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36 久しぶりに

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 カトリーは鏡台の前に座って、髪を結われていくのをじっと見ていた。

 

 だんだんと戻ってきた使用人たちは、リサとカトリーに会えたこと、再びグレイ伯爵家でリサとカトリーに仕えられることに歓喜をして以前よりも張り切って働いていた。


 今日はパーチメント伯爵家から誕生パーティーの招待状が届いたので、王都にある別邸で参加のための支度をしているところだ。


 家が少し落ち着いてきたこともあり、リサは今までの疲れが一気に出たらしく本邸で留守番、パーティーへの参加はカトリー、一人だけである。

 参加を見送ることもできたが、リサが礼状を送っているとはいえ行かないのも気が引けた。


 久々に参加するパーティーが一人という事にカトリーは不安と緊張は隠せないが、それでも――新しいグレイ伯爵家として、伯爵家の令嬢としての役目はしっかりと果たしたいと思うのだ。


「お嬢様も緊張しておられるのですね」

「キャリーもなの?」

「はい。久しぶりですから」


 カトリーの髪を結っている使用人キャリーが苦笑のように笑っていった。

 キャリーも二年間こういった人を着飾ることはなかったため久しぶりすぎて緊張していると言う。


「ですが、バッチリお嬢様を愛らしくしてみせますからね」


 そう言ってキャリーは自分の腕を叩いた。

 緊張はしていてもカトリーを着飾ることに妥協は許さないようだ。


 キャリーの手によってパーティー仕様になったカトリーは、パーティー会場に向かった。


 自身の不安を隠して、習ってきたことを思い出しながらカトリーはパーティー会場に入る。


 思ったよりも会場に人は少ない。

 見た感じは同じ年頃の令息や令嬢よりも、大人が多いようだ。それもパーティーの装いというよりもどうしてだろうか、仕事のための装いをしているような気がする。


 妙な違和感を感じていると、背後から声をかけられる。


「カトリー。良かった、まだ捕まる前で」

「クラウディオ様、シド様たちもいらしていたのですね」


 声に振り返ると見知った顔がありカトリーが安心すると、ディオたちもまた違った意味でカトリーを見て安心していた。


「この子がカトリーヌさんね」


 ディオたちと一緒にいる気だるげな美人がカトリーを見て口を開いた。

 フランとよく似た顔立ちをしている。


「うん。グレイ伯爵家の」

「妖精が絡む時だけは素晴らしいわね」


 戸惑うカトリーにデイジーは微笑むとパーチメント家の次女でフランの姉だと名乗り、カトリーが慌てて名乗る。

 事情はフランから事前に聞いているので、むしろ不安そうなカトリーが微笑ましいようだ。


 滅多に参加することがないだけあってパーティー自体慣れていないだろうに、よりによって変人の巣窟のパーティーが久しぶりのパーティーとなるのだ。

 なんとか普通に見えているが困惑するのは当たり前だ。


 招待客のおおよそ半分は誕生パーティーのため純粋にお祝いに来てくれているが、残りの半分はパーチメント家の研究結果及び、その副産物による商品の商談のために来ているのだから。

