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異世界転移したら自称魔王に取り憑かれていたんですけど  作者: にゃる
第4章 王都到着、そしてーー
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第82話 やり過ぎないで下さいね

遅くなりすみません。

次回は明日更新いたします!

「殿下、私は正直あの男が許し難い」


 クリスがぽつりとそう口にした。


「それは無理もない事だと思いますよ」


 調べた限り、ドレザル男爵は執拗に彼に害を与えていた。


 遂には魔獣の森で彼を亡き者にしようとしたのだ。

 到底許す事は出来ないだろう。


「しかし、今回ばかりは同情しますよ」

「え?」


 聞き間違えかと思った。

 しかしそう言って苦笑いを浮かべるクリスの表情にそれが聞き間違いでなかった事は明白だった。


「あの男の事です。 ミナト殿が体術を用いた戦闘を得意としている事を調べたのでしょう。 そこでこの決闘を挑んだ」


 どういう事だろう?


「ドレザル男爵はプライドを傷つけられ、衝動的にミナトに決闘を挑んだのでは?」


「そういう筋書きにしたのでしょう。 そういう体裁を保たねば、アレクセイ総長の意に反したと取られかねませんから」


 という事は――


「ドレザル男爵は初めからミナトを狙っていたという事ですか!?」


 体術使いのミナトを剣術の土俵に上げる為に一芝居打ったという事になる。


「あくまで想像ですが、あの男がやりそうな事です」

「なんと卑怯な!」


 あるべき貴族の姿に程遠い!

 許されない事です!


「ですが、今回ばかりは相手が悪かった」

「え?」


「ミナト殿は剣を使えない訳ではなく、使()()()()だけなんですよ」


 ♦︎


「クソ! 何故だ!!」


 ラピーナは叫びながらも剣を振るう。


 俺はそれを躱わす。


 ラピーナは言うだけの事はあるが、正直ただちょっと速いだけだ。


「何故だ! 速さを極め、予測出来ぬ私の斬撃が何故こうも容易く躱されるのだ!」


「予測出来ないって、"しなり"の事だろ? そんなもん知ってれば対応出来るっての」


 そもそも斬撃や刺突がどれだけ早くても初動から無駄が多すぎて狙いが分かりやすすぎる。

 如何に剣の軌道が変化しようが、狙いが分かっているのだから躱わすのは容易だった。


「くッ! ならば――」

「遅い」


 次の攻撃に移ろうとしたラピーナの頭を鞘で打つ。


「うおおお!!」

「無駄だ」


 その後もラピーナの攻撃に対しカウンターをお見舞いする。


「はぁ……はぁ……」


「そろそろ降参しろ。 お前じゃ俺にはどうやっても勝てねぇよ」


「ふざけるな!! 許さん! いや許されんのだ! 平民風情が貴族に刃向かい、あまつさえ貴族である私を見下ろすなどあってはならないのだ!!」


 やれやれ、どこまでも残念な男だ。

 出来れば負けを認めさせて降参させたかったが、それも面倒になってきた。

 仕方ないので気絶してもらうか……


「もはや貴様ひとりでは贖い切れん! 貴様は勿論、貴様の仲間も同罪だ!」


 ……なに言ってんだコイツは?


「貴様の仲間は我がドレザル家で死ぬまで働いてもらおう……くくく、平民にしては見目は悪くないからな、屋敷の男共の慰みものにしてやる……そうだ、あの獣人は耳と尻尾を切り落としてやる、少しは人間に見えるかもしれんぞ? は、はははは――」


「あ゛?」


 ♦︎


 どこまで腐っているのでしょうあの男は!

 いくら貴族が強い権力を持っているとしてもなんの罪もない彼女達にそんな勝手が許されるはずなどない!


