30 それもいいかもね
妖精石の鑑定も済んで、城に戻ったディオたちは休む暇もなく陛下に呼び出され、商人として見てきたグレイ伯爵家について聴取されていた。
どうやらのんびり過ごすとは行かないようだ。
グレイ伯爵、ベアトリーチェ、シーダの細かい処遇を決めるためだ。
お家取り潰しはこそしないが、王家を謀ったことは罪としては重い。
伯爵家の取り潰しがないのは元々リサの生家だからで、伯爵家は信頼の置ける家はといってもグレイ伯爵は違うので欠片の慈悲もかけるつもりはないようだ。
もっとも、エルザの怒りによるもの大きいが。
だが私怨を持ち込むつもりはないようで、あくまでもこの国のルールに則った処遇としてである。
常識の範囲内であれば、立場をどかして可愛い妹分たちをひどい目に合わせたことにおける個人的な復讐は陛下は咎めるつもりはないらしい。
もう一度いうが、権力なく常識の範囲内であるなら――である。
「こんなものか。長くトリスを置いておくわけにもいかん」
「そっか」
そこにアルフレッドがやってくる。
「ディオ、トリスから手紙だ」
「ほんと?ありがとアル兄」
近況報告の手紙の中にディオ宛に書かれたものがあったらしく、アルフレッドはディオに渡す。
ディオは目を通して複雑そうな顔をする。
「問題はない、のかな。トリスらしく効率的だけど」
「どうしたんだ」
そう言ってディオがシドに手紙渡し、フランとアルドも横から覗き込むように手紙を読んでいく。
お手本のような癖のない文字で書かれていたのは、業務過多になるので増援が欲しいという内容で、特に領地経営に関してダニエルやってもらうことは可能かどうか尋ねるものだった。
「あいつは……だが悪い手じゃない」
「あはは、トリスらしいね」
「笑える話じゃないと思うんだけど」
アルドのツッコミ虚しく放置され、その様子にアルフレッドは初々しいと微笑む。
「おじさんに聞きに行こう。シド、馬車出して」
「行かなくても、昼過ぎに来るぞ」
即行動に移そうとするディオに陛下が言う。
それでも行こうとするディオはシドとアルフレッドに止められる。
「ディオ、途中で寝てしまったらシドたちが苦労する。今のうちに寝ておけ」
「ずっと起きてられないだろ、お前は。そろそろ限界だろうに」
「は〜い。分かりましたよ〜だ」
ふてくされるような口調のディオはフラフラと自室に向かって歩き、途中で力尽きたように眠りにつき、警戒してそばを歩いていたシドが受け止めて、部屋まで運ぶ。
「こいつは全く」
「本人もわかってるんだろうけどね」
ディオが起きるを待ちながら、急ぎの仕事もないのでシドはアルドに基礎勉強や貴族のマナーを教えている。
何故かフランも貴族のマナーについては復習だとアルドと一緒にやらされていて、フランは恨みがましくシドに見ていたがシドはどこ吹く風で相手にしない。
ディオが起きるとちょうど公爵も陛下との話が終わったらしく、ディオから話があると聞きディオの部屋にやってきた。
「ディオ、話があるって聞いたが」
「うん。ダニーにしばらくグレイ伯爵家で領地経営してもらいたいんだ」
驚き顔というよりも、斬新な発想だといった感じの公爵は理由を尋ね、ディオはトリスからの手紙の内容とグレイ伯爵家にしっかりと管理できる人間がいないと伝える。
「ま、リサさんが戻っても当主の仕事を全てやるのは難しいだろうしいいと思うが、指導者が必要かな」
どのみち、しばらくは国から代理を送る予定になっていたのでダニエルを送ることは賛成のようだ。
ただし、まだ勉強中なのでいきなり一人に任せるわけにもいかない。誰か指導者がいてくれるならと言う。
「それと護衛がいるとなおいい」
「期限を問わずできた方がいいよね」
公爵の言葉にディオが納得して付け足す。
そして公爵とディオの視線はゆっくりとシドに向かう。
家を継ぐ気がなくとも次男という立場は長男のスペアという考えもあって、万が一に備えて長男同等かわずかに質を落とした知識を身につけさせる。
シド・ブラウ・レグホーン
レグホーン侯爵の次男であり、第三王子クラウディオに仕える身として幅広い知識を持ち、護衛の役目も持つ。
まぁ、なんだ。
わざわざ人を探さずとも目の前に適任がいるのだ。
ディオがダニエルと一緒に行けば護衛を少し増やすくらいで大きな問題はないだろう。
「ディオ、お前も出来るだろ」
「出来なくはないと思うけどさ、理解してもらえる自信はないよ?」
「ああ、そうだったな」
人に何かを教えることが下手なわけではないのだが、シドやトリス、ダニエルといった人たちにはどうにもディオの説明は理解されにくい時があるようだ。
「ダニエルは任せてくれ。ディオ自身たちは連れて行く護衛を選んで置いてくれ」
「いいの」
「ああ。これは親として説得したいと思ってな」
ダニエルの説得は父親の公爵がやることに決まり、ディオたちは一緒に伯爵に滞在する護衛を探すため、騎士の宿舎に向かう。
事情は陛下から伝えられていたようで、好きに連れて行っていいと言われる。
騎士に関してはシドがよくわかっていると、シドが誰を連れて行くか考えることになった。
シドが選んだのは三人。
若手の中堅騎士二人と、問題はないというので騎士団長だ。
団長と若手の一人はディオのことを理解していること、もう一人は口が硬く咄嗟の判断に優れているとシドが選んだ。
五日後、全員が準備を終えてグレイ伯爵家へと向かった。




