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34 そういえば、うやむやだった

お読みくださり、ありがとうございます。

 リサが伯爵家に帰って来た翌日、ディオたちはささやかなパーティーを開いた。

 当日にやらなかったのは疲れているだろうリサを配慮した結果だ。


 トムとディランも参加で、イグネイシャスは調理の間に何度か顔を出していたが、久しぶりに料理をしっかりと奥様とお嬢様に召し上がってもらえると、自慢の腕を振るう方が先に立つようでパーティーの参加は控えめだった。


 本人も帰ってきたことを歓迎される立場なのだが料理人としての矜持があるようで、ひよっこ(なまくら)どもに任せられないと、美味しさに舌を巻く料理を作り続けていた。


 リサはいくら体調がいいと言っても、あまり疲れさせてはならないとパーティーの時間はそう長くはない。

 まあ、リサが疲れを見せる前にディオが眠ってしまいパーティーから抜け出すことになってしまったが。


 事前に寝ることをせずにテンション高めでいたので仕方がないのだが、パーティーの片付けまで終わったあとで、シド、フラン、トリス、ダニエルに叱ら――お説教をされていた。


 グレイ伯爵家に滞在するディオたちは何事もなく平穏な日々を過ごしながら、早めに戻ってこられたかつての使用人と、今いる使用人たちを少しずつ入れ替えていく。


 現使用人に住み込みはほとんどいなかったため、パーチメント家の商会を誘致するだけで済み、話はとにかく速かった。


 フランが言っていたように事後承諾にしてしたが特に問題はなかった。驚きなのはそこに当主は一切関わっておらず全てパーチメント家の執事によって進められたことだ。


 そしてこの家に限っては、執事が当主の代理としての権限を国から与えられていることをダニエルは初めて知ることとなった。

 もちろん、長年の仕事ぶり、パーチメント家や複数の家の信頼があってこそだが。


 パーティーから半月が過ぎた頃、グレイ伯爵家の執事を務めていた初老の男ヘンリーが舞い戻ってきた。

 グレイ伯爵に飛ばされた先での引き継ぎを素早く終わらせて戻ってきたとのことだ。

 かなり優秀な人物なのだろう。


 ヘンリーはリサには執事らしい対応を心がけてはいたが、彼にとっては昔から知るリサお嬢様であり親のような心が溢れていた。

 カトリーへの心配で少しやつれてはいるが、それ以外は健康で顔色のいいリサに安堵をしていた。


 カトリーの姿を見たヘンリーは、子供の成長の早さに瞳が潤んでいた。

 たった二年、されど二年――幼い子供は美しい少女になっていた。


 これまでは、当主であったグレイ伯爵に経営に関して口出しするなと言われ続けて、使用人の統括が主な仕事になっていたが、彼がいないのならヘンリーは存分に実力を発揮出来る。


 グレイ伯爵家に忠誠を誓った者として、もう二度とこのようなことは引き起こさせないとヘンリーはリサ、カトリー、そしてクラウディオの前で誓った。


 そしてヘンリーが戻ったことで、ダニエルの役目は終わり帰る日がやってくる。


 指導者がいたとはいえ、ダニエルの手腕は素晴らしくまだハッキリとした成果は出ていないがヘンリーは先のことまで見据えた設計にえらく感心していた。


 あってないようなヘンリーへの引き継ぎも終わり、ダニエルが帰る前日、リサたちは今できる感謝の会を開いた。

 ディオはまだやることが残っていると、しばらく滞在を続けるようだ。


「ダニエル様。本当に本当にありがとうございました」


 リサが震える声でダニエルに感謝の言葉を紡ぐ。


 本来なら伯爵家がなくなってもおかしくなかった。存続出来るだけでも王家の慈悲が大きい、そこに王家直々に家の面倒を見てくれているのだ。

 感謝してもしきれない。


 ダニエルは小さく頭を横に振った。


「僕は何も。グレイ伯爵家が繋いできたものがあったからこそです」


 妖精に好かれる家を失くしたくないのも事実とは思うが、今までずっとグレイ伯爵家が積み重ねてきた王家に対する誠実さがあったからこそだとダニエルは思う。


 カトリーがリサに続いて礼を言う。


「ありがとうございました、ダニエル様」

「婚約者ですから。少しくらいは力に――カトリーさん?」

「えっと、誰が、誰と……」


 ダニエルの言葉を上手く飲み込めず、理解出来ないとカトリーは確かめるにゆっくりと尋ね、ディオが 忘れていたと言うふうに声を上げる。


「あっ、そうだ。カトリーまで話がいってなかったんだよね」

「そうでしたの。てっきり知っているものだと」

「立て直しが先で婚約(こっち)は放置だったもんね」


 カトリーだけが知らなかったと思い出したリサたちの会話にカトリーはますます困惑する。


 ディオは言い忘れていたと、説明のために口を開く。


「ダニー、ダニエルとカトリーに婚約の話があって、お互いが嫌じゃなければこのまま正式決定しようと――」


 途中で話すのをやめたディオは、全員の視線の集まるカトリーを見る。

 みるみるうち顔が真っ赤に染まっていくカトリーは耳まで赤くなり、今にも湯気が出そうなほどだ。


 リサはその様子に口元を隠してクスクスと笑う。

 ここまで恥ずかしがる娘を見るのは初めてだ。


「話は進めても大丈夫そうね」

「ダニーもそれでいい?」

「はい、構いません。彼女となら互いに尊重し合えると思いますから」


 ダニエルの返事を聞いて、ディオはお酒ではなくジュースの入ったグラスを持つシドに声をかける。

 いかなる時もディオの護衛という任務は途切れることはないので酒を飲むわけにはいかない。


「シド、書簡をお願い。もしかしたら手続きした気でいるかも」

「分かった」


 グラスをトリスに渡したシドは、明日帰るダニエルに持って行ってもらうためにすぐに書簡を書きに部屋に戻った。


 翌朝、ダニエルを迎えに馬車がやってきて、ディオやリサが見送りをする。


 カトリーは意識しすぎてどんな顔をしていいのか分からないと見送りに来ることはなかったが、伯爵家にいる妖精がダニエルにそれを漏らしダニエルは赤面しながら帰って行った。

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