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13.5 ジークベルト

8時ごろに11.5話も投稿していますので、よろしければそちらもどうぞ。

 ディオが城に帰ってきた翌日の早朝、と呼ぶにはまだ少し早い時間――。


 夜の護衛を担当した騎士と、朝早い使用人しか活動をしていないほど早い朝は、まだ誰もが夢の中である。


 シドはディオの部屋に設けられた使用人用の部屋から物音を立てずに出ると、軽いストレッチをしてディオの部屋から廊下に続く扉に視線を向ける。


「兄さん、おはようございます」


 同じように音を立てずにやってきたトリスが小声でシドに挨拶をする。兄さんも起きていたのですねと小声で付け足す。


「トリスか。まあな、部屋の前にいる護衛じゃ止めるのはキツイだろ」

「だと思います」


 二人が音を立てずに軽いストレッチをしていると、眠そうな顔をフランがやってくる。


「早いね〜、二人とも」

「フランさん、おはようございます」

「お前も十分早い」


 そうだねと言いながら、あくびをするフランはシドとトリスに持ち運びサイズの保温ポットを手渡す。


「寝る前に用意しておいたんだ。役に立てないからこれくらいはね」

「助かる」

「ありがとうございます」


 シドとトリスは保温ポットのお茶を一口飲んで、邪魔にならない端に置く、扉の向こうが騒がしくなり勢いよく扉が開く。


「ディ――」


 扉が開いた瞬間にシドはポケットから出した布を素早く侵入者の口に巻き大声を出せないようにする。


 トリスはシドの動きに合わせて侵入者の腕を掴んでひねり、抵抗される前に静かに床に倒す。


「ジークベルト様、申し訳ございませんがディオ様が目覚めるまでお静かに願います」

「むぐっ。……ムガー!」


 侵入者ジークベルトはアルフレッドによく似た青年で、逆立った髪が特徴的だ。


 押さえつけられたジークベルトは、トリスから逃れようと必死にもがいているがトリスはビクともしない。

 どこを抑えれば小さな力で動きを止められるかトリスはよく分かっている。


 呆れ混じりに大きく息を吐き出したシドは、ジークベルトの近くまで行くとかがんで声をかける。


「ジーク様、流石にこの時間の訪問は迷惑ですので控えて頂けるとこちらとしても助かります」

「おへえらは〜!」


 ジークベルトがシドの言葉も意に介さず、シドを睨みつけているのをみて、フランはシドの隣に屈むと口を開いた。


「可愛い弟の睡眠を妨害することは、ジーク様の本意でしょうか」

「……………………」


 長い沈黙の後、ジークベルトが全力で首を横に振るので拘束をとく。もう大声は出さないはずだ。

 帰る気はなさそうで、ディオの眠る部屋に行くとジークベルトは、ディオの寝顔を幸せそうにじっと見つめていて、その顔は緩みきっている。


 どうやらディオが起きるまで居座るつもりのようだ。


 やがて、日が昇り始めてディオが目を覚ますと、ジークベルトは起きたばかりのディオを抱きしめる。


「ディオ、おかえり!お前が帰ってくるまでの間、兄ちゃんは心配で心配で」

「うぅん、ベル兄がどうしているの?」


 そこまで驚いた様子はないが、朝早くから自分の部屋にいるジークベルトのことが不思議らしく、目をこすりながら尋ねる。


「そりゃ、ディオが帰ってきたっていうからお前の顔を見るためだよ。昨日は止められたからな」

「そうなんだ。ベル兄はすぐ仕事抜け出しちゃうもんね」

「ディオより優先度の高いことはないからな!」


 言い切ったところにジークベルトの使用人がやってきたので、シドが部屋の中に通す。


「ジークベルト様!いい加減にしてください。朝食はご一緒出来るようしておきますので戻りますよ」

「嫌だ」


 意見を一蹴するジークベルトに使用人がため息をつく。

 王子たちの部屋の中だけで済むなら手荒にしても構わないのだが、連れて帰るには人目につくためそうもいかない。

 一応、イメージというものがある。


「――さっきからうるさいんだけど」


 枕を抱えたアルドがやってくる。騒がしさで起こされたせいで機嫌が悪い。


「ああ、すまん」

「申し訳ございません。こちらの方は?」


 シドとジークベルトの使用人がアルドに謝り、初めて見る顔に使用人が紹介を求める。


「うちの新入りです。説明してなかったので」

「そうでしたか。クラウディオ様の……なら問題ないですね」


 シドたちの会話を聞いたアルドは、とりあえず問題ないだろうと判断して、枕を振り上げると、騒ぎの原因と思われるジークベルトに向かって思い切りぶん投げた。


「あっ!」

「おい、アルド」


 投げられた枕がジークベルトにぶつかって落ちる。

 たいした威力ではなかったことにシドは安堵して、アルドにゲンコツを落とし、目線だけでアルドに何をしているんだと訴える。


「――っ。ディオの、同類ならいいかと思って」


 痛みに目に涙を浮かべたアルドが痛みを堪えながら言う。


「いい訳がないだろ。あれでも王子だ、あんな扱いをしていいのはディオだけだ」

「ひどいよ、シド!」

「シド、それでもディオに仕える人間か⁈」


 アルドが枕をジークベルトに投げたこと、シドの発言で、やっとジークベルトはディオ以外にも意識を向ける。


「見慣れない顔があるな」


 ディオ以外を視界に入れたジークベルトは、アルドを珍しそうに見る。


「ジークベルト様、ご紹介します。昨日よりクラウディオ様の専属使用人として採用されましたアルドです。紹介が遅くなり申し訳ございません」


 後半はいら立ちを隠しきれずにシドがアルドを紹介する。

 紹介が遅くなったのは、ジークベルト(おまえ)のせいだと言いたげだ。


「構わない。話す機会を与えなかったのは俺だ」


 ディオを見て緩みきった顔が別人のようにキリッとした顔をしているジークベルトは、落ち着いてアルフレッドにそっくりだ。


 真面目な顔になったジークベルトとは反対に、使用人たちは真面目な顔を崩していく。


「相変わらずだね。ジーク様って」

「奥様もいらっしゃるのに」

「だから、ロザリア様が選ばれたんだろ」

「ええ、そうです。あれではどこにも行かせられませんから」


 昔から変わらないディオに対する溺愛にシドたちは呆れることしか出来ない。

 むしろ、ディオが家を出てからより一層加速した気もしないでもない。


 朝食後、アルフレッドに捕まり、ディオにお仕事頑張ってねと声をかけられたジークベルトは渋々ながら仕事に戻り、ディオはいとこのダニエルの家に向かった。

カトリー登場してないですね。



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