シーダの新しい生活2
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シーダは新しい生活にも随分と慣れ、悠々自適に過ごしていた。
それはむしろ、ベアトリーチェと二人で暮らしていたよりも、グレイ伯爵家でカトリーを虐げながら裕福な暮らしをしていた時よりも心は軽く。
もともとの生活に近いことも、似たような境遇の人ばかりが暮らしているからもしれないが。
相変わらずエルはシーダのそばにひっついていて、シーダは適当にあしらうつもりがエルのペースに飲まれてしまっていることが多い。
カトリーヌとまた違った厄介さがエルにはあった。
珍しくエルがまとわりついていないシーダは、周囲の大人たちに今日はセットじゃないのかとからからかわれ、持ち前の気の強さで返していく。
「あいつがいなきゃいないでうるさいわね」
セットなんかじゃないのに、つぶくさと言いながら自分の部屋に戻るために廊下を歩いていると、図書室で勉強するエルの姿があった。
「随分熱心ね、エル」
「うん。だって、やりたいことがあるから」
「ふーん、そう」
シーダに声をかけられ、顔をあげたエルは大きく頷き、シーダは興味なさそうに返すがエルは目を輝かせて教えてくれる。
「パーチメント伯爵家って知ってる?」
「知らない」
「そっか。妖精のことを研究してるお家なんだけどね。ぼくはそこで働きたいんだ」
「立派な夢ね」
棒読みのシーダの言葉に、褒められたエルは照れる。
シーダからすれば妖精なんていないというのに、エルもフラヴィオもそこに存在するかのように言う。
「シーダちゃんは信じてない?妖精のこと」
「当たり前じゃない。昔話の中だけよ」
「そうだよね、普通は」
シーダの言葉を肯定して、エルはそれでもと続けた。
「それでも、クラウディオ様にもう一度だけでいいからお会いして話をしたいんだ。馬鹿にしないで真剣に聞いてくれたのはあの方だけだから」
妖精が見えたって大人たちは真面目に取り合わない。馬鹿にされなかったとしても、子供特有の幻覚だと思われてしまうだけで誰も信じない。
だけど、世間では出来損ないと散々な言われかたをしている第三王子のクラウディオは、エルの話を真面目に聞いて信じてくれた。
そしてエルにとっては自分を救ってくれた人だ。
もう一度会って話をするにはそこで働くのが一番だから頑張るんだとエルは言う。
シーダには微塵も興味のないことだったが、クラウディオという名前はあまり耳に入れたくないようだ。
フラヴィオとベアトリーチェからは自分たちの幸せな暮らしを奪った人間だと聞かされている。
「あの王子と会いたいなんておかしいんじゃないの」
吐き捨てるようにシーダは言うが、エルは動じていない。
「クラウディオ様は世間で言われてるような方じゃないよ。アルフレッド様やジークベルト様と比べると元気すぎるかもしれないけど……」
「そうじゃないわよ」
苛立ったシーダは感情に任せて自らの身に起きたことを乱暴な口調で話す。
周囲を騙そうとして両親が捕まったことは棚にあげ、いかにもクラウディオが悪いかのように。
そして、自分がフラヴィオと血が繋がっていないことも。ベアトリーチェから聞いて知っていたことも、全て感情のままに。
エルはシーダのここにきた経緯を聞いて、目を見開いて驚き、それから自分と同じだと笑った。
「そうだったんだ。シーダちゃんもクラウディオ様に助けてもらったんだね」
「はぁ?」
わけがわからない。
おかしな顔になっているシーダを気にせずエルは続ける。
「だって、シーダちゃんは貴族じゃないってことになるから、孤児院に行くことになるはずだったんじゃないかな」
「でも、ここに送られてきたわよ」
「うん、だからクラウディオ様がそうしたんだと思う」
エルは言う。
本人は千里眼だと冗談のように言っていた力で、シーダに貴族の血が流れていないこともクラウディオは知っていたはずと。
「そんなことする必要ないじゃない。貴族も王族も……」
「クラウディオ様は優しい方だから」
そんなわけがないと言いたいのだが、言葉が出ない。
グレイ伯爵家で軟禁されていた時、クラウディオはアルドという少年を連れてよくシーダの元に会いにきた。
フラヴィオやベアトリーチェから聞かされていた通り、自分たちを追い出すためにきた王子だとロクに相手にしなかったが、朧げな会話の内容はシーダのやりたいことについて尋ねるのが多かった。
そして、能天気そうな王子にシーダはこんな楽な生活を手放したくないと今までも境遇のことも口走ったはずだ。
エルの言葉を否定出来るほどの材料はシーダにはなかった。
「なんなのよ、もう」
だからといって、クラウディオに対する感情が変わるわけでもないが、シーダは新しく出てきた情報にため息を吐くと机に倒れこみ、エルはそれを見ておかしそうに笑っていた。
あと五話で完結なりますが、最後までよろしくお願いします。




