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27 グレイ伯爵家に乗り込め

お読みくださりありがとうございます。

 公爵夫妻が家にやってくると言われれば、それなりに緊張もある。


 舞い上がるベアトリーチェとシーダをよそにグレイ伯爵だけは顔色が少々悪い。

 カトリーのことがバレているのではないかと内心はヒヤヒヤしているからだ。


 しかし、この面会さえ乗り越えてしまえばシーダはカトリーヌとして貴族社会を大手を振って歩けるようになるとも思っている。

 あまりカトリーを連れ歩かなくて正解だった。


 ベアトリーチェは妻として歩かせるわけにはいかないが、リサの代理として参加させるくらいならそろそろ問題はないだろう。

 身体つきも顔も貴族と比べても遜色のないベアトリーチェなら、そばに置いても恥ずかしくはないし、リサ(あれ)に関して何かを尋ねられるのもうんざりだ。


 おべっかばかりの使用人にあれこれと指示を出し、グレイ伯爵は家の中を隅々まで見栄えのするようにしていくが、及第点すら出していいか迷うほどだ。


 そこにベアトリーチェの趣味の悪い、この家に似つかわしくない装飾品が並んでいる。

 愛した女の好みとはいえ、公爵夫妻がくるのに置いたままにしておくわけにはいかないと片付けさせる。


 リサがいたなら、こんな面倒をせずに済んだとグレイ伯爵は憂う。

 娘のカトリーに頼もうにも、見習いの子供しか頼る者がいないなど恥ずべきことを公爵様に晒すのかと、ベアトリーチェたちがカトリーを使用人のように扱うのを利用されて取りつく島もない。


 それから数日間カトリーには会っていない。

 同じ家にいるはずなのだが一切姿を見ていない。


 公爵夫妻がやってくる当日。

 一応及第点は出せるほどになった家の中を、ソワソワと落ち着きのないグレイ伯爵は歩き回りベアトリーチェに笑われる。


「あなた、何をしているの」

「ああ、すまない。少し不安に駆られてしまって」


 商人が第三王子クラウディオだったことはベアトリーチェに教えていないので、グレイ伯爵の行動が奇異に映るのだろう。


 やがて、使用人の一人がグレイ伯爵を呼びにくる。

 来客はなぜか三人らしい。

 グレイ伯爵たちはダニエルもついてきたのだろうかと思った。


 公爵夫妻との話し合いにベアトリーチェを参加させるわけにはいかないので、グレイ伯爵は一人で対応をする。

 部屋にいた来客は、公爵夫妻となぜか王妃であるエルザだった。


「これは、王妃様まで」

「ええ、リサが心配で押しかけてしまいましたの」


 その言葉にグレイ伯爵の顔が一瞬感情を失うがすぐに気を入れ直す。


「実は、静養に出していましてここにはいないのです」

「そうでしたの。今はどちらに」


 嘘をつくわけにもいかず、グレイ伯爵は正直に答え、いつから静養に出しているのかと聞かずエルザは優雅にニコリと笑う。


「グレイ伯爵、ここに来た理由だが――」

「はい」


 公爵が重々しく口を開く。


「カトリーヌにダニエルとの縁談を申し込みたい」

「お受けいたします」


 二つ返事で返したグレイ伯爵に公爵は、カトリーヌの意思が聞きたいとカトリーをここに呼び出すようにグレイ伯爵に言う。


 自分が席を立つわけにもいかず、部屋に控えている使用人に連れてくるように頼むと、連れてこられたのはシーダだった。


 シーダは使用人から話を聞かされていたのか、部屋に入るなりグレイ伯爵に飛びつき満面の笑みで明るい声をだす。


「パパ、ダニエル様と結婚できるって本当なの?」

「シ――カトリー、まずは公爵様に挨拶をしなさい」


 周りを見ないシーダに公爵たちへの挨拶を促す。


 はぁいと可愛らしく返事をしたシーダが、教師に教えられた挨拶を慣れない手つきでやり、グレイ伯爵は公爵たちに謝罪をする。


 このまま常識が欠如している娘で通せれば、カトリーを娘としてみる必要はない。

 妖精の都合上、家を置いておく必要はあるが自分たちの目に触れないところにおけばいい。


 リサを可愛がっているエルザが不安要素であるが、どうか気づかないでくれとグレイ伯爵は願う。


「不思議ですわね。カトリーヌは青みがかった黒い髪だった記憶しているのだけど」


 頰に手を当てたエルザが疑問だというふうに言う。


「どなたかとお間違えでは?」


 あくまでしらを切るグレイ伯爵は、淡々とした口調だ。


 そこに不躾な戸を叩く音がして、返事も待たずに扉が開かれる。

 入ってきたのは庭師のトムで、トムはマナーもなく乱入したことへの謝罪と、この場にいるべきではない無礼に手を床について謝罪をして、話を聞いて欲しいと懇願する。


 庭師の薄汚い格好にシーダが汚らわしいと言い始めて、グレイ伯爵はシーダを部屋から追い出した。


「ふむ、いいだろう。話せ」

「ありがとうございます。私は幼少の頃より先代の庭師に師事し、長年グレイ伯爵家の庭師として勤めているトムと申します」


 グレイ伯爵が止めようとするものの、公爵が許可を出している手前大きくは動けない。


 長く勤めているだけ、たったそれだけで公爵の信用を勝ち取れるほど甘くはないと、トムはカトリーから借りた妖精石を公爵たちの前にだした。


 この家の植物だけが育ちがいいこと、カトリーが妖精に好かれているらしいことを考えると妖精の住処がここにあってもおかしくはない。

 それなら、妖精石の存在は妖精がいる証明になるのではないかと短い時間の中で決断をした。


 公爵は石を一つ手に取ると値踏みをする。

 ディオから妖精がいることは聞いていたが、妖精石については何も言っていなかったので驚きはあるが顔には出さない。


 妖精石だと見分けはつくが、確認を取ると一つだけ公爵は持ち帰るとハンカチに丁重に包む。


「妖精の石か。それで話とはなんだ」

「はい。カトリーヌ・メル・グレイ様についてです」


 伯爵がいようと、直接話を聞いてもらえるこの千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかない。


 トムはリサが静養に出され、自分以外の使用人が告知なしで急に解雇されたこと、グレイ伯爵は愛人と子供を住まわせカトリーを虐げていたこと。

 その全てを公爵へと伝える。


 決して短くはないトムの話を聞き終えて、公爵は陛下に報告した後、処遇を決めると威厳のある声で言い放った。


 ついでとばかりに監視者を置いていくと、グレイ伯爵たちが逃げ出さないように三人の人間を置いて帰った。

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