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16 狙え、邂逅

 行きたくないと思いながら足を運んだパーティー会場は、相変わらず入り口付近で今すぐ帰りたいという思いに駆られる。


 ダニエルが衣服を整えて両親と共に中に入ると、見慣れた団体を見つけて絶句をしてすぐに彼らに駆け寄る。


「ディオ兄さん、なんでここにいるんですか」

「うーん、アル兄の代理?」

「それなら疑問形の必要ないですよね」


 それはそうだと笑うディオは、ダニエルを見て仕方ないとでも言うようにわざとらしい間を空けて口を開く。


「……ダニーが心配だったから、とか」

「騙されませんよ」


 純粋に心配はしてくれているのは分かっているが、それだけが理由でここにいるとダニエルは思っていない。


「まぁ、ちょっとね。確かめたいことがあって」


 ディオの自由さ今に始まった事ではないが、ダニエルはため息をついて不安な顔をする。


 第三王子クラウディオは世間にあまりよく思われていない。

 そのせいか社交の場にディオのいない社交場は第三王子への陰口が多く、ダニエルが社交嫌いになった原因の一つだ。


 ディオのためでもあると理解してはいるのだが、分かっていても自分が大好きな人を否定されるのは辛いのだ。大人びて見えてもきっちり割り切れるほどダニエルも大人ではない。


「そんなに心配なら、一緒にくるか」

「ディオ兄さんはシドさんたちがいれば平気ですよね」


 シドがダニエルに尋ねて、ダニエルが不満げに返す。自分がディオの力になれないのが悔しいのだ。


「そうでもないよ。狙う相手は一人じゃないからね」


 もう一人は来ているかわからないけどねと困ったようにフランがこぼす。

 何故かアルドがいるので、フランの言う相手は子供なのかも知れないと考えたダニエルは、ディオたちについて行くと決意をする。


「一緒に行きます」

「よろしいのですか」

「うん。ディオ兄さんたちといた方が安心できる」


 下心なく声をかけてくる人間だけならいいのだが、欲を持った人間は両親よりも子供のダニエルの方が懐柔しやすいだろうとまとわりついてくる。

 

 こういうことが年齢を重ねるごとにひどくなっていきダニエルは人付き合いが苦手になり、パーティーに余計でたがらなくなった。


 ディオたちといればそう言った相手がくることは格段に減る上、ディオの力になれるならダニエルの中でついて行くのは当たり前だ。


「そっか。ありがとね、ダニー」


 ディオに何故か感謝され、理由が分からず聞き返そうとしたダニエルに、今からダニーも共犯者だと笑う。


「それで何をする気なんです」

「グレイ伯爵とちょっとだけ話がしたいだけ。ついでに娘さんがいたらなぁって」


 そう言ってディオが胸元のポケットを触ると、ダニエルが驚いた顔をする。


「全くディオ兄さんは……」

「いや〜、確かめたくて」


 悪びれずに笑うディオに、シドたちはもう諦めているようで、何もいうつもりはないようだ。


 グレイ伯爵を探し始めた一行は、伯爵を見つけて、ディオとダニエルだけで挨拶に行く。

 シドたちは少し後ろで待機しながら聞き耳はたてておく。


 ディオが声をかけると、グレイ伯爵の視線が何度かディオの胸ポケットに移動するが、互いに平静を装う。


「グレイ伯爵も参加していたのですね」

「今日はお一人ではないようですが」


 ダニエルがピンクの髪色の少女に視線を向けると、グレイ伯爵が二人に少女を紹介をする。


「ええ、娘のカトリーヌです。ご挨拶しなさい、カトリー」


 グレイ伯爵は自己紹介をするように促すが、少女は父親の手を握り見上げて言った。


「ねぇ、パパ。この人たちはだぁれ?」


 少女の言葉にディオは何も言わずただニコリと笑みを浮かべ、ダニエルは驚きを隠せず唖然とする。


 一人顔を青くするグレイ伯爵は、ディオとダニエルに頭を下げ謝罪をし、すぐに少女にディオたちについて教える。


「カトリーヌ、彼らは第三王子のクラウディオ様と公爵家のダニエル様だ。王家の血を引く方々だ」

「そうなのね。私はカトリーヌ・メル・グレイよ。よろしくね、王子様、ダニエル」


 グレイ伯爵の壮絶な顔色にすら気付かず、少女はマイペースに堂々と喋り始め、グレイ伯爵は今にも意識を手放してしまいそうになっているが、ディオはあえて気にしないどころか割と少女に合わせて喋る。


 ダニエルは少女の言動に躊躇いを持ちながらも、ディオがそばにいるから取り乱さずに対応が出来ている。


「よろしく、カトリーヌ。その服、似合ってるね」

「そうでしょ。ダニエルもそう思わない?」

「え、ええ、貴女の髪の色と合っていてお似合いだと思います」


 少女がダニエルに食いついているので、その間にディオはグレイ伯爵に話しかける。


「グレイ伯爵、奥様はお元気ですか。母もとても心配していまして」

「――リサは静養に出していますが、元気にしております。王妃様が心配して下さっていると知ったらリサも喜ぶことでしょう」

「静養ですか。どちらに?」


 ディオが尋ねるとグレイ伯爵はお茶を濁し、友人の領地にいるとだけしか言わなかった。


 確かめたいことは出来たと、ディオはグレイ伯爵との会話を切り上げて、人の少ない場所にダニエルやシドたちと移動する。


「お疲れ様です、ダニエル様」


 少々ぐったりしているダニエルにトリスは労いの声をかけて水を渡すと、ダニエルは疲れきった顔で水を一気に飲み干した。


「あんなご令嬢は初めてです。本当に伯爵家の人間なのでしょうか」

「そうなるよね、あれじゃ」


 あれをすんなり受け入れられる人間がどれくらいいるだろうか。


「ディオ様、そろそろ……」


 せっかくの機会なので情報も集めたいところだが、ディオはそうもいかないので、大人しく帰ることにする。


 ただし、両親がいるとはいえダニエルを一人にするわけのはどうかとディオはトリスとアルドを置いていく。


「あとは任せたからね」

「はい」


 ふくれっ面のアルドは返事をしないので、ディオはアルドの顔を両手で挟んで頼んだからねと言って会場を後にした。


 トリスたちと別れ、馬車に乗り込んだディオは城に帰り、彼らの報告を待つのだった。


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