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47 気になる令嬢

お読みくださりありがとうございます!

「うーん、それも可愛いけれど……迷うわね」


 リサはお茶会用のドレスを着たカトリーを見て呟き、そばにいる侍女に同意を求めて侍女がえぇと大きく頷いた。


 着せ替え人形にされるカトリーは部屋の壁掛け時計に目をやると、ただ大きくため息をつくのだった。


 どうしてこんなことをしているかといえば、公爵家の令息であるダニエルとの婚約が発表されてから、グレイ伯爵家にはパーティーの招待状が多く届くようになってからだ。


 カトリーをどんな人物なのか知りたいという好奇心や、公爵家の令息と結婚するカトリーと縁を繋いでおきたいと言った招待状が。

 お茶会なら親子揃って、夜会ならリサだけに。


 リサが女性当主であることは、元々リサの生家ということもあって誰も疑問に思わず、必要以上の詮索はしなかった。

 婿に入れた男が能無しだった時、離婚をすることは一人娘の貴族の家ではよくあることだったから。


 それにフラヴィオは社交界でも大した人気もなく、中心人物でもなく有象無象の一人だった。彼はいてもいなくても社交界で噂にもならない。

 まるで透明のような存在だった。


 婚約が発表されてから今日が初めてパーティーへの参加で、リサはカトリー、一人に参加させるのは心配だと体調もいいこともあってカトリーと一緒に参加する。


 リサはすでに着替えは済ませていて、残るはカトリーの着替えだけなのであるが久しぶりにリサ自らカトリーの服を選べるだけあって、なかなか決まらない。


 カトリーの持つ服はどれもリサが見たことのないものばかりで、組み合わせに迷ってしまっている。放っておいたらカトリーを着せ替え人形にして一日中やっていそうだ。

 遅くてもあと一時間ほどで家を出なければ間に合わないと言うのに。


 トリスとフランが揃えてくれた服はどれも魅力的で、迷ってしまうのはカトリーにだってわかる。

 それに合わせやすいものに重点を置いたようで、大抵はどんな小物とでも相性の合うものばかりだ。


「お母様、わたしはこのドレスがいいです」


 カトリーは少し疲れた様子でよく見ずに手を伸ばし、手に取ったのは凍てつく氷のような色のドレスだった。


「それがいいの?」

「お似合いとは思いますが」


 短い時間で必死にカトリーは言い訳を探す。

 時間が押しているから適当に決めたなんていえないから。

 氷のような色なら――。


「はい。トリス様に憧れているんです。なので、トリス様のようなドレスが着たいんです」


 思いつきを声に出す。

 でも、トリスに憧れているのは確かだ。


「そうだったの。なら、小物は緑のものを選びましょうか」

「ダニエル様のお色ですね」


 時間ギリギリに支度がが終わり、急いで馬車に乗り込むと会場まで向かう。

 移動中、カトリーはずっと身だしなみやドレスが似合っているがを気にしていて、その様子にリサはカトリーに気づかれないようにして微笑んでいた。


 会場にリサとともに入ったカトリーは、すぐに多くの視線に晒される。

 リサを一目見て、グレイ女伯爵と分かるとその視線はカトリーにすぐさま向かい、値踏みされる。彼女がダニエル様の婚約者なのかと。


 その後視線に緊張が走るが、リサはそっとカトリーの背に手を当てると大丈夫だとカトリーを安心させるように笑ってみせた。

 安堵したカトリーは、落ち着きを取り戻していつも通りの立ち居振る舞いをすれば、値踏みの視線か少し緩んだ気がした。


 慣れない視線と質問攻めに苦労をするカトリーだが、リサ譲りの振る舞いは大人たちに好感を与えたようで、嫌味を言われたりすることはなかった。


「リサさん、カトリーさん」


 少し落ち着ける時間が出来てカトリーが息を吐くと同時に声がかけられる。

 リサは簡単にだけダニエルに挨拶を済ませると、他の人に挨拶をしてくるわねと言ってカトリーを置いてどこかに行ってしまった。


「――ダニエル様、お久しぶりです」

「はい。素敵なドレスですね」

「あ、ありがとうございます」


 ダニエルに褒められて、照れるカトリーはつっかえながらお礼を伝えると、つられてダニエルも照れてしまう。


 どうにか空気を変えようとカトリーは上手く働かない頭で話題になりそうなものを探す。

 たどり着いたのはディオのことだった。


「この前、商人さんが家に来たんです」

「商人ですか。何か、不思議なことでもありましたか」


 周りに人がいるのでディオが来たとハッキリ言うわけにはいかないので、カトリーはディオのことを商人と呼んだ。

 話が聞こえる辺りに人がいないとは言えど、用心はしておく。

 ダニエルには伝わったようで顔色が明るくなった。


「はい。ディランが――」


 カトリーは笑いを堪えながらダニエルに話をする。

 最近ディランが庭師の仕事を学ぼうと必死で、トムに理由を聞けばディオに焚きつけられたらしい。


「あの人は……」


 呟くダニエルは呆れた顔をしている。


「でも、ディランは前より楽しそうなんです。ダニエル様とわたしに庭師として仕えられるのならって」

「ぼくもですか」

「はい」


 カトリーの言葉に驚き聞き返すダニエルにカトリーは大きく頷いた。


「安心して任せられる人だからと」

「そう、ですか。ぼくも頑張らないといけませんね」


 グレイ伯爵家にしばらくいたのでダニエルもディランの人となりは知っているし、伯爵家で働く使用人のこともなんとなく理解している。


 おそらくカトリーにふさわしくないと思われれば、彼らは全力でダニエルを追い出しにかかるだろう。


 あぐらをかかず精進しなければと思うダニエルである。




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