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9 商人再び

 人懐っこい大型犬を連想させる商人ことディオは、今日もわりとハイテンションでやってきた。


 その後ろではシドが張り切りすぎだと呆れた顔をしていたが、ディオは元気よく商品を並べていく。


「本日ご用意させて頂いたのは、こちらです」


 前回と同じように装飾品も置かれているが、今回は部屋に飾れるようなインテリアが多かった。


 どれもデザインは華美すぎて、シンプルで落ち着いたこの家には少々似合うものではないのだが、ベアトリーチェは満足そうに眺めていた。


 今日の商品は、いつもと比べて奇抜すぎるとアルドが不審な顔をしているとフランとトリスに注意をされる。


「そんな顔しない」

「顔に出過ぎです、アルドさん」

「でも……」


 小声で会話し、後で説明するからとフランはアルドの頭を撫でて接客に戻る。


 やることのなくなったアルドは、退屈だと仲間の仕事を見ながら、この家の使用人たちを観察していた。


 アルドの表情も今回は仕方ないのかも知れない。

 いつもなら、相手に媚びるような売り方をディオはしない。相手の好みに合わせつつ、その魅力が崩れないように売っていくのがディオで、お客が望んむものばかりを売るわけではなくそれがこの商会の評判に繋がっている。


 次々と欲しいものを買っていくベアトリーチェの横では、シーダが本を欲しいとねだっているがベアトリーチェは貴族が読むものではないと一切取り合わない。


 一ヶ月は過ぎているというのに、シーダはまだ諦めてないらしい。


 ディオはシーダの髪と同じ色の宝石がついたネックレスをシーダの前に持っていくと、ベアトリーチェに聞こえないような小さな声でシーダに話しかける。


「これはどうかな。本に出でくるネックレスにそっくりだから、きっと話題になること間違いなし!」


 じっとネックレスを見つめて、シーダはベアトリーチェに振り返る。


「お母さま、これならいいでしょ」

「……いいわ、くだらない本じゃないのなら」


 どんなものかを見定めたベアトリーチェは、ネックレスならいいわとシーダに買い与える。


 流行りの物語の内容を知らなければ、なんてことない装飾品にしか見えない。


「他にはありますか?」

「今日はこれでいいわ。今度はもっと、豪華なものを持ってきてちょうだい」


 足を組んで、さも優雅そうに座るベアトリーチェは使用人に支払いをさせながら言った。


 使用人たちの接客を従業員に任せ、ディオは世間話をベアトリーチェ、シーダとする。


「出身はそこなんですね。今度、行く予定なんですけど、オススメのお店とかあります?できれば、飲食店だと助かります」

「そうね、大通りにあるカフェのサンドイッチかしら。よく家に届けさせてたわ」

「へぇ、サンドイッチですか」

「ケーキも美味しいのよ」


 そうこうしているうちに使用人たちの買い物も終わって片付けまで終えた状態でシドがディオに声をかけ、会話を終わらせると帰るために玄関に向かう。


 玄関前でカトリーは壁に寄りかかって待っていたようで、ディオをたちに気がつくと頭を下げる。

 どうやら見送りに来たらしい。


 カトリーがなにか言いたそうにしていると気づいたトリスは、声を出さず玄関を指差して外に出てから話しましょうとジェスチャーをする。


「見送り、ありがとうございます。なにかご入用ですか」

「えっと、信じて、もらえないと思うのですが……」


 トリスが尋ねると、カトリーはおずおずと口を開いて、手にしたハンカチを商人たちの前に広げる。


(やり過ぎだよ。手は貸してあげてってお願いはしたけども)


 ディオがわずかに口元をひきつらせるが、気づいたのはシドだけだった。


「この前頂いた髪飾りにキラキラ光るものが止まった後、花の上に止まって――」

宝石(これ)になった」


 続きを紡いだディオにカトリーは驚きに目を見開く。


「な、んで……」

「あれは妖精にまつわるものだから」

 

 カトリーは困惑した表情でディオをみる。


 だからそんな事が起きても不思議じゃないとディオは言うが、一般的に妖精なんておとぎ話でしかないのだ。


 当たり前のように信じるディオは異端だ。


「信じられないよね。僕らには見えないんだから」


 まるでディオには見えているかのようにフランがいってカトリーが静かに頷き、ディオが真面目な顔してカトリーに尋ねる。


「これ、他の人には?」

「幼馴染一人だけ」

「誰かに話すような人じゃない?」

「は、はい。それに……」


 言ったところで誰が信じるのだと思うが、ディオは難しい顔をしていて、隣に立つシドは眉間にシワをよせてなにか考え事をしているようだ。


「君、名前は?」

「カトリーです」


 ディオはカトリーが持つ宝石を指差して、言い聞かせるように言い、問いかける。


「カトリー。本当に信頼信用できる人以外に、これを見せたり喋らない事。特別な石ってことは抜きしても、もしカトリーが願うだけで宝石を無限に作れたとして、悪い大人――欲張りな人がそれを知ったらどうすると思う?」

「えっと……」


 急な質問に頭が回らないが、カトリーが答えなければならないものなのだろう。

 商人たちは静かにカトリーの答えを待っている。


 欲張りな人――。

 カトリーはベアトリーチェを想像する。


 もし、自分が宝石を無限に作れたとして、ベアトリーチェが知ったらどうするだろうか。

 いくらでもお金が手に入ることになると考えると、部屋に閉じ込めて永遠に宝石を作らされるだろう。


「道具として閉じ込める」


 きっとそこには、今よりもカトリーの意思なんて必要ない。死にかけだろうが、宝石を作り出せる能力さえあれば構わないはずだ。


 ディオは頷く。


「そう。妖精がいるってわかる人はただのウワサ話とは思わないだろうから、気をつけた方がいい」

「わかりました」


 怯えたふうなカトリーに、怖がらせ過ぎたかなとディオは困ったように笑い、シドがため息をついてフォローを入れる。


「宝石さえ見つからなければ今は大丈夫だ」


 大きく頷いたカトリーは、ディオたちにお願いをする。

 この前指輪を売ったお金で買える、花の種が欲しいと。


 快く引き受けたディオたちは、カトリーに手を振り帰っていく、それを見送ったカトリーはベアトリーチェたちが近づかず、信頼できる庭師がいる庭に隠そうと決めて、トムとディランのいる庭に向かった。

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