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4 行儀見習いはどうかしら

 日に日に鋭くなっていくベアトリーチェの目つきは、カトリーがいつ音をあげるかを楽しみしているようだった。


(誰が音をあげるもんですか)


 音をあげれば、家を追い出されてしまう気もするのだが、やられっぱなしというのもどうにも気が済まない。

 やられたことをやり返したいというわけでもないが、一矢報いるくらいはしてやりたい。


 それにしても、カトリーからすれば父やベアトリーチェが自分をここに置いていく理由が見当たらない。


 シーダが本当に伯爵の子供なら、婿を迎えれば問題はなく、カトリーを家に置いておく必要もないので、さっさと追い出したっていいのだ。

 むしろ、正当後継者にあたるカトリーはいるだけ邪魔になるはずでなのである。


 カトリーが子供だからなのか、ベアトリーチェがカトリーをいたぶりたいといって置かれているのか、ありえない話なら父親として愛情を持ってくれていたとか。

 それとも、追い出せない理由でもあるのだろうか。


「あ、お姉さま。私の部屋、掃除しておいてちょうだい。ただし、私のものは取らないでよ」

「わかったわ」

「素直ね。買い物に行ってくるからよろしくね」


 軽い足取りで出かけていくシーダを動かず見送って、シーダの部屋に掃除道具を持って向かう。


 シーダの部屋は元々は来客用の広い部屋で、品のいいシンプルで落ち着いた家具が置かれていたのだが、今は見る影もない。


 少女趣味といえばいいのか、簡単に表すのならピンクとフリフリである。


 ピンクを基調として揃えられた家具はどれも可愛らしくシーダのような子供が使うには似合っていて、パーティー用のドレスから普段着まで色は様々だが大抵フリルが付いている。


 出掛けるための衣装に悩んだのだろう、床には脱ぎ散らかされた服が散乱している。


 シーダに奪われたものもあちこちに転がっていて、カトリーは大きなため息をつく。

 大切にされていればまだいい、いっそ跡形もないほどに壊されてしまえば諦めもついただろうか。


 服を集める手に力がこもらないように注意を払う。


 クローゼットからハンガーを取り出すと、カトリーは一つ一つ丁寧にハンガーにかけてクローゼットに戻す。

 扱いが悪いのでどれもシワが目立っていた。


 箒で床を掃き大体の掃除を終わらせると、ベッドを整えるために掛け布団を持ち上げると一冊の本が転がり落ちる。


「どこから持ってきたのかしら」


 見慣れない表紙なので、どこかで買ってきたのかもしれない。

 もしかしたら、最近流行っていると使用人たちが言っていたものかもしれない。


 本を拾い上げるとパラパラとめくる。

 挿絵の多い本のようで、絵を見る限りは身分差の恋愛小説のようだ。


 開いたページの文章をみて、一つの単語がカトリーの目に入った。


「――行儀見習い、か」


 パタンと本を閉じて、中断していた作業を再開して、素早く終わらせるとシーダの部屋を出る。


 それから、屋敷の中を見回って最低限を整える。

 一人では隅々まで掃除の行き届いた家にはできないので、見える汚れがないよう心がける。


 夕食の時間が近くなり、カトリーはトムとディランの家に向かった。


「行儀見習い、ですか」


 シーダの部屋で見つけた本から行儀見習いを知って、カトリーは行儀見習いに行くのはどうかとトムに相談をすると、彼は難しい顔をする。


「カトリーが安全な場所に居られるなら、それもありじゃねぇの」

「ええ、私もそうは思います。ですが、私もディランも紹介出来る方がおりません」


 侍女や騎士と違い、同じ職業同士の付き合いはあまりなく、あったとしてもどこの職場かよりも技術の語り合いが多く力になれそうもない。


 それに本名を名乗れない以上、行儀見習いとして合法的に家を出ることはできないだろうし、ベアトリーチェがカトリーを外に出すとは考えられない。


 万が一にも、カトリーを虐げていることが知られたら困るのはベアトリーチェだ。


 いくら伯爵の許可あってのことでも、第二夫人でもないベアトリーチェはただの庶民なのだ。


「そう、ね。 わたしも社交の場にはほとんど出ていないから、知り合いがいないわね」


 身体の弱かった母はお茶会や夜会も余り出席できておらず、静養中の今は一切出席していない。


 また父である伯爵は、カトリーを連れて出席することはなかったため、カトリーは知り合いどころか貴族の顔と名前すらほぼわからない状態なのである。


「明日、先生の元に行くので聞いてみましょうか?」

「ううん、いい。思いつきだもの。お土産、期待してるわ」


 やはり無理があるとカトリーはすぐに切り替えるが、トムは暗い顔をする。


「申し訳ありません、お嬢様」

「もう、トム。それじゃあ、先生のジャムをもらってきてちょうだい。それで許すわ」


 トムの先生、先代庭師のジャムは美味しいからとカトリーが冗談混じりにいえば、トムはもちろんですと大きく頷いた。


 次の作戦を考えないとなんて思いながら、夕食を食べ終えたカトリーは自分の部屋に帰って行った。



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