プロローグ
360度見渡しても見えるのは森だけ、
しかも木がこれでもかというほど密集して立っているせいで
少しも先の様子を窺うことはできなかった。
「いくらやむを得ない理由があるのだとしても、
少しは開けた場所に転移させてほしかったですね。」
そう言って独り不満を漏らす俺の名前は碧理真人
日本生まれ日本育ちの少し融通が利かないという性格を除けば一般的な高校生だ。
日本を基準にして言えば今日は平日であり、
高校生である俺はいつものように学校で授業を受けていた。
1回50分かかる授業を6回こなし、放課前のSHRをしている時に異変が起きた、教室の床に白く輝く魔法陣が出現したのだ。
それを見た瞬間、俺は教室を出る為の行動を開始した。
何故かって?
よく考えてみろよ。
この魔法陣がどんな効果を持っているのかは分かっていないだろう?
仮定として、ライトノベルでよく見る転移させるものだったとしても
転移先で魔王討伐や異世界の発展に貢献など
面倒なことを頼まれるに決まっている。
そうでないならば、わざわざ異世界から何かを転移させようなど考えもしない筈だからな。
そんな訳で俺は教室から出ようとしたんだ。
始めは出入口であるドアから出ようとしたが、どれだけ力を込めてもドアが開くことはなかった。
少し慌てはしたが、出入口側の壁には上の方に人が通れるほどの大きさの小窓がついていることをすぐに思い出した。俺は机に飛び乗りそこから跳躍することでなんとか教室からの脱出に成功した。
もちろん確認は怠らなかったとも、
魔法陣は教室の中にだけ出現していて、
廊下はいつも通りの何の変哲もない廊下であった。
それを確認し、安心して着地したのだが、
俺の視界は白い光に包まれ、転移してしまった。
Ж
転移した俺を迎えたのは小さな部屋だった。
一緒に転移した筈のクラスメイトの姿はなく、
俺一人だけがその空間に存在していた。
訳が分からず呆けているとどこからか声が聞こえてきた。
「汝よ、姿を現さず話しかける無礼を許せ、
これには深い理由があるのだ。
問は後に必ず答えると約束しよう。
今は黙って、私の話を聞いてほしい。」
いろいろと聞きたいことはあったが
謎の声の主の話を聞かないことには物語が進行しないだろう
と考えた俺は首を縦に振って話を聞く意思を示す。
「私の名は【オリジン】神羅万象を創造せし、神である。
神々の中で最高位に君臨していた私だったが
ある一柱の神の奸計に陥り、権能を削がれ封印されてしまった。
神は一柱につき一つの事象に影響を及ぼす権能を所持している。
だが、創造神である私の権能は神羅万象に影響を及ぼし、
創造も消滅もおもうがままにできるのだ。
神という存在も完全に純真ではない、
欲というものを持っているのだ。
故に私の権能を狙う神の出現も必然であった。
万が一にもあり得ないことではあったが
私の身に良からぬことが起きた際に
私の権能を全て奪われる訳にはいかなかった。
そこで私は権能を半分に分け、その半分をある星の絶対者に預けたのだ。
その者は私が最初に創造した世界に創世の頃より
絶対者として君臨し続けてきた強者であり、
私自身が幾度かの交流もあり、信頼にあたると考えたのだ…」
黙って話を聞いていた俺だが遂に我慢が限界を迎えた。
話が長すぎなんだよ。もっと簡潔に重要な情報だけピックアップして伝えやがれ。
「話は大体理解しました。
あなたの残り半分の権能をその裏切りの神が
手に入れようとしているということですよね?
ですが、それと俺がここに呼ばれた理由は何の関係があるのでしょうか?」
「理解が早くて助かる。
汝を呼んだ理由だが、それは汝が【ロスト】の魔法陣から逃れたからだ。
【ロスト】とは私から権能を削いだ神の名だ。
汝は【ロスト】の権能から逃れることができるようだ。
その実力を見込んで頼みがある。」
「はぁ、どうせ先の話に出てきた絶対者とやらがいる星に転移して、
あなたの権能を守れとでも言うんですよね?
嫌ですよ。俺は生粋の面倒くさがりなんです。」
「汝が天邪鬼な性格をしているということは既に理解している。
そして汝がどうしようもなく優しい人間である事もだ。
頼まれれば断れないし、困っている者がいれば
間接的に手助けを行うのだろう?
そしてそれを決して口には出さない…
損な生き方をしているようだ。」
「うるせえよ。」
俺は心の内をよまれ、不満だと分かるような態度を取る。
「汝のクラスメイトは既に【ロスト】によって転移させられている。
【ロスト】が転移者を呼ぶのは今回で10回目だ。
そして、今までに生存が確認された者は一人もいない。
このままだと汝のクラスメイトも同様の道を辿ることになるぞ?」
俺は舌打ちとため息のコンボを決める。
「分かりましたよ、転移すれば良いんでしょ。
ですが、異世界で生き述べられるようには強化して下さいよ?」
「権能を削がれた私にどこまでできるかは
分からないが善処はしよう。
…強化成功だ。
【ロスト】の監視網から逃がす為に未開の地に転移させる。
では行ってこい。」
「は?まだ俺は何も準備できていないんだけど?」
文句を言う俺の体は既に白い光に包まれていた。
こうして二度目の転移と共に
今まで経験したこともない希望と絶望の物語が幕を開けたのであった。