28 報告と隠し事
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グレイ伯爵家から帰って来た公爵は、陛下に報告をするために城に来ていた。
報告を聞こうとアルフレッド、ジークベルト、ディオも集まっていた。
ディオだけは頼みたいことがあるとシドたちも一緒に参加しているが、トリスにはグレイ伯爵に行ってもらったため、ここにはいない。
エルザが暴走していないかも気になっているようだ。
「王家も舐められたものだわ」
帰ってくるなり、エルザの第一声はこれだ。
心底呆れたふうなエルザは、説明をする気すら失せているようで、公爵夫妻に全てを丸投げする。
エルザの機嫌が良かったのは、グレイ伯爵家から帰る際にカトリーが見送りに来た時だけだ。
「 兄上、ご報告します」
「やはり、縁談どころではなくなったか」
そうだと頷く公爵に対して陛下は思った通りだと笑った。
公爵とエルザの表情から陛下はそうなるだろうと言う予想はあったので驚かない。
公爵の報告を聞きながら、ディオはなんとも言えない顔をする。
往生際が悪いのか開き直りなのか、それともディオに気づかれていないとでも思っているか、シーダをカトリーとして連れてくるあたりグレイ伯爵はなかなかに度胸があるのかも知れない。
「あの時は急に老け込んだのに」
「それだけディオが侮られてたんだろ。噂だけを鵜呑みにしてな」
「あはは、王家の恥だもんね」
ディオが呑気に笑う。
周りからすれば腹立たしいものだが、本人はそれを認めた上で言わせているのでどうしようもない。
「庭師の乱入がありまして、リサを静養に出してからの伯爵の様子を教えてくださいました」
「信用に足る者なのか」
陛下の言葉に公爵は大きく頷いた。
「はい、こちらを」
そう言って公爵は、大切に持ち帰った妖精石を陛下に手渡す。
ディオからグレイ伯爵家の庭に妖精がいることは聞いているので、形式的なものだったのは公爵も分かっている。
しかし、ディオから伝えられていない情報は知らせるべきだと持ち帰ったのだ。
「……妖精石か」
怪訝な顔をする陛下と驚いた顔のアルフレッドとジークベルト。
ディオは妖精石に驚く家族に驚いているので、視線が集まる。
「あれ、言ってなかったっけ?」
「聞いてないぞ。シド、どういうことだ」
あの時話を聞いていたアルフレッドはディオではなくシドに尋ねる。
ディオに聞くという選択はないようだ。
「クラウディオ様からの許可を得ておりませんでしたので」
「そういうところだけ真面目にしやがって」
しれっと答えるシドにジークベルトが突っ込む。
アルドにも本性はバレているので世間の理想を演じる必要性を感じないらしい。
ディオをシドに任せて正解だったと満足そうな陛下は、妖精石をフランに渡す。
「専門家の言葉があれば疑う者もいないだろう」
「お預かりします」
受け取ったフランは、わずかに気が遠くなりそうな顔をする。
アルドだけがわからず不思議な顔をしていたが、行けばわかると誰が言った。
公爵夫妻からの報告も終わり、シドがフランにすぐに行くかと問うが、フランを首を横に振る。
「手紙を送るからデイジー姉さんからの返事が来てからでもいいかな?」
「そうして!」
ディオが素早く返事をする。
過去を思い出して怯えたふうなディオは、シドに目で訴える。あの家だけは護衛であるシドもトリスもさほど役に立たない。
シドも何かを思い出したのか頭を抱え、了承をする。
手紙の返事は同じ王都内にいるので翌日には返って来た。
「準備はしておいたけど、止める自信はないって」
「覚悟を決めて行くしかないか」
馬車を走らせ向かった先はパーチメント伯爵家の家で、フランの実家だという。
「フランも貴族だったんだ」
「嫌いになった?」
「そんなことはないけど……」
これならまだ、ディオが王子だということの方がすぐに受け入れられた。
仕えられ慣れていたり、知識の多さに、時折見せる威光。驚きはしたがすぐに納得はできた。
シドやトリスに感じる育ちの良さや丁寧な立ち振る舞いはフランにはない。
温和で博識な一般庶民といった方がフランにはしっくりくる。
「良かった。この家は別の意味で嫌になるかも知れないけどね」
フランから不穏な言葉が出たが聞き返すことも出来ず家の中に入ると、顔立ちの整った使用人が対応にあたる。
「フラン様、お帰りなさいませ」
「うん、ただいま。デイジー姉さんだけを僕の部屋に呼んできて」
「かしこまりました」
話はデイジーから伝わっているらしく使用人たちは人と出会わないルートをフランに教える。
何故か貴族と使用人の会話というより、同僚同士の会話に近い気がした。
フランの部屋は落ち着きのある部屋なのだが、どこか乙女の部屋といった感じだ。
ノックの音が一度だけして静かに戸が開かれ、中に入ってきたのはフランと似ている気怠げな美人だ。
「クラウディオ様、シド様、アルド様、ようこそお越しくださいました。ご迷惑をおかけすると思い出迎えを差し控えさせて頂きました」
「ううん、助かる。あれは怖いから」
「ありがとうございます。そう言って頂けると助かりますわ」
この家は代々、妖精について調べていて必ず妖精を感知できる王家の人間は良い研究対象として見られている。
妖精との繋がりが強いディオに関しては特に目の色を変える。
なにより、恐ろしいのはほぼ一族全員、貴族としての以前のマナーも常識も何処かに落としていることだ。
「デイジー姉さん、母さんはいるの?」
「フィールドワークに行ってるわね」
一番止められる人間が不在ということになるようだ。
それは研究熱が溢れでもしたら誰も止められなくなることを意味する。
「それで詳しくは直接話すと書いてあったけれど、なにかしら」
「うん。それは――」
部屋の外の気配を探るように言葉を止めたフランは足音が聞こえないことを確認してからデイジーに妖精石のことを伝える。
デイジーはディオとフランに視線をやり、フランと同じように困った顔をする。
その顔は姉弟でとてもそっくりだった。




