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シーダの新しい生活1

今日と明日はシーダの話になります。

 カトリーの父フラヴィオと、その愛人ベアトリーチェの処遇が決まるとシーダの引き取り手探しが始まった。


 両親は王家を謀った罪で捕まり、カトリーの母でフラヴィオの妻であったリサの許可があれば伯爵家の娘として認められたのだが、リサは拒否。

 もっとも、伯爵家の血を引くのはリサなのでシーダを娘と認める必要もなく、大事な一人娘をいびっていたわけで拒否するのも当然といえば当然なのである。


 そして、フラヴィオの生家である男爵家の現当主はシーダを養子に迎えるのを断った。

 そうなった経緯を知って家の恥だと切って捨てたのだ。


 なにしろ、政略結婚でフラヴィオは婿入りしたというのに妻を追い出し、愛人を家に上げたというだけでも見聞が悪い。

 フラヴィオの生家がお家取り壊しにならずにいるのはひとえに、フラヴィオの経緯を知って縁を切ることにしたからだろう。


 それにシーダとは一度会ったが、元平民とはいえ、知性の欠片もなく我儘で、貴族としてもマナーを学ぶ気もない少女だ。

 そんな娘を養子にするくらいなら、そこら辺にいる子供を養子にして一から教えた方がマシというものだと断った。


 孤児院にでもシーダを入れるのかといえば、一応シーダも()()()()男爵家の血を引く立派な貴族の子供なわけで――。

 シーダと似たような境遇の貴族が暮らす町で暮らすことになった。


 後継者問題やら復讐事件などなど、そういった問題は貴族では多かったりする。

 また、シーダのように自分は貴族だと傲慢になる人間もいるわけで、そんなやつを市井に放り込んでも何かと問題を起こし面倒なので作られたのがこの町だ。


 そこはお嬢様然として暮らしていけるような場所でもないのだが、まあそれでもシーダからすれば裕福な暮らしにもなるのだろうか。

 衣食住には困ることはないのだから。


「もう、そんなことしたら汚れるじゃないの!!」


 畑を前に声を荒げシーダが言った。

 そこに誰もがシーダの言葉に笑い出す。でもそれはバカにしたような笑いではなく、昔の自分と重ねて見るような新人への優しいものだ。


 そこにシーダと同じ年頃の気弱そうな少年が、おそるおそるシーダに声をかける。


「シーダちゃん、そんなに汚れないから頑張ろう?」

「嫌よ、エル。土にまみれるなんて貴族のすることじゃないわ――きゃ」


 シーダとエルに向かって泥が投げ飛ばされる。

 犯人はシーダたちより少し年上の少年で、体格の良さからガキ大将といったふうで、どうやったらそれほど汚れるのかというほどに全身土まみれで茶色い。


「何するのよ、ジェイコブ!」


 シーダは転がっていた石を拾うとジェイコブに向かって投げようとするがエルが慌てて止める。


「もう汚れちまったんだから関係ねぇよな、クソガキ」

「あんたの方がガキじゃない。か弱い女の子に泥投げるなんて、最低よ!」

「シーダちゃん落ち着いて、ジェイコブ君もやりすぎだよ」


 エルが二人の間に割って入るが、シーダはジェイコブをキッと睨み鼻を鳴らすと畑に背を向ける。


「帰る。服は汚されるし、あんな貧乏くさいことやってられないわ」

「あ、シーダちゃん。待って」


 早足で去って行くシーダをエルは追いかけて横に並んで歩く。

 気弱なエルは躊躇いがちにシーダのそばにいて離れない。同じ時期に来たシーダに仲間意識があるのだろうか。


「ついてこないでちょうだい」

「ぼくも着替えないとだから」


 いく場所は同じだと困ったふうに笑うエルに、シーダはため息をついて新しい服に着替えた二人は泥だらけの服を洗うために近くの川に向かう。


 手際よく洗っていくシーダの横では、不器用に服を洗うエルがいて、シーダは呆れながらエルに手を貸す。


「もう、こうやって洗うのよ。洗剤も少なすぎ」

「ありがと、シーダちゃん」


 柔らかく笑うエルはシーダに言われたことを一つ一つ思い出しながら丁寧に洗っていてシーダは怒ったように返す。


「あんた、なんにもやったことがないのね」


 この町にいるのは貴族といっても下級貴族が多く、意外と自分のことは手伝いがいなくても自分でできるものが多かった。シーダのように元々庶民と変わらない暮らしの者も多い。

 ここに来てシーダが驚いたことの一つだ。


 だというのに、エルは不器用なのか、やったことがないのか、何をやっても身の回りのことを上手くできた試しがない。


「うん、今まで使用人さんたちがやってくれてたから。なんでもできるシーダちゃんはすごいね」

「すごくないわよ。もともとやってたことなんだから出来て当たり前よ」


 乱暴にいったシーダに、エルは柔らかな笑みを浮かべてる。


「ぼくはシーダちゃんがすごいと思う。だって、なんでもできるんだから」


 この町での生活はシーダにとってみれば、貴族としてグレイ伯爵家に行く前となんら変わりはない。

 それどころか、全員が割と協力して動くために楽ができているほどである。


 褒めてくるエルに調子が狂うとシーダはぶっきらぼうに返すと、下手くそだと悪態をつきながらエルの洗濯をシーダは手伝うのだった。

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