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18 庭師との対面

 カトリーの味方であろう、グレイ伯爵の庭師に会うことを今回の目的として、ディオたちは商人として久しぶりにグレイ伯爵家にやって来た。


 今回の荷物には、前回カトリーに頼まれた花の種のほかに庭師にとっての仕事道具もあり、スムーズに対面できればいいのだが、どうにも楽には進ませてもらえないらしい。


 本日はグレイ伯爵は不在のようで、庭師への商品の販売は偽夫人のベアトリーチェの許可が必要となるが、ベアトリーチェは庭があまり好きではないようで、庭を褒めてもいい反応は返ってこない。


 今ここで庭師の仕事道具を持ってきたなんていったらすぐに追い出されそうだ。


 打開策がすぐに思いつかず、仕事中だというのにしょげて表情に出ているディオの背中にシドの平手がとぶ。

 ディオが痛みに顔を上げると、シドの怒った顔が見える。


 対処、フォローは俺たちがやるから自由にやれということで、ディオはあっという間に明るさを取り戻すと、さもベアトリーチェのおかげで美しい庭があるのだと褒めたたえ、なんとか庭師への販売へ漕ぎつくことに成功した。


 泥まみれを家を上げるわけにはいかないと、案内役をベアトリーチェが探すが誰も行きたがらず、よく庭を知っているカトリーが案内することになった。


 ベアトリーチェはカトリーをジェーンと呼んだが、カトリーはベアトリーチェを一瞥しただけで何も言わなかった。


「カトリー、この前頼まれた花の種は今選んでく、それとも庭師さんたちと一緒に選ぶ?」


 庭師の小屋に行く途中でディオがカトリーに尋ね、カトリーは少しだけ悩んでからトムとディランが好きだという花の種と球根を買い、それから小屋に向かった。


 ディオは庭を歩きながらキョロキョロと視線を彷徨わせて落ち着きがない。


 案内を済ませたカトリーは、ベアトリーチェにすぐに戻るように言われていると屋敷に戻って行った。


 互いに簡単な自己紹介を済ませ、東屋で商品を広げることになり、そこまで移動する。


「本当に素敵な庭ですね」

「ありがとうございます。今はあの子しか見てくださる方がいませんから、嬉しいものです」


 やはり庭師はカトリーにとっての味方なのだろう。同じ使用人の立場に使う言葉使いじゃない。


 カトリーが買った花を除いて、商品を並べると、トムとディランはディオが持ってきた商品の質の良さと珍しさに驚く。


「質もそうですが、滅多に出回らないものまで……」

「伯爵さまでも見つけられなかったものだ」


 見ているだけ満足になりかけているトムにシドが値段を伝え始めると、驚きを通り越して表情がなくなる。


「………………」


 相場よりも安い値段に不良品なのではという考えが浮かぶが、幼い頃からずっと持つことを憧れていたハサミが本物だと見抜けないはずはなく、トムは完全に思考停止している。


 フランは困ったと笑い、安い理由を教えてくれる。


「これはご本人ではなくそのお弟子さんの作品なので安いんです。もちろん、合格点が出されたものなので質については保証します」

「よくこんな小さな商会が……。あ、貶してるわけじゃなくて、大きな商会でも手に出来ないって聞いていたから、すいません」


 ディランが失言をしたと慌てて弁解すると、ディオは気にしていないと笑っていう。


「顔の広さが売りだからね。大抵のものなら揃えてみせるよ」

「それなら、人を紹介してもらうことは出来ませんか」


 必死さの滲み出る声でディランが言って、大方予測はできているがディオが尋ねる。


「どんな人を?」

「伯爵家よりも上の家です。助けたい友人がいるんです」


 ディランの言葉にディオは残念ながらと首を横に振り、店と違って家を紹介するわけにいかないと伝えるディオはまだ何かありそうだが、ディランは気づかない。


 肩を落とすディランはすぐに頭を切り替えると、固まったままのトムを我に返して、自分はせめてカトリーが元気でいてくれるようにとカトリーが好きな花を買っていく。


 伯爵家の庭師ではないので、貯めていたお小遣いで支払うつもりでいたディランだが、トムが全て経費で落とすと大量に買い込んだ。


 ガーデニングハサミだけは自分のお金で買いたいと、トムは今の所持金のほぼ全てを出して、憧れのガーデニングハサミを購入した。


 トムは支払いの途中で、ディオたちに質問を投げかける。


「案内をした子から先日妖精にまつわるものをあなたから頂いたと伺ったのですが」

「はい。あの子なら、妖精が力を貸すのではと思って」


 妖精が存在するのが当たり前のように話すディオはやはり奇異に映るが、なんのてらいもなく言うディオに嘘の気配は感じられない。


 トムやディランが何かを言う前にディオは口を開いた。


 ディオの後ろでは経費での会計を済ませ、商品の片付けを済ませたシドたちが立っている。


「なんとなく分かるんです。妖精がいること」


 ディオには当たり前すぎる光景は、ほとんど誰にも理解してもらえない。

 だからディオは自分の言葉だけをトムたちに押し付けると、返事も待たずに帰るために屋敷に向かう。


 言い忘れたとでも言うようにディオは振り返り、トムとディランにハッキリと告げる。


(ここ)に妖精がいると証明できたなら、陛下とお会いする機会ができるでしょう」


 ニコリと挑戦的に笑ったディオの言いたいことが分かった。


 八方ふさがりかと思うことにも道が出来たとトムとディランは喜びに打ち震える。


 そして、どんな困難でもやってやると決意を新たにするのだった。



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