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25 リサを迎えに

 カトリーの母リサがいるかもしれない領地の一つで、馬車に揺られるディオは顔色を悪くしていた。


 その隣にフランが座っていて、出来る限りディオの介抱をしていた。

 酔ったわけではないが、ひたすらに何かを堪えるようなディオはとにかく大人しい。


「うぅー、大丈夫かと思ったけど相変わらずきっつい」


 呻くディオが横になり、畳んで手にしていた上着を枕代わりにとディオの頭元に置いたフランはため息をこぼした。


「気持ちは分かるけど、わざわざ馬車の中(ここ)でやらなくても……」

「ここではしっかり休むことも出来ませんので控えてください」

「そうだった」


 領地に入った直後ディオは妖精との対話を試みて、だんだんと顔色が悪くなり3分もしないうちに今の状態になってしまった。

 寝起きの万全な状態でもこの有様だ。


「そんなに難しいものなの?」


 アルドが尋ねる。

 ダニエルは人の声が聞こえるのと同じように妖精の声が聞こえると言っていたし、ディオは集中すれば聞き取れると言っていたので顔色を悪くするような事態になるとは思えないのだ。


「んー、難しいことじゃないよ。ダニーが言うので合ってる。ただ……」


 右腕を額にのせたディオはゆっくりと呼吸を繰り返しながらアルドの疑問に答えていく。

 起き上がるのはまだ辛いようだが、喋れるくらいには回復したらしい。


「ただ?」

「一斉にワーって喋られると、こうなる」

「多分なんだけど、ディオ様は会話というよりも記憶の断片を、一気に大量に見せられてるっていったほうが近いかもね」


 フランが言って、この周りにそんな数の妖精がいるのかとアルドは思ったがそうでもないようだ。


「目に見える範囲にはいないよ」

「拾える範囲が広すぎるんです、ディオ様は」

「遠くの声が聞こえるってこと?」


 トリスが頷いて、妖精に限ってならと補足を入れる。


 正確な範囲はわからないが、幼い頃は城内にいる妖精の声なら城の中にいれば聞き取れていたらしい。


 ディオが体力の回復に努めているうちに町につき、取った宿で一休憩を挟んだディオがもう一度妖精の声を聞き始める。


 椅子に座って目を閉じたディオがフラリと倒れそうになり、シドが危なげなくディオを支える。


「ありがと、シド」


 目を開けたディオは自力で起きる気力もないほど疲れたのか自分で起き上がる気配はなく、シドが呆れた顔をして椅子に座らせる。


 机に突っ伏したディオは目蓋が下がってくるのと戦いながら、妖精への呼びかけで得た情報をシドたちに伝える。


「この領地のいるみたい。湖の近くで静養所というよりはべっ、そう……」


 それだけ言って完全に眠ってしまったディオは、シドによってベッドに運ばれて、その間にトリスがこの領地の地図を用意して机に広げる。


 一つだけある湖を指で指し、その辺りを指で囲む。


「この辺りか」


 細かな地図ではないので詳しくは分からないので後は現地で探してみるしかない。


「通りで見つからないわけだ」


 個人の持つ別荘に隠してしまえば、病院や診療所を探すよりも見つかりにくい。

 人を別荘に送っても、管理する人間を送ったように見えるだろう。


「やっぱり貴族は嫌いだ」


 アルドが呟く。

 貴族の中にはまともな人間もいるとディオたちに会ってから知っているはいるが、それでも貴族への印象はあまり良くならない。


 シドとトリスはわずかに沈んだ顔をする。

 自分たちの責任ではないと重々承知の上で変わらない現状が悔しい。本来、貴族の役目は全てを見きれない王の代理として任された地を民の暮らしやすいにすることだ。


「こればっかりは簡単に解決する問題じゃないもんね」


 フランが場の空気を和ませるように言って、どのルートで探しに行くかをシドに聞く。


「そうだな。山を越えるか、時間はかかるが平坦地を進むかだな」

「時間と安全、どっちを取るかですね」

「あの状態のディオを連れて行くとなると平坦地だな」


 もしまた妖精の声をディオが聞くつもりなら、山の悪路を進むのはかなりの負担になると判断し、少々時間はかかるが平坦地の道に決める。


 点在する町や村を通り情報収集をしながら、湖の辺りまで進む。


 湖まで馬車で二時間程の村からの情報だと、湖の周りには貴族の別荘が複数あるだけであの辺りには医者がいないという。

 最近は避暑シーズンでもないのに、別荘へと行き来する馬車が多いとも教えてくれる。


「場所はわかったし、整えてから行こう」


 ディオたちはエルザから押し付けられていた正装(おどし)の服装に着替えて、リサがいるはずのこの土地の領主の別荘へと向かった。


 ニコニコと笑みを振りまくディオは、決して自ら動かずに指示だけを飛ばし、シドたちがテキパキと動いていく。


 自分でも動きたいディオだが、王族としての威厳のためと安全が確保されていないとシドたちに止められ、なによりリサの正確な居場所を探るために妖精の声を聞きあまり動けないようだ。


 別荘の使用人を一箇所に集めたフランは、彼らの安全と引き換えに、リサがここにいないことを隠し、領主に何を聞かれても知らぬ存ぜぬを突き通すことを約束させる。


 護衛のためにトリスがディオとアルドのそばに残り、シドがリサを迎えに行く。


 リサを連れ出したディオたちは、リサを馬車に乗せて一番近い村まで向かい、落ち着いて話が出来る場所を整える。


 目立ち過ぎるのでいつもの商人スタイルに戻ったディオたちはリサにグレイ伯爵家の現状と、エルザの使いでここに来たことを伝える。


「まぁ、そうなの。カトリー(あの子)に何もなければずっとここにいたって構わないと思っていたけれど――」


 言葉を一度区切ったリサは、静かな怒りを燃やしている。愛する我が子を蔑ろにされた母親の、静かな怒りだ。

 けれど、読み取れてもその感情は一切ディオたちが感じることはなく、怒りは遠くへと飛ばされていた。


「やっぱり、ダメだったのね」


 それから初めから分かっていたようにリサは寂しげに笑って言った。

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