第1話:イケメン遭難する
新連載にあたって
イケメンって男の敵だと思いませんか?
私は思います。
それが爽やかな外見と裏腹に嫌な奴だったら最悪ですね。
そこで私は魔女に鉄槌を下した中世の異端審問官のごとく、イケメンを徹底的にいじめてやることにしました。もちろん創作の中で。
これは性格の悪いイケメンが異世界で『逆ざまぁ』されるお話です。
現実世界では思うがままの人生を謳歌していたイケメン。
ところが異世界では何をやっても冴えないオタクに勝てません。
逆ざまぁされまくりなのです。
さげすまれていたオタクの大活躍を、
そしてリア充だったイケメンがひどい目にあう姿を、
爽快な気分でお楽しみください。
「もう動かないほうがいいよ!」
後ろを歩くトウが悲鳴のような声をあげた。
「ねえ、ゴート君、止まって助けを待とうよ」
ゴートは脚を速めた。
目の前に現れた枝を叩くように払いのけ、どんどん進む。
トウが慌ててついてくる音が聞こえた。
ゴートは苛立っていた。
おれに従ってりゃいいのに、なに自分の意見言ってんだこいつ。
ついてくることしかできないくせに。
バカなんだからおれの言うこと聞いてろよ。
この状況だと最悪死ぬぞマジで。
もちろん口には出さない。
ゴートは思っても口にしない。
幼い頃から身についた習性だ。
かわりに優しく言った。
「大丈夫だよ、トウ。もう少し頑張ろう」
トウはほっとしたように答えた。
「うん、そうだね、頑張る」
ふたりは山中を彷徨っていた。
ミルクのような濃い霧に包まれながら。
ここは春津山。
ふたりは高校1年生の秋期校外学習、いわゆる遠足で訪れた。
春津山は標高800メートルに満たない低い山だ。
なだらかな登山ルートがいくつかある。
クラス内で作ったグループごとに計画を立て、好きなルートを辿って山向こうの麓を目指すことになっていた。
神野豪人と日影斗は同じグループだった。
仲がいいからじゃない。
むしろ今まで口をきいたこともない。
事前のグループ分けで、ゴートは作戦通り道明寺あかりと同じグループになった。
その時どこにも入れなかったトウを道明寺さんが誘った。
それだけのことだった。
当日の行程は和気あいあいとスタートした。
ゴートも道明寺さんを楽しい会話で笑わせながら歩いた。
今日もゴートの人生は絶好調だった。
一行が森に入りこんだ頃だった。
ぼんやり霧がかかり始めたかと思うと、あっと言う間に視界は厚みのある白で塗り潰された。
みんなパニックに陥りかけたが、ゴートが率先して声をかけ、落ち着かせた。
道通りに進めば大丈夫だと励まし合い、そのままお互いの声や足音を聞きながら歩いた。
狭い山道だった。
一列になって進む一行の、ゴートの後ろには道明寺さんがいるはずだった。
ふと気づくと誰の声も足音も聞こえなかった。
立ち止まって声を掛けてみた。
声を返してきたのはトウだけだった。
トウしかいなかった。
すぐにトウとふたりで大声をあげ、ほかのみんなを呼んだ。
ふたりの声はねっとりした白いスープに吸い込まれるだけだった。
足もとをよくよく見れば、ふたりがいるのは藪の中だった。
獣道のような道なき道。
森の中に入り込んでいた。
完全にルートを外れている。
ゴートは自慢の最新スマホを取り出した。
圏外だった。
GPSも掴まない。
連絡は取れないし、現在地もわからない。
ゴートは進むことにした。
この山は低山だ。
歩いてるうちに正規の登山道か麓に着くだろう。
相談などせず、歩き始めた。
トウは黙ってついてくる。
当然だ。
トウごときがゴートに従うのは。
そしてもう、かれこれ3時間は歩いていた。
視界はほとんどないままだ。
ふいに顔に当たってくる枝を払い、つるつる滑る下生えをコンバースでかきわけ、突然現れる倒木にひっかかって転倒しそうになるのをかろうじてこらえ、苦労して進み続けてきた。
手は擦り傷だらけ。
スニーカーもジャージのズボンの裾も露に濡れて泥まみれだった。
悪い足場の連続だから脚の疲労が激しい。
それでもまだ人の気配のする場所へ出られない。
ゴートは何でも知っているから、腕時計の針と太陽の位置から方位をつかめる。
でもこの霧では太陽がどこにあるのかまったくわからない。
切り株の年輪からも方位はわかるが、そもそも切り株のように人の手が入った痕がどこにも見当たらなかった。
あたりは急速に暗くなり始めていた。
気温も下がってきた。
迷ったまま山中での野宿が現実的な選択肢に入ってきた。
ゴートは後ろのトウの存在に舌打ちした。
もちろん聞こえないように小さく。
こんな使えない落ちこぼれのカスと山の中でひと晩明かすなんて最悪だ。
せめて道明寺さんとはぐれていたら……。
ゴートは道明寺あかりを想った。
優しく穏やかな道明寺さん。
性格はいいし、清楚でかわいいけど、それだけじゃない。
道明寺さんはゴートに夢中にならない。
女なら誰でも向こうから落ちてくるのに、道明寺さんは違う。
そこがいい。
世間にはごくまれにゴートに特別な感情を抱かない女がいる。
道明寺さんはそのひとりだった。
ため息をついた。
もし彼女とはぐれていたら。
願ってもないチャンスだ。
脱出など先延ばしでさっさとビバークを決め、ふたりきりでロマンチックな夜を過ごしてやる。
寒いのも大歓迎。
温もりを求めて寄り添うふたりはやがて……。
「ゴート君、暗くなって動くのはやばいって」
トウがおずおずと声をあげた。
苛立ちが増した。
思わず声を荒げて返したくなり、どうにか抑えた。
追い込まれた時こそ人の本性が現れる。
今が我慢のしどころだ。
うまく乗り切れば後にトウはみんなに語るだろう。
ゴート君はずっと冷静だったと。
頼りになったと。
それがゴートの評価をさらにあげることになる。
「あっ、危ない!」
トウが大声をあげた。
何だこいつうるさいなと思った瞬間、ゴートの足が滑った。
重力が消え、体がふわりと浮いた。
真っ白な大気の中で漂う。
自分に何が起こったのかわからなかった。
次の瞬間、肩から地面に叩き付けられた。
激痛を感じる間もなかった。
首が信じられないくらい曲がって額に堅いものがぶつかる。
頭を支点に猛烈な勢いで脚が上に跳ねあがり、宙を舞った。
声をあげる間もなく、ゴートはそのままごろんごろんと急斜面を転がり落ちた。
意識が途切れる直前にトウの叫び声と足音が聞こえた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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次回予告
「なんなんだよ日本じゃないとか」
「どうも別の世界に来ちゃったみたいなんだ」
怪我をして動けなくなったゴート。
見守るトウ。
ここはどこなのか?
そこに黒髪の美少女が現れる。
第2話:「イケメン、異世界で美少女と出会う」
次回も逆ざまぁされまくりだっ!




