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3.5 商人一座

ブックマーク、評価ありがとうございます。

励みになります。

 グレイ伯爵の家での商売を終え、馬車は走り出す。


 トップが緩いためにどこに向かって走っているか知るのは、馬を走らせているただ一人だけだ。


 馬を走らせるシドは、いつも眉間にシワに寄せているような人物で、青の髪は冷静さを強く感じさせる。

 彼はこの一団のまとめ役を担っていて、トリスとは兄妹である。


「そういや、ディオ。髪飾り(あれ)は渡してよかったのか」


 トップであるディオにシドが問いかけると、トリスも頷く。


「あれは売り物ではないとディオ様はおっしゃっていましたが」

「さすがに妖精にまつわるものだし、気軽に売り物ですとは出来ないよ。あの家で見かけたから、渡しただけ」

「へぇ、どこにいたの?」


 尋ねたのは一見女性も見間違えるような愛らしい顔つきの青年フランだ。


 妖精が見えるのはディオだけで、他のメンバーは存在を感じることすら出来ないので、いることすらわからない。

 いるとわかるとしたら、イタズラをされた時だろうが、妖精の存在を感じとれる人間は稀なので、むしろ気づく方が難しい。


「ご令嬢のペンダントを持ち上げようとしてたのと、あの子の親の頭をペシペシ叩いてたよ」


 妖精はペンダントを持ち上げようとするも、持ち上げられず真っ赤な顔をしてたらしく、ベアトリーチェの頭を叩いていた妖精も力がなく、せいぜい髪の毛をわずかに揺らす程度にしかなっていなかったようだ。


 ものを隠すことはあるがあそこまで必死なのも珍しく、ベアトリーチェに対しての行動

は妖精のイタズラにしては少々、直接的な暴力すぎる。


 幸い力のない妖精だったようで害はないが、あの二人を嫌っての行動といったふうだ。


「おかしな家」


 薄い灰色の髪の少年アルドが淡々と呟く。


「嫌う人間がいるのに居ついてるってのはアルドの言う通りおかしな家だな」

「元々あの家自体が妖精に好かれやすい家系だから、離れないだけなのかも」

「そういうもんか」


 納得できなくても納得するしかないとシドは流す。

 ディオに危害がなければそれほど重要ではないらしい。


「ま、実際はわからないけど。わからないと言えば、伯爵家にいた子供使用人についてどう思う?」

「そうですね。あの子の方がご令嬢らしく思いました」

「勘じゃないとか、おかしいでしょ。貴族でもなきゃ」


 トリスとアルドが率直な意見を言うと、ディオはそれに同意する。


「だよね。行儀見習いにしてはあの子の方が立ち居振る舞い完璧だったし」

「もしそうなら、あの子が指輪を盗んだとも考えられるけど……」

「どちらも違う気がします」


 トリスが否定をしてディオはため息をつく。


「もしかしたらはあっても、確証があるわけでもないし、仲良くなってみるしかないよね」


 しばらくはこの辺りで商売を続けるとディオが決め、シドは計画の練り直しだと眉間のシワが深くなる。


「ったく、お前は毎度毎度――」

「兄さん、この考えなしは今に始まったことではありません」

「それもそうか。考えなしだもんな」


 シドとトリスの兄妹に貶され、むくれるディオは背中しか見えないシドに声を荒げる。


「ちょっと、二人ともオレに冷たくない⁈」

「こうなったのはお前の自業自得だろうが!」


 自由すぎるディオを止めるには、クソ真面目にやっていては食い止められなかった。

 そのため、だんだんと乱暴な扱いになっていったのだが、その度に周りからは苦労をかけると言われるだけで咎められたことはない。


 ますますむくれたディオはシドへの反撃の手をないかと探す。


「まさかこのプリティチャーミーでモテまくりのオレに嫉妬を?」


 いい閃きだと言わんばかりのディオの発言。


「それはない」

「それはないです」


 兄妹コンビが声を揃えて返すと大きなあくびをしたアルドがディオを冷たい視線を向ける。


「三人ともうるさい。寝られないんだけど」

「騒いでるのはあいつだけだ」

「騒いでるのはディオ様だけです」


 またも声が揃うシドとトリス。


「またハモってるぅ。フラン、みんながオレに冷たい……」


 ディオは涙目になりフランに泣きつく。

 フランはよしよしと、子供をあやすような扱いをしてディオを励ます。


「もう、みんなディオ様のことをいじめすぎだよ。こんなでも僕らが仕えるべき主人(あるじ)なんだから」

「ぐす……みんな嫌いだぁ」


 フランの言葉がトドメとなって、ディオは馬車の端っこで小さく縮こまり、完全にいじけてしまう。


「フランのせいだな」

「フランさんのせいですね」

「フランのせい」

「え?僕のせいなの?」


 シド、トリス、アルドに責められたフランは理解が出来ていないようだが、日常茶飯事のことなので狼狽えない。


 ここに来るまで買ったお菓子を荷物の山から探し出し、フランはディオの目の前まで持っていく。


「ディオ様、食べる?」

「……食べる」


 フランがいつ取られたかわからないほど素早くお菓子を取ったディオは縮こまったままそもそもと食べ始める。


「おかわり」


 少し多めにフランがお菓子を渡せば、ディオはアルドに食えと進めていて、お菓子一個で機嫌は直ったようだ。


 ディオの機嫌に気を使いつつ、もう一軒だけ商売に回り、今日の予定を片付けると予約していた宿に向かう。


 アルドを抱き枕に寝てしまったディオを、露骨に迷惑そうな顔したアルドごと放置をして、シド、トリス、フランは今日の片付けと明日の準備をテキパキとしていく。


「ねぇ、これ邪魔なんだけど」


 耐えきれなくなったアルドが力を借りようと仕事中の三人に声をかけるが、返ってきたのは冷たい答えだった。


「アルド、お前の犠牲は無駄にしないから安心しろ」

「この方が仕事が捗るのでアルドさん、よろしくお願いしますね」

「ごめんね、アルド君。一時間以内には終わらせるからそれまで耐えててね」

「…………………………わ、かった」


 不服そうに答えたアルドを救うべく、間違いが出ないようにでも急ぎ彼らは仕事を終わらせると、ディオを叩き起こす。


「ん〜、アルドがいる」

「早くどいて」

「ああ、ごめんごめん」


 アルドから離れたディオは首をプルプルと振ると意識を覚醒させる。


「何かあったの?」

「お前が見たいって言ったんだろ」

「ほえ、蝶の星渡り?」


 この辺りの名物で、光る蝶が夜の間に島から島へ移動する光景のことだ。


「行かないなら――」

「行く‼︎」


 元気よく飛び跳ねたディオはすぐに部屋から道もわからないのに出て行くので、慌てて四人が追いかけて引き止め、一緒に歩き始める。


 こうして今日も彼らの一日が終わる――。

ディオたちもよろしくお願いします!


ディオたちの物語『ヒメノカリス』も連載中なのでディオたちが気に入った方はぜひそちらもどうぞ。

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