 本来あるべきような雰囲気は見当たらない。


「フランとトリスはなるべくカトリーから離れずデイジーさんと一緒にサポートしてあげてね」

「はい」

「うん」


 ディオはシドとアルドだけを連れて、人の多い場所に向かい、あちこちから声をかけられその対応をしていた。

 慣れない対応の手伝いをするアルドはいつもの淡々したのは何処へやら、手こずりながらもそれなりにやっていた。


 カトリーは挨拶など、どうしたらいいのかトリスに尋ねると、トリスはデイジーに答えを求めた。

 この家は他の貴族と比べると少々ズレがあるため勝手が違うところがあるので文化の違う場所といったふうだ。


「そう大きくは変わらないと思うけれど、主催に声をかけておけば間違いはないかしらね」

「かといって、その主催がうろちょろしてるから動かない方がいいかも。カトリーちゃんのところには必ずくるはずだからね」


 デイジーとフランには絶対的な自信があるようだ。

 よく分からないが、その家の人間が言うのなら間違いはないのだろうとカトリーは従うことにする。


 そうしていると、歳若い令息と令嬢の二人が寄ってきてデイジーとフランに挨拶をするだが、フランを見て露骨にガッカリした顔をしていたので、フランは苦笑をする。


「一応、正式な場だからね」

「分かってはいますが、()()()が揃ったこの機会、是非とも六姉妹の姿で拝みたかったです」

「またいずれね」


 デイジーが別れの挨拶を切り出して二人が去っていく。


「六姉妹……」


 記憶を探るようにカトリーが呟いて、フランが頰をかく。


「正確には五人姉妹なんだけど、僕はこの容姿だし、昔は姉さんたちに女装させられて参加してたこともあるからか、六姉妹が定着しちゃって」

「そうだったんですね」

「うん。そのせいか、時折ああいった人がいるんだよね」

「タイプの違う美人が揃ってるなんて言われてね」


 まるで劇場の役者につくファンのようだ。

 それぞれの容姿と個性、パーチメント家という一つのグループとしてはそういったファンのような人間もいるようだ。

 話を聞いてもらいやすくなったぶん、パーチメント家としては問題ないと判断されている。


 それから、雑談をしていると本日の主役である二人の令嬢がお揃いのドレスでカトリーの元にやってくる。

 顔つきも声も全てが似通っている二人は、フランの双子の妹だ。


「フラン兄、彼女が妖精に好かれてる子なの?」

「その、カトリーヌ・メル・グレイさんですよね。フラン兄さま」

「ええ、そうよ。けれどまずは自己紹介をしなさい」


 デイジーに促され初対面だと今思い出した双子はそれぞれカトリーに名乗る。


「あたしがヘレンね。()()の末っ子」

「初めましてカトリーヌさん。わたしはご――四女のジゼルです。その、よろしくお願いします」


 見分けはつかないかと思ったが、以外と簡単につきそうだ。

 内気な感じなのが四女のジゼルで、明るく元気な方が五女のヘレンで、見た目はそっくりだが性格は反対らしい。


「こちらこそ、よろしくお願いします。ジゼルさん、ヘレンさん、お誕生日おめでとうございます」

「ありがとございます」

「ありがと」


 カトリーの祝いの言葉にお礼を返したヘレンは、カトリーのことを爪先から頭までゆっくりと視線を移動させる。

 ヘレンほどではないがジゼルも一緒だ。


 怯えるカトリーの前に立ちジゼル、ヘレンからカトリーを隠したデイジーは呆れながらため息をつく。


「ジゼル、ヘレン。それは相手に失礼な行為よ」

「そうでした。すみません、カトリーヌさん」

「だぁって妖精に好かれてるってことは、研究の素材としては最高じゃない」


 反省するジゼルとは違い、ヘレンは自分の興味が優先らしい。


「ヘレン、そういうのはせめて家の中だけにしてちょうだい。面と向かって言うべき言葉ではないのよ」

「はーい」


 返事だけをしたヘレンを叱るのを後にしたデイジーはカトリーに家族の非礼を詫びる。

 フランもだいぶシドたちのおかげでマナーがなってきたとはいえど、現在のパーチメント家で一番の常識人はデイジーなのである。


「――きゃ」


 そこに突然現れたアレックスがデイジーをカトリーの前に据えたままカトリーの肩を両腕で掴む。


 トリス、デイジー、フランの一瞬だけのアイコンタクトですぐさまトリスはカトリーからアレックスを引き離す。

 少々、乱暴な手になってしまったが家族が了承済みなので気にしない。アレックス自身もつゆほど気にしていない。意識はカトリーに向いている。


「君を調べさせてくれないか」


 謝りもせずアレックスから出たのはそんな言葉で、ジゼルもヘレンもカトリーから色良い返事を待つ顔をする。


 フランは頭を抱え、トリスは彼の行動に唖然とし、デイジーは頭が痛いと額に手を当てここで怒るのは良くないとわかりながらも我慢の限界に父と妹二人に雷を落とすのだった。



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