第一章 その肆――クララ[レイ]
クララ、という彼女の能力――『未来確定』は、可能性のある未来の中から彼女が一つ、未来を決定するという能力である。
彼女がパーティーに入ってその能力を公表した時、俺は真っ先に彼女に興味が湧いた。
それは異性としてでも友人としてでも何でも無く、ただ普通に、能力としてだった。
「あの、君がクララさんかい?」
恐らく、最初に彼女に話しかけたのは俺だったであろう。
ピンク色のふさふさとしたツインテールの彼女は、俺を見て不審に思ったらしく少し身構えたが、俺は平然とその時続けた。
「いや、特に警戒しなくて大丈夫だ。俺もこのパーティーの一員で、レイと言う」
「あ……なるほど……。宜しく、です」
警戒は解いたみたいだが、今度は少し緊張しているようだ。
まあ、いいか。
「ああ宜しく。ところで早速なんだが、ちょっと君の能力を見せてくれないかな? 『未来確定』、だったか? 少し興味があるんだ」
興味……ですか?
彼女はちょっと戸惑いつつ、少し悩むような仕草を取った。
「えっと……」
「未来予知とはどう違うんだ? 偶然じゃ無いのか? それを見せてほしい」
彼女はそこにある花瓶を指さす。
「――例えばあの花瓶は割れないんです」
割れない?
俺はその花瓶を見つめる。
割れない……か。なるほど。
じゃあ、俺が割ろうとしたらどうなるんだ?
「今貴方、割ろうとしましたよね?」
……同時だった。
俺が思ったことと、丁度同時だった。
少なくとも彼女が何かしら能力を持っているのは察せた。
「それじゃあ試してみてください。本当に割れないか」
明らかに割ろうとする意志を誘発させる言葉。しかしその言葉と共に、俺は割ろうという意志がなくなっていく。
この不思議な感覚――なるほど、これが『未来確定』なのか。
恐らく彼女は、この花瓶が割れない未来を確定したのであろう。
何とも言えない能力だが、あることには違いないだろう。少なくとも今の間に『心理操作』『未来予知』『思考読取』をしてみせたのだから。その未来のために。
そう実感した。
ー ー ー ー ー ー
敵は、そのクララ。しかも『未来確定』と『時間遡行』の二つを持っている、ということか。
リーの言葉を聞いて、俺はそう思った。
「そんなの、無理じゃないか?」
俺がリーに問いかける。
リーは軽く笑って、答える。
「そんなことないよ。確かに、何回も繰り返すことが出来るのは一見、あちらの方が有利に見えるかもしれない。でも実際どれだけ繰り返しても、諦めるほど繰り返しても覆されない状況が、こちらにはある?」
「と、言うと?」
「君が追い出され、君が魔王方につく。たったそれだけで魔王の勝利は確定する。それがどんなに頑張っても覆されない運命だからね」
運命……?
俺は、その言葉がよく分からなかった。
「うん、そうだよ。全く以て覆せない、運命だから」
リーはやけに自信満々に言う。
俺はそれを、奇妙だと思う。
だが彼女の長髪は――水色のその瞳は、なぜかしら俺に自信を持たせた。
それから数日経ち、また時間が戻る。
クララは何をして今、その運命とやらに奮闘しているのだろうか。ふと、気になった。