第84話 登城要請
更新遅くなり、申し訳ないです。
翌日、昼にはまだ少し早い時間に食堂に集まる面々――
ルーク邸で世話になっている俺とステラ、リサにアーサーだ。
クリスたちの姿はないがそれは珍しいことじゃない。
なぜ集められたかと言えば、その理由はルークの口から告げられた。
「登城要請?」
「ああ、近衛騎士団の連中がぞろぞろと屋敷に来てそう言ってきてる」
そう話すルークの表情はかなり険しい。
隣に座るアーサーも暗い表情を浮かべている。
「一応聞いておくけど、拒否は?」
「出来ねぇな、王族を守るのが仕事の近衛が大量に動いてるんだ。 要請とは言ってるが事実上の"命令"だよ」
だろうな。
殺気とまでは言わないが張り詰めた気配が屋敷の周囲を囲んでいる。
"逃がさない"とでも言わんばかりだ。
「で、登城するのは俺だけじゃなく、ステラやリサ、ウェインもか?」
「ついでに俺と殿下、それにクロとルリもだ。 ん? そういやぁルリはどこだ? いつも飯時には姿見せんだろ?」
ルークの言う通り、ルリはいつも食事の時間になると食堂に現れる。
ルーク邸で過ごした2週間の間にそれは周知の事実になっていた。
「そういえばそうですね?」
ステラが不思議そうに周囲をキョロキョロすると、釣られたようにリサとウェインも食堂を見渡す。
「探してもいないぞ、アイツは森に帰ったからな」
「「「えっ!?」」」
その場にいた全員が一斉に驚きの声を上げた。
「どういう事ですか!?」
ステラは信じられないといった様子を見せる。
「その辺の事情も含めて俺から話がある」
「話?」
そう呟いたリサの声は暗い。
多分、ルリがいなくなってショックを受けてるんだろうな。
リサはルリに懐いていたし、ルリもまんざらでもなさそうだった。
「時間がない、手短に話すぞ? 今から"最悪の事態"を想定して動く」
「ど、どう言う事ですか?」
不穏な単語が飛び出した為か、ステラは不安そうだ。
それでいい、そのぐらいの心構えが必要になるかもしれないからな。
出来れば穏便に済んで欲しいが、まず無理だろ。
「俺の予想だが、このあと城に行ったらあれこれ理由をこじつけて俺たちを拘束しようとする。 もしくは排除しに来る」
「ちょ、ちょっと待って下さい! なんでそんな事になるんですか?」
「あの馬鹿貴族が俺に決闘を挑んできたのがその理由だよ」
ラピーナはあの時、クリスではなく俺に絡んできた。
エレナの件で因縁をつけるならクリスのはずだ。
だが、そうしなかった。
俺が気に入らなかったという可能性もあるが、それなら不敬罪とでも言って捕まえればいい。
絶対的な身分社会で決闘などというまどろっこしい真似をする必要などないはずだ。
とすればだ、誰かが何らかの理由でコソコソ動いていると考えるのが妥当だろう。
「誰かがあの馬鹿貴族を俺に嗾けた可能性がある状況で、決闘翌日に城から呼び出しだ。 ま、穏やかな話にはなんないよね」
問題は相手が誰かって話だが、まぁ見当はつく。
「ではミナトはあの決闘が誰か裏で糸を引いていると?」
「そうなるな、というか既にアーサーは見当がついてんじゃねぇの?」
そういうとアーサーは真剣な顔で黙り込んでしまう。
「で、そんな訳だからもういっその事誘いに乗ってみようと思う」
「おまえ正気か!?」
ルークがテーブルを叩き立ち上がると、そう叫んだ。
だが、登城要請が来ている以上ここで無視するのは悪手だと思う。
十中八九敵対する事になるだろうが、交渉の余地くらいは残されているかも知れない。
ついでに誰が裏で糸を引いてるのかはっきりさせる事ができるだろう。
