11.5 幸せな家族
お読みくださりありがとうございます!
薄いピンクの髪は女の子らしさを強調させて、彼女をより愛らしい少女に見せていた。
「パパ、お帰りなさい」
11歳になる愛くるしい少女は、久しぶりに家に帰ってきた父に駆け寄って抱きつけば、父親は破顔して少女を抱き上げ、リビングに向かった。
リビングには真っ赤な髪を持つ、つり上がった目の女性が、優雅に椅子に座っていた。
男の帰りを待ちわびた女性は微笑むが、つり上がった目のせいかそれは意地悪な笑みに見えてしまう。
「お帰りなさい、あなた」
「ああ、私がいない間元気だったかい」
「ええ、それはもう」
リビングの中は男が留守にしていた間に、落ち着いた部屋から成金趣味に変わっていて、この家には似合わない輝きを放つものばかりになっている。
男はそれをあまり快くは思っていないが、愛する女性の好みならと何も言わない。
自分がいなかった間の話を一生懸命に話す少女の話に相槌を打ち、彼女の話が終わるまで待った。
親子三人。
この幸せな空間が続けば良いと男は思いながら、そうはいかないと暗い顔をする。
少女の話が終わると女性との話はそこそこに、男はもう一人の娘のところへ向かい、取りつく島もなく追い返された。
それから、書斎で簡単な仕事を済ませて夕食に向かう。
4人分の食事が用意されていて、その内の一皿は不自然なほどに量が少なく、その席だけを避けて、男と女性と少女が座る。
少女は空いた席を見つめながら男と女性にだけ聞こえるように怒ったように声を出した。
「お姉さまったら、せっかくパパが帰ってきたのに顔すら見せないなんてどうかしているわ」
「そんなことを言ってはダメよ。愛されているのはあなただけなのだから」
クスクスとおかしそうに女性は笑う。
その笑みは優越感に浸っているような下卑た笑みだ。
「可哀想なお姉さまね。ねぇパパ、どうしてお姉さまをずっと家に置いておくの」
「あの子がいると不快なのよ、私は」
もう1人の娘は黒い髪にわずかにある青みだけが父親似で、瞳の色や顔は母親に似ていて女性にはそれが不快だった。
男は視線は誰も食べない皿に向けられる。
「何度も言うがこの家のためだ」
「訳がわからないわ。あなたが出来なら私がやってあげるわ」
強い視線と言葉で男は女性を制止させる。
「あの子がいなければこの家は持たない」
「お金ならこの子に良い男を捕まえさせればいい話でしょう」
男は違うと首をふる。
「昔からこの家の価値は、妖精に好かれることにある」
「パパ?妖精なんていないのよ。いるのは絵本の中だけよ」
「なんて馬鹿げた理由のなのかしら」
真顔で言った男の話を冗談だと少女も女性も笑い、男の視線は食卓の中央に花のいけてある花瓶に移る。
すると、風もないのわずかに花が揺れていたが、女性たちは信じず男が何かしたのだろうと思ったようだ。
「信じられないのは仕方がない。ただ、あの子は家にいて貰わなければ困る」
「まあいいわ。使い道はあるもの」
ストレス発散に使わせてもらいましょうとでも言うような女性の表情に、男はそっと目をそらし話題を変える。
「今度、侯爵家で誕生パーティーがある」
「この子を連れて行くのね」
「ああ。王都に行くから、親子3人水入らずで過ごせる」
「まあ、お母さまも行けるのね」
女性はパーティーには参加はできないが、それでもよければと男が言い、3人が王都に行くことが決まった。
それからしばらく一家団欒の時間を過ごすと男は何かを持って庭に向かい、庭師の家族に追い返されて家に戻ってくる。
男はもう1人の娘の部屋に手にしていたヌイグルミを飾ると、ピンク髪の少女と女性の元に行く。
その様子はどこにでもある平穏な家族のようでいて、歪だった。




