44 誕生日
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グレイ伯爵家の使用人は、数日後に迫ったカトリーの誕生日のためにいつもよりも忙しなく動いていた。
今年は大々的な誕生パーティーはせず、リサと使用人たちだけで開く小さな誕生会がいいとカトリーが言ったため家の人間だけでやるつもりだ。
カトリーの父、元グレイ伯爵であるフラヴィオはリサの誕生日もカトリーの誕生日もパーティーをろくに開くことはなく、自分の誕生パーティーは王都で一人済ませていたので現状誰も気にすることはないはずだ。
まだ、リサが伯爵になったことは周知されていないのだから。
家の人間だけでやる小さな誕生会と言っても使用人たちは大切なカトリーお嬢様の誕生日だと張り切っていて、控えめながら盛大にやるつもりらしい。
仕事別のメンバーでお金を出し合って買ったプレゼントはカトリーの目に触れない場所に隠してあり、その他事前準備は全て終えていてあとは当日を待つばかりである。
使用人にとっては自分たちのいなかった約二年間、その間にあったカトリーの祝い事も全て含めたパーティーなのであって、見た目は平常心でも心の中はそわそわとしている。
カトリーに気づかれないように家の中をメイド長が確認して回っていると来客を告げるチャイムがなって、対応に出た使用人の女性は大慌てでメイド長と執事のもとに駆け込んだ。
「ヘンリーさん!メイド長!大変です!」
「なんですか、騒々しい」
「問題でも起きましたか」
メイド長が小言でも言いたそうに、ヘンリーが落ち着くようにといったふうに何があったのかと尋ねると使用人は、受け取った荷物を置いた部屋まで二人を連れていった。
「その、こちらなのですが……」
綺麗に整えられた部屋の中央に置かれた机の上には、今の季節に咲く花で作られた立派な花束と、大人が手のひらを広げたくらいの大きさの綺麗に包装された箱が置かれている。
使用人の女性はその荷物を受け取った際に一緒に届いたメッセージカードをヘンリーに渡す。
「……ダニエル・ノア・オーキッド様」
ヘンリーは確かめるように差出人の名前を声に出し、メイド長が目を丸くする。
ダニエルとカトリーの婚約は、まだ正式な書類を提出出来ているわけでは今は口約束レベルで、婚約(仮)状態であり誕生日プレゼントが送られてくるとは思っていなかった。
「ダニエル様からプレゼントですか」
「わざわざお贈りくださるとは」
今カトリーはリサの部屋でリサと一緒にお茶をしている。
ヘンリーは花束を丁寧に抱えると、使用人の女性に箱を持って付いてくるように指示をしてリサの部屋に向かった。
部屋にやってきたヘンリーの表情からリサはなんとなくそれが何か気がついたようで、口元に手を当ててまあと明るい声を出し穏やかに笑みを浮かべた。
「お嬢様、ダニエル様から誕生日のプレゼントでございます」
「……ダニエル様からの」
目を丸くするカトリーにメッセージカードを手渡し、それにカトリーが目を通した後で小さな箱を渡す。
花束はラッピングされた状態に目を通してもらってから、花瓶に生けてカトリーの部屋に飾るようにする。
カトリーがリサを見るとリサは優しい笑みをして小さく頷いたので、カトリーは手にしている箱の包装を取って箱の蓋を開けた。
中には大きめのリボンがついた髪飾りが入っていた。
「…………」
「素敵な髪飾りね」
手に取るを躊躇うようなカトリーは、それでも、髪飾りから目が離せない。
気に入ってはいるようだ。
その様子にリサはクスクスと笑って、カトリーの侍女を呼ぶようにヘンリーに指示をだす。
「カトリー、つけてみたらどうかしら」
「でも……」
「きっと似合うと思うわ」
「そう、ね。大事に眺めているだけじゃお礼も書けないもの」
ちょうど部屋にいたカトリーの侍女に、その髪飾りをつけてもらい、ヘアアレンジもしてもらう。
それをつけたカトリーはちょっとだけ大人びて見えた。
「とてもよくお似合いです、カトリーお嬢様」
「そうね。大人っぽく見えるわ」
カトリーが褒められて頰を染める。でも理由はそれだけではなさそうだ。
「良かった。わたしには似合わないんじゃないかって不安だったから」
「ダニエル様がカトリーのことを思って選んでくださっているのなら、似合うのは偶然ではないわね」
使用人が選んだ可能性もあるけれど、リサにはどうしてかそうは思えなかった。
ダニエル自身が選んだような気がするのだ。
「ダニエル様にお手紙書いてきます。お母様、便箋はありますか」
前にトムに買ってきてもらった便箋では、シンプルすぎて味気ない。
ダニエル様に送るものならおしゃれな便箋がいいとリサに尋ねると、ヘンリーが既に用意していて、カトリーはすぐには決められず自分の部屋に運ぶことになった。
きっとかなり時間のかかることだろう。
「それにしても、カトリーの誕生日をどうして知っていたのかしら」
カトリーがいなくなった部屋で、リサが疑問を口に出す。
簡単に調べられることなので、知っていても何の不思議もないのだが、ほとんど表に出てこなかったカトリーのことを知るのはほとんどいない。
「おそらく、シド様やトリス様でしょうか」
「知る機会はあったかもしれないけれど、どうしてあの子たちなの?」
ヘンリーは穏やかに言った。
「同業者としての勘でございます」




