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22 嘘もあるけど

お読みくださりありがとうございます!


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 走り出した馬車の中、カトリーはディオたちに説明を求める。


 なにしろ、何も伝えられずに出発したのだ。

 流石に状況を理解したい。


「それで、お手伝いというのは?」

「あー、それはね、君を連れ出すための嘘」

「え?」


 驚きとともに不思議そうな顔をするカトリーにトリスが説明を買って出る。

 こういうことの担当のシドは馬を走らせているし、ディオに任せ切って途中で寝られても困るので、トリスがやることにする。


「私がご説明します。カトリーヌ様」

「……名前」


 カトリーとは名乗った記憶はあるが、カトリーヌと呼ばれた記憶も名乗った記憶もない。

 もう割と頭がパンクしそうだ。


「私たちは第三王子の下、各地の実際を見て回っています」

「そう、なんですか」

「上がってくる資料だけでは分からないこともありますから。巧妙に隠されてしまえば気づけなくなりますので」


 各地の不正を探っているということのなのだろう。


「今回の件もそうです。そのため、カトリーヌ様を存じているエルザ様に最終のご確認をして頂くために、こうした手段を取らせていただきました」


 なんとなくはカトリーも分かった。

 グレイ伯爵の行動はどこかでバレていて、ベアトリーチェとシーダはグレイ伯爵の本当の妻と子供ではないことももう分かっているのだろう。


「確認……」


 自分のことをよく知っている貴族たちなんていたかどうかもなんてカトリーは思いながら、トリスの言うエルザに関して記憶を探る。


 カトリーの知るエルザはたった一人だけだ。

 貴族どころか王族、王妃様であるエルザ様だけで、母と仲が良かったため何度かあったことがある。


「エルザ様は王妃様の?」


 確かめるようなカトリーの言葉にトリスが頷き、何かを言いかけるトリスをフランが止める。


「ストップ、トリス。情報を整理する時間をあげて

「はい」


 トリスがカトリーを見ると頭を抱えていて、入ってきた情報に処理が追いつかないようだった。


 そうこうしているうちは馬車は今日の宿に着く。カトリーも少しは落ち着いたみたいだ。


 今回は二つの部屋を取っていて、ディオ、シド、フラン、アルドで一部屋。もう一部屋はトリスとカトリーの二人の男女別の部屋分けになっている。


 別々の部屋に入ろうとして、カトリーがフランに視線を向ける。


「よく間違えられるんだけど男なんだ」

「え、あ、ごめんなさい。フランさん」

「平気だよ。幼い頃はよく女装させられたし」


 あっけらかんとフランは笑っていう。

 着ているものが中性的なこともあって余計間違えられるのだ。


 トリスも護衛の役割を持っているので安全面には問題はない。

 何かあるとすればトリスをナンパしようとする奴らくらいだろう。


 ディオが起きてから夕食を全員で済ませて、休んだ後、風呂に入りに行くためにカトリーは用意された荷物を開けて、頭を抱えたくなった。


 あの使用人たちのことだから、ろくに仕事はしないと分かっていたがトランクの中には目一杯の下着類と上着が一着だけしか入っていなかった。

 下着はどれも新品のようだが、それにしても数が多い。


 グレイ伯爵が知ったところで見て見ぬ振りをすると高を括っているのだろう。


 トランクを開けたまま動かなくなったカトリーを不審に思ったトリスが声をかける。


「どうかされましたか」

「ちょっと衝撃的すぎて」


 カトリーの言葉にトランクを覗き込んだトリスは呆れたような声を出す。


「これはまたすごいですね」

「はい」


 そこにカトリーが体調を崩してないかと薬を持ったフランがやってくる。

 トリスは体調は崩していないが、カトリーが着る服がないとトランクの中について説明する。


「まだ隠し通すつもりなんだ。明日には間に合わせるから、今日は備え付けの寝間着を使ってもらって」

「はい」


 明日までに用意をするというので、部屋についている寝間着を使うことにして翌朝。


 控えめなノックの音がする。

 控えめなのはカトリーがまだ寝ているかも知れないという配慮だろう。トリスが扉を開けるとフランが二着の服を持って立っていた。


 薄いグリーンのワンピースと動きやすそうなパンツタイプの服だ。

 このメンバーと一緒にいても違和感のないような庶民的な服装なのだが、なぜかどちらも見覚えがある気がする。


「見覚えがあるのは、僕とアルド君の服をリメイクしたからね」

「フランさん、そんなことも出来るんですね」

「妹のおかげ、かな」


 トリスの言葉にフランは困ったように笑って頰をかく。


「そうでしたか。カトリーさんならもう起きていますので、中にどうぞ」


 肩がけのポーチをかけているということは、細かな手直しをしたいのだろう。

 姉妹たちに付き合わされ、習わさせたというフランの裁縫技術はかなり高い。


 フランの用意した服にカトリーは頰を染め、気に入ってくれたようで何よりだとフランは胸をなでおろす。


 カトリーが着替え終わると、フランは細かな修正をしてカトリーのサイズぴったりに仕上げる。


「うん。これならいいかな」

「ありがとうございます。フランさん」

「こっちこそお古でごめんね。この辺りは子供服屋がないから」


 カトリーは首を横に振る。

 シーダに取られた服と遜色のないほどで、フランが一晩でリメイクしたとは思えないほどの出来だ。


「お似合いです、カトリーさん」


 ワンピースを着たカトリーにトリスがフワリと微笑むと、カトリーは何かを思い出したのかトリスを見つめて呟いた。


「……氷姫?」


 それは侯爵家の令嬢トリスの社交界での異名で、あまり表情が変わらず、誰にでも淡々と話すためにそう呼ばれる。

 昔、一度だけ遠くからこの微笑みを見たことがあり印象に残っている。


 そこでふとカトリーの頭に第三王子の名前がよぎる。


 ――クラウディオ様。

 兄二人と似ていない容姿は、両親ともそこまで似ていないという。

 家族など親しい人からディオと呼ばれていること。


 パーティーに参加してもすぐに帰ってしまうクラウディオ様は見たことがないが、氷姫は兄妹でクラウディオ様に仕えていると嘆きの声をよく聞いた。


 なにより、その兄であるシドは護衛を兼ねているという話で、側を離れるとは考えにくい。


 思考がフリーズしてカトリーが固まる。

 気づいていなかったとはいえ、今までの対応は無礼だったのではとグルグルとまとまらない考えが渦を巻く。


 呼びかけても返事のないカトリーにトリスはどうしたのでしょうかと表情を変えずに言って、フランが人差し指をアゴに当て答える。


「んー、氷姫って聞こえたしディオ様に気がついたんじゃないかな」

「大丈夫でしょうか」

「向こうで教えるつもりだったから平気だと思うよ。ただ、カトリーちゃんの精神面が心配だけどね」


 和やかな雰囲気で昨日はいられたが、残りの日数を緊張して過ごされるとカトリーが心配だ。

 常に緊張して過ごされるのはフランたちからしても困ってしまう。


「そのあたりはディオ様にお任せするとしましょう」

「その方が良さそうだね。伝えとく」


 用事を済ませたフランはディオたちのいる部屋に戻り、朝食と宿を出る準備を済ませると馬車に乗り込む。


 馬車に乗り込む前にカトリーの前に並んだディオたち五人は、カトリーに一つだけ約束をすると言った。


 グレイ伯爵家のことはしっかりと対応すると。


 馬車での旅は良くも悪くも騒がしいディオに振り回されるシドたちの様子に、カトリーは僅かな緊張はあるものの気負うことなく会場まで旅を過ごすことができた。



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