35 参加しとこう
「今年はやるんだ」
フランは自分宛に届いた手紙を読んでそう呟いた。
大抵は家族と使用人だけの誕生会を開くことが多いのだが、気まぐれに人を招待しての誕生パーティーを開くこともある。
理由は王家から開催するように言われ、誕生パーティーという名前で研究成果を世間に知らせるためでもある。
パーチメント伯爵家が研究に没頭しすぎて時に庶民より常識が飛んでいることがある家といった認識なのに、世間に許容されているのはその研究成果によるところが大きい。
何をやっているのかよく分からない不審な家も、成果を見せてそれが自分たちに役立つものだと分かると無くなっては困ると割と自由にさせるものだ。
フランは実家のパーティーに顔を出してもいいか尋ねるためにディオの元に向かった。
「ディオ様、ジゼルとヘレンの誕生パーティーがあるみたいで行ってきてもいいかな?」
「もうそんな時期なんだ。行ってきてもいいけど、今年は大々的にやるんだね」
ディオからの許可はすぐに出る。大々的にやるパーティーの方に驚きがあるようだ。
頷いたフランも珍しいといった風で驚いていた。
「婚約が決まったとかでしょうか」
「良い研究結果でもあったとか?」
「それならいいけどね」
心配でもあるような声音のフランにシドが声を挟む。
「それにしては浮かない感じに見えるが」
「あー、うん。この前、妖精についてだけは父さん鼻が効くって言ったと思うけど……」
「うん。言ってたね」
フランはもしもの話だと前置きをして、それからゆっくりと話を始める。
「仮定の話だけど、もしグレイ伯爵家のことがわずかでも耳に入っていたとするのなら……」
「嗅ぎつけたってこと?」
アルドの言葉にフランがうなずく。
思いたくはないけどといった風な顔をする。
情報が漏れたとはもちろんフランは思っていないが、なにしろ相手は妖精に関してだけは異常な嗅覚を誇るのだ。
何かを感じ取っていてもおかしくはない。
「多分ね。本当に妖精に関してだけは敏感だから」
「つまり、自然にカトリーとの繋がりを持つためだってことか」
「割と歳も近いみたいだから、呼ぶつもりなんだと思う」
歳の近い令嬢なら招待状を出しても違和感は出にくく、来てもらいやすいだろう。
それに、領地の立て直しのためにパーチメント家の商会を誘致しているため顔を出してくれるだろうという打算もあるのだろう。
逃げられては困るので、こういう手を使ってあくまで自然な流れにと考えたらしい。
「それなら、ディオにも招待状は来るだろうな」
「研究対象は増えてもいいからね」
「………………」
後日、安全確認のされたパーチメント家から誕生パーティーの招待状がディオ宛に届き、ディオたちはやっぱりといった顔をする。
「まぁ、くるよね」
「そうですね。主催はパーチメントですから」
招待状はディオ宛だが、丁寧な整った字でシドたちもご一緒にと付け足されている。
パーチメント家は妖精研究をしているため、ディオのこともよく分かっているのでディオが寝てしまったところでそれなりの対処はしてくれるのでいいのだが、問題は彼らの飽くなき探究心だ。
おそらく、デイジーはパーチメント家でディオ一人にさせたくはないのだろう。
敵は複数、味方は多い方がいいのだ。
「参加はするとして、全員参加でいいよね」
「そうだな。フラン、話は通しておいてくれ」
「分かった」
いつものように歳の近い令嬢を適当に招待するのとは違うので、比較的安全な相手にカトリーのことを伝えておくべきだろう。
久々のパーティーがリハビリにもならないのでは困るのだ。
フランは研究熱のない方の使用人に向けて手紙を書く。
主人たちに付き従うわけではないため見つかりにくく、住み込みではない使用人宛にしておけば安全性はより強まる。
少しでも早く伝わるように書き終えた手紙はすぐに届けてもらうにして、パーティー開催当日までにやるべき準備をすることにする。
さしあたってやるべきことはアルドの服を揃えることだとシドが言って、それぞれに新しいものを買うことに決まった。
グレイ伯爵に会うために行ったパーティーでは、急遽だったので公爵家からダニエルの服を借りることでアルドを参加させたが、正式にディオ専属と決まったこともあり自分のものが必要だと判断された。
ついでではあるが、パーチメント家は思いの外服の流行には明るいので、あまり流行の遅れた格好で行くわけにもいかないのだ。
それからアルドに貴族のパーティーに行った際のマナーをシドとトリスが教えていたのだが、何故かフランもアルドと一緒に学ばされていた。




