ。
戦えるだけの力も、挑むだけの用意もなかったから、あの立ち位置に甘んじるしかなかっただけで、そうじゃなければカトリーだってさっさと片をつけた。
物語に出てくる暴虐姫のような性格をカトリーがしていたらフラヴィオたちだってどうなっていたか分からない。
悲しい幕引きで終わったかもしれないのだ。
カトリーは読み終えた手紙を封筒に戻し、真っ白な紙にペンを走らせた。
『許すことは出来ないけれど、クラウディオ様方に引き合わせてくれたこと感謝しています』
インクが乾くのを待ってからそれを折ると、フラヴィオ宛に出すようにカトリーは告げた。
許すことは出来ないし、恨んでもいる。
だけど、今のカトリーには何もする気はない。
そんなことをするくらいなら、今ある幸せな時間の中で過ごしていたいし、その時間と手間で大切な人たちが喜ぶことをやりたいのだ。
それにたぶんきっと、幸せの中にいることがこそが一番の復讐になるから。
カトリーはフラヴィオからの手紙を手にすると、差出人の名前を一度だけ読んだ後、破って丸めるとゴミ箱へと放り投げた。
明日で『明るい復讐計画』は終わりになりますが、時間をしばらく頂いてディオ主役の物語『ヒメノカリス』を連載するので、そちらもどうぞよろしくお願いします。




