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28.5 パーチメントという家は

 妖精石が本物かどうかの鑑定をして欲しいと陛下から頼まれたとフランがデイジーに言って、妖精石を見せる。


「クラウディオ様もいらっしゃると知られたら大変なことね。勘付かれる前に渡した方がいいかしら」

「だよねぇ。こと妖精についてだけはすぐに嗅ぎつけるから」


 フラン、デイジーの父パーチメント伯爵ことアレックス・ハント・パーチメントは妖精に関してだけは妙に鋭い。

 野性の勘が働くのか、どれだけ巧妙に隠しても嗅ぎつけて見つけだすのか、妖精に関するものにだけは非常に運が強い。


「僕一人で行ってくる。ディオ様たちは待ってて」

「気をつけるのよ」


 フランが立ち上がって扉を開けようとした瞬間、扉が勢いよく開きフランが鼻を強く打ち、部屋に入って来た男の前に妖精石が転がり落ちる。

 強打した鼻の痛みすらも忘れるほどに最悪なタイミングだとフランはため息がでる。


 フランとデイジーは目をそらす訳にもいかない事態に遅かったかと頭を抱え、シドは丸腰の相手に警戒心を抱いている。


 このタイミングの良さこそフランとデイジーのいうアレックスの野生の勘なのだろう。


 ここにディオたちがいると知るのはデイジーと出迎えてくれた使用人だけだと言うのに、まるで知っていたかのような絶妙なタイミングだ。


 アレックスは足元に転がってきた石を拾い上げると、デイジーとフランの間から見えるディオを見た。


「ディオ様がいるってことはただの宝石ってわけじゃねぇよな」


 気づいていてカマをかけているかのようだ。

 フランは平静を装って淡々喋る。


「陛下からの依頼だよ、父さん。それが妖精石なのか調べて欲しいって」


 フランが言えば、アレックスは途端に目の色を変える。

 ディオの次に調べたい研究対象が手に入ったのだ。気分は欲しいものを手にした子供である。


「そーか、妖精石か」

「お願いね、お父様。クラウディオ様のお相手なら私とフランがいるから必要ないわ」


 アレックスがディオに視線を固定したまま動かないので、デイジーが遠回しにここから出て行くようにアレックスに伝えたところに、ちょうど部屋の前を通りかかった女性が部屋に入ってくる。


「フラン、帰ってきてたのかい」

「ケイト姉さん……」

「ケイト姉様」


 長い髪を後ろで一つに束ねた女性は、デイジーとフランの姉ケイトリンで口調からはしっかり者といった印象を受ける。


「なんだい、その顔は」

「タイミングがいいなぁって思って」


 表情を隠しきれていないデイジーとフランは、状況の悪化に頭を痛める。

 原因を探ったケイトリンの興味はアレックスの持つ石にうつる。


「父さん、なにを持って――」

「妖精石」

「本物を間近で見られる日がくるとは」


 ケイトリンが興味津々に妖精石を見ているので、陛下から妖精石が本物か調べて欲しいと依頼がきたのだと説明をすると、アレックス同様ディオに視線を向ける。

 研究対象を見る目だ。


「ディオ君、一緒にお茶をしないか。美味いものをいっぱいだすよ。調べさせてくれ」

「同時に調べられるチャンスは最初で最後かも知れないからね」


 ズイと近づいてくるアレックスとケイトリンに、恐怖を感じるディオはシドの後ろに隠れ震えて、アルドも引きつった顔でシドの服を掴んでいる。


 立ち塞がったことも意味をなさなかったことは想定済みだ。

 止められるとは思っていない。


「流石に安全がどうか分からないのにディオ様で実験させるわけにいかないよ」

「安全性の確保すればいいと」


 先延ばしにするくらいしかフランには出来ないが、一応納得したようでアレックスは走って研究室に向かい、ケイトリンはフラン用に仕立てた服があるから確認しなさいと声かけて出て行く。


 廊下が騒がしくなって行くので、おそらく他の家族たちや使用人も合流したのだろう。


「時間がかかると思うけど城に戻る?」

「戻ってもいいんだけど、ベル兄が仕事しなくなっちゃうから」


 ここにいると自分の身の危険はあるが、最近溜まりがちのジークベルトの仕事はかなり片付くだろう。


「結果が出たらすぐに出られるように準備だけしておいて、ここにいたらいいわ。調べ終わるまで出てこないもの」

「それは保証するよ」

「それなら、ここで待つ」


 結果が出るまで数日はかかるというので、客室を用意してもらうことにする。


 フランはそれまでに旅に必要なものを用意するといって家の中を忙しく動いていた。


「フラン、仕立ててくれた服は見なくてもいいの」

「そうだね、一着はリメイクしたから」


 ディオの言葉にフランは部屋のクローゼットを開ける。

 クローゼットを開けて目の前に現れたのはパステルカラーのドレスだった。


 ドレスをどかせば、見慣れない服が掛けられているのでそれが新しく仕立てた服なのだろう。


「フラン?」


 アルドが躊躇いがちにフランに疑いの目を向ける。

 なにせクローゼットの中にはフランがよく着ている中性的なデザインの服の倍はあろうかという明らかに女性用の服が多くあったからだ。


 フランは穏やかに否定をして、デイジーがクスクスと上品に笑った。


「フランは女の子の格好がとてもよく似合ってしまうから、姉妹揃ってつい着せ替え人形にしてしまうのよ」

「服を仕立てに行くと女の子に勘違いされる上に、姉さんたちが自分の趣味に走るからね。こういう服が増えていくんだ」


 そう言いながらフランはいくつかの服をカバンに詰める。

 女性らしい服装を持っていく必要はない気もするが、変装用に必要らしい。


 数日後、鑑定結果を渡されたディオは逃げ出すようにパーチメント伯爵家を後にするのだった。


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