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10 作戦会議

 グレイ伯爵家での商売を終えて、予約していた宿につくなり寝てしまったディオが起きるのを一行は待つことにして、それぞれ自由な時間を過ごしていた。


 読み終えた新聞をシドは乱暴に畳んで放り投げ、珍しくディオ以外のことに苛立っていると思いながらアルドは新聞を拾って読むことにする。


 文字はまだ習い始めたばかりで、読むのには時間がかかるが、新しく出来ることが面白いので内容はどうでもいいのだ。


 アルドが新聞を広げると、シドから声が飛んでくる。


ディオ(あいつ)が起きる前に()()捨てといてくれ」

「わかった」


 部屋の中にもゴミ箱はあるのになぜ外に捨てるのかとも思うが、よく見れば新聞に視界に入るとトリスも殺気だっているので、言う通りしておいた方がいいだろう。


 そうそうに読むのを諦めたアルドは新聞を捨てるため部屋の外に出ると、新聞を広げて歩くアルドのことをフランが追ってきた。


「第三王子、今年も、けんこく、さいに、出席、せず――」

「昨年に引き続き、公的行事に一切顔を見せない第三王子は一体何を考えているのか」


 アルドの続きをフランが読み上げる。


「そんなに怒ることなの?」


 もともとディオたちに拾われるまで、生きることだけに必死だったアルドからすれば、そんなことにいちいち目くじら立てる方がバカバカしいのである。


「いってしまえば、参加は自由。だけど、こういう時にしか王族の姿を見ることはできないから、どうしてもね」

「義務に近いんだ」

「うん。ただ第三王子の場合は、参加してもしなくても何かしら書かれただろうね」


 フランは悲しみと困惑を混ぜたような顔をして話すと、そろそろディオが起きる頃だと言って話を切り上げ、二人で急ぎ新聞を捨てにいった。


 部屋に戻ると、ディオは起きていてベッドの上であぐらをかいていた。


「寝ちゃってごめんね。もう少し起きてられると思ったんだけど」

「問題ないよ」

「うん、じゃあ始めようか」


 ディオはベッドに腰掛け、四人はディオの対面に座り、今日のことについて話し合う。

 まずは、次回行くためにどんなものを用意するかを話し合い、ベアトリーチェとシーダが単なる派手好きなのではないかとなった。


 貴族たちの中にも一定数、派手なものを好む人はいるが、一つ一つに細かい趣向が凝らしてあり、彼らは今日ディオたちが持ってきたものよりもはるかに丁寧な仕事がされているものを所有している。


 どれだけ高価なものでも作りが雑では、自慢にもならない。

 中途半端なものは笑いの種になってしまうから、貴族たちは人の目に触れるところは気を使う。


 たとえ悪趣味であっても、それなりに統一感があるもので、精神的にくるものがあれどズレを生じさせることはない。

 大きなずれよりも小さなずれの方が目立つものだ。


「売り物についてはこんな感じかな。で、あの女の子のことだけど」

「妖精に好かれてるってことでいいんだよな、ディオ」


 大きく頷いたディオは、頭を抱えてベッドに倒れこんだ。


「間違いなくね。すごぉぉくやりすぎだけど」

「やりすぎって、あれはまつわるものっていってたはずだけど嘘だったの」


 フランが確かめるようにディオに問いかけ、ディオは起き上がるとかったるそうに喋る。


「白状すると、あの髪飾りは妖精入り。厳密にいえば精霊に至る直前の妖精がイタズラがすぎて反省のために入れられてるっていうものなんだけど……」

「ったく、お前は――」


 シドが呆れを通り越して諦めたように言って、ディオは自分の頭を拳をコツンと当てて、愛らしく笑って見せる。

 妙に似合ってるのが腹立たしい。


「てへ」

「まあ、その辺はお前が適任だと知ってはいるが――」


 立ち上がったシドはディオのそばまで行くと、両手を握りしめてディオの頭を挟む。


「いたいいたいいたい‼︎ちょ、シドッ、シド⁉︎」


 トリスとフランは何も言わず、お互いに目を合わせるとディオの助けを求める声を聞こえないふりをすると決めたらしく、作ったばかりの書類を手に取り目を通し始める。


 アルドは同じことを一度だけシドにやられたことがあるようで、思い出した痛みに顔をしかめていた。

 シドとトリスは護衛も兼ねているらしく、見た目よりはるかに力は強い。


「そういうことは面倒臭がるな。適当な管理しやがって」


 ただの妖精がまつわるものなのであれば、ディオの杜撰な管理でもギリギリ問題はないが、妖精が入っていたならそれなりに厳重な管理が必要となるというのに、ディオは他の商品と一緒に保管をしていた。


「わかるのは少数だからいいかな〜って、シドたちだってわからないわけだし。シド?」


 ディオの頭を挟む力が緩む。

 おそるおそるディオが顔を上げると、恐ろしい顔をして仁王立ちをするシドの姿に、ディオはベッドの上で正座をして小さくなる。


 正直、頭の痛みを忘れてしまうほどに、シドは恐ろしい顔をしていて、気配だけだというのにアルドは怖がりトリスの後ろに隠れた。


「こいつに説教するのは後でいい。話を戻すぞ」

「それであの女の子のことだよね」


 軌道修正がされて、会議が続く。


「前回、ジェーンと呼ばれていましたが本人はカトリーと名乗りましたね」


 トリスの言葉にフランとシドが同意する。


「ジェーンって名無しって意味もあるよね」

「ああ。前回を考えると夫人がわざとそう呼んでいてもおかしくはない」

「あの嫌な目」


 前回、カトリーに向けて弱いものをいたぶるような目をベアトリーチェはしていた。

 この場にいる五人とも、そういった悪意の感情を向けられることも多く感づいていたために、否定する人間はいない。


「妖精に好かれやすい家、二つの名前に、装飾品の良し悪しを見抜く力。立ち居振る舞い、見習いだけを嫌う夫人。あの家は情報がなさすぎる!」

「当代になってからは情報が入ってこなくなったからな」

「社交にも滅多に出席しない家だからね。噂すらも聞かないし」


 フランが言ったあと、シドが何かを思い出したのか手を叩く。


「アルフレッド様から聞いたことがある」

「アル(にぃ)から?」

「正式にお前につく前にグレイ伯爵夫人は身体が弱いから会う機会は少ないだろうと」


 ベアトリーチェは見る限り健康そのもので、彼女を特別気遣う使用人もいなかった。


 痺れた足で立ち上がろうとしたディオは、盛大にベッドから床に転げ落ち、うつ伏せのままディオは顔をあげる。


「ここで悩んだって仕方ないし――」


 アルフレッドの言葉なら信じられるし、何より推測でものを言わないシドの言葉なら、曖昧な記憶ではなく事実だ。


 立ち上がったディオは自分で服の埃をはたくと、四人の方に視線を向けて言い放った。


「一度、家に帰ろうと思う」

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