13 やっぱり
「相談?」
ディオがアルフレッドの言葉に首を傾げると、アルフレッドは大きく頷いた。
「ダニエルの婚約者にカトリーヌ・メル・グレイはどうかと思ってな。あの子ならダニエルも上手くやっていける気がするからな」
アルフレッドの言葉にディオたちは顔を見合わせる。
フランがわからないだろうアルドに、ディオのいとこだと説明する。
「どうした?」
「アル兄、オレたちの見てきたこと話す。本物がわからないと話が進められない」
説明をほとんどシドに任せる形で、ディオたちはグレイ伯爵家で商売をしたときのことを話す。
ジェーンと呼んだ少女に対しての夫人の対応、とにかく派手なものを欲しがる夫人に目利きがろくに出来ない令嬢。
夫人と令嬢が妖精に嫌われていること、ジェーンと呼ばれた少女がカトリーと名乗ったこと。
とにかく、事細かにアルフレッドに説明をする。
「なるほど、滅多に人前に出ないことを利用したか」
歴史の長い、妖精に好かれる家系だけあって安心しきっていたとアルフレッドが言う。
そして、あの家は妖精を視る力があるらしいとも。
「一度しっかり調べる必要があるな。明らかな別人だ」
「実際の彼女たちはどのような方なのですか」
トリスが尋ねる。
「夫人は周りから愛されている人で、使用人も笑顔で世話を焼いていたな。令嬢はおそらく、お前たちの言う子供使用人が本当のカトリーヌ・メル・グレイだろう。容姿も一致している」
「やっぱりそう、か」
ある程度の予測はあったため、それが確定になっただけで驚きはしないが、それを明るみに出さなければ全て家庭の問題で終わってしまう。
貴族相手は往生際悪く摘発が大変で、無能な第三王子クラウディオではほとんど誰も信用しないこともディオはよく分かっている。
自分の出来ることのなさにディオは俯くが、ディオの背中をシドが叩く。
「グレイ伯爵はアルフ様に任せるとしてだ。ディオ、お前に出来ることはなんだ」
まっすぐな強いシドの視線と言葉に、ディオの目が揺れる。
「そ、れは……」
「ディオ?」
いつもの元気のカケラもないディオに、アルドが不安そうにつぶやく。
バカみたいに明るくて凹んでもすぐに忘れているのがアルドの知るディオだ。
迷いなんてないみたいなディオが当たり前で、こんな不安げなディオは知らない。
アルドの声にディオがしっかりと顔を上げると、フラン、トリス、シド、アルドがディオの言葉を待っていて、アルフレッドはその様子に柔らかく微笑んで見守っていた。
「俺は、商人として中の様子を知ること」
決意に満ちたディオがはっきりと言うと、ディオの側仕えの四人が同時に頷く。
「それが今出来ること」
「ディオ、頼んだぞ。シド、トリス、フラン、アルド。ディオのことを頼む」
ディオの言葉にアルフレッドは優しく微笑んで、立ち上がるとシドたち四人に頭を下げた。
「もちろんです」
「はい」
「任せてください」
「えっと、頑張ります」
それぞれが言葉を口にして、アルフレッドが満足そうに頷く。
「相変わらず頼もしいな」
「ありがとうございます」
椅子に座りなおしたアルフレッドは、カップに口をつけ飲みきってから、アルドに美味しかったと感想をいって、ディオに声をかける。
「ディオ、時間があればダニエルに顔を見せてやるといい」
「うん。明日行くつもり」
「そうか、きっと喜ぶ。また後でな」
ディオの頭を撫で、部屋を去るアルフレッドをシドが見送るため一緒に部屋を出る。
「ディオに対してをみる限り、あの子ならジークとも上手くやれると思うが、フォローしてやってくれ」
「はい。それでジークベルト様は?」
「まだ伝えてない。今日は隣国の公爵を招いた夜会がある。箝口令を解くのはそれが終わってからだ」
疲れ切ったようなアルフレッドに、シドが苦笑をする。
国王夫妻が留守のため、宰相とともに指揮をとったアルフレッドは、周囲に説明する時間もないほど素早く箝口令を敷く必要があったため、かなり苦労したのだろう。
「分かりました。今日は部屋から出ないよう努めます」
「ああ、そうしてくれ。必要なものは隠密部隊に届けさせる」
ディオを頼むと言い残して、アルフレッドは去って行く。
部屋に戻ったシドは、ディオを部屋から出さないように伝えて、家に帰る予定がなければこの部屋に泊まるように指示を出し、全員が残ることとなった。