もちろんノープランという訳にはいかない。
「という訳で、俺から対策としてひとつ提案だ」
♦︎
屋敷を出るとそこには数十人の騎士が待ち構えていた。
その中の1人が一歩前へ出ると声を掛けてきた。
「馬車の用意は出来ています。 殿下は私が――」
「失礼ながら殿下の護衛は俺の仕事だぜ、ルーカス近衛騎士団副師団長殿」
ルークがそう言うとルーカスと呼ばれた男は僅かに眉根を寄せた。
「陛下のご命令です。 殿下の護衛は私に任せてもらいましょうか、ルーク師団長殿」
「俺は殿下の筆頭騎士だ、例え陛下のご命令であっても殿下の護衛は俺が決める。 そう王国法で定められているのは知ってるはずだろう?」
「そういう事です。 ルーカスには申し訳ないが、私の護衛はルーク師団長に任せている」
アーサーにそうハッキリと告げられると、ルーカスは僅かな逡巡の後「承知しました」と短く答え素直に引き下がった。
(予想通りの展開か、悪い方の)
短い時間の中で可能な限り相手側の行動を予測、対策を講じてはみた。
その予想の中で相手側の初手がこちらの分断だった場合、友好的には行かない可能性が高いと見ていたのだが――
(やれやれ、穏便にってのはいきなり望み薄か……)
近衛に促され、ルークとアーサーは同じ馬車に、違う馬車にステラとリサ、それとウェインの3人、そして俺とクロは3台目の馬車に乗るよう指示された。
「フェンリルはどうした?」
ルーカスが周囲を見渡すが、当然そこにルリの姿はない。
「人間の揉め事に巻き込まれたくないとさ。 例の森に帰ったよ」
「なんだと?」
そう言ったものの当然、近衛さん的に納得の行く話ではないだろう。
「ならば仕方ないな」
「そう言われたってこっちも――あん?」
いまこの人なんてった?
仕方ないとか言わなかったか?
「いないものは仕方ないあるまい、それともなんだ? 探して連れて来るとでも言うのか?」
「い、いや、そう言う訳じゃない」
「ならば貴殿には大人しくこちらの馬車に乗ってもらおう」
ちょっと想定外だ。
流石にあっさりし過ぎて逆に警戒する。
逆にこれ以上こっちがルリの話題を続けては不自然だ。
なんにしても今はまだ素直に従っておこう。
♦︎
(いやー、実物はやっぱ違うな)
馬車に揺られ、到着したお城を見上げながら感慨に耽る。
遠くから眺めるのと、間近から見るのとでは迫力が違った。
何より日本の城とは違う、いわゆる西洋チックな城なんて某夢の国のお城以外お目にかかった事がないので感動もひと塩なはずなのだが――
「なにをしている」
「いやデカいなぁ、と感動してるんだ」
こんな状況でもなければより感動しただろうにな。
馬車から下り、お城を見上げてたら同乗していたルーカスとかいう近衛騎士にせっつかれるのだ。
興醒めである。
「随分と呑気なものだな」
「内心ビクビクで今すぐ帰りたいよ」
「ふっ、とてもそうは見えんがね。 まぁいい、馬鹿な真似はしてくれるなよ?」
嘘じゃないんだけどな。
ホントに今すぐ帰りたいけど、今後の事を考えればここで帰るわけには行かない。
『馬鹿な事を考えていないでさっさと目障りな連中を黙らせにいくぞ』
『お前さ、俺の話聞いてた? なんで既にヤル気満々なの? こっちは穏便に済ませたいんだが?』
ファイティンポーズをとるクロに頭の中でツッコミを入れる。
『穏便に済むわけないだろう』
『なんでそう不吉な事を自信満々に……』
『ここまでの貴様を見ていれば誰でもそう思うであろう? そもそも貴様が好き放題やった結果だ。 都合のいい展開など虫のいい考えは捨てて腹を括れ』
なんて嫌な事をいう相棒だろうか。