「安心して下さい! これでもこの国の王家に名を連ねる者――貴女方は私が必ず守って――」


 そこで私の言葉は途切れた。

 声が詰まり、発する事が出来なくなった。

 それだけでなく身体が動かない。

 自分が呼吸出来ているかも分からなくなる。


「馬鹿な男だ」


 視線だけで声の方を見れば、リサの肩に乗るクロが呆れた様子でため息を吐いた。


「かっかっか! 愚かよのぉ、自ら虎の尾を踏み抜いたわい」


「いいじゃない! やっちゃえご主人さま!」


「ミナトの野郎やり過ぎだ! 殿下気をしっかり持って下さい!」


 クロと同じくタナトスもこの状況に呆れた様子を見せ、ルリは何故か嬉しそうに尻尾を激しく動かしている。

 ルークは私を案じてくれる。


「わたしは知らない、なにも見えない聞こえない」

「あばばばばば」

「少しは鍛えられたと思ったんだがな……」

「ああ、同感だ。 震えが止まらんよ」

「流石は兄貴っす」


 リサは目を閉じ、耳を塞ぐ。

 クリス隊は全員は顔を青くしている。

 ウェインはルーク達同様平気なのか嬉しそうに笑みを浮かべている。


「ミナトさん――」


 ドレザル男爵に悪意を向けられたステラは不安気にミナトを見つめる。

 彼女の反応が一番理解出来ますね。


「やり過ぎないで下さいね……」


 あ、違いますね、これ全然ミナトや自分の身を心配してる感じじゃないです。


 そんな事を思っているとようやく身体の自由が戻ってきた。


「な、なんだったのですか今のは……」


「ミナトの奴がキレたのだ。 その時の殺気に当てられただけだ」


 殺気? それだけで声も動きも奪われた?


「愚かとしか言えんな、あれだけ格の違いを見せつけられてなお負けを認めん上に彼奴の逆鱗に触れたのだ」


「カッカッカ! 浅慮の代償は安くないじゃろな」


「ま、まさか――」


 ♦︎


「ぐっ……う……」


 ラピーナが苦しそうに呻き、一歩後ずさる。


「おお、おのれ! よくも――」

「喋るな」


 紫電で間合いを詰め、太刀の柄でベラベラとよく動く口を閉じる為に顎を突き上げる。


「ッ!!」

「お前の御託は聞き飽きた」


 くだらねぇ虚栄心も貴族の誇りとやらもうんざりだ。


 一撃でふらつくラピーナに容赦なく追撃を加える。

 鳩尾を柄で突き、上体が崩れたところで後頭部に鞘で一太刀加える。


 急所へ3発――

 普通なら確実に意識を奪う攻撃だったのだが――


 一度は地面に倒れ込んだラピーナだが、ふらつきながらも立ち上がった。


「ま、負けら……れないのだ……」


「……」


「おおおお!! くらえ私の最速の――」

「ッ!!」


 それは決死の一撃――

 だが、届かない――


 その程度の剣じゃ俺には絶対に届かない。


 闘技場に金属が落ちる音が響く。

 それは決して大きな音では無かったが、音の正体に気がついた者達が息を呑み、最後は闘技場全体が静まり返った。


「バ、バカな……なにが起きたのだ……」


 震えるラピーナの手にする剣は柄だけを残し、刀身は根本から失われている。


「ありえん! 貴様なにをした!」


 なにをした――か……

 この程度でなにをされたか理解出来ないのか……


「速さを極めたか……笑わせんな」


「な、なんだと!?」


「極めただなんだと勘違いも大概にしろ」


 太刀の柄に手を添える。


「武術、舐めんな――」


 俺が習得している最速の剣技――


 『瞬天燕舞(しゅんてんえんぶ)


「――ッ!!」


 静まり返る闘技場に再び金属が落ちる音が複数回響きわたる。

 ラピーナの鎧が破片となって転がる音だ。


「――へ?」


 そんな間抜けな呟きと共にラピーナが白目を剥いてその場に崩れ落ちた。


「勝者、冒険者ミナト!!」


 アレクセイがそう宣言する。


 だが、闘技場は異様なほど静まり返ったままだ。


「――う、うおおおおお!! ボスーーー!!」


 ……静まり返ったままがよかったな。

 ポーク一団の汚い歓声を皮切りに闘技場が徐々にざわつき始める。


「アレクセイさん、もう帰っていいんだよな?」


 これ以上見せ物になる気はない。

 少し考える様子を見せたのち、アレクセイが口を開いた。


「敗者に求めるものを宣言するがいい、それで終わる」


 求めるもの?

 そういえばそんな話だったな。


「特にな――いや、そうだな――」


 ここまで叩きのめせば流石に平気だと思いたいが、コイツ無駄に根性だけはありそうだし――


「俺や周囲に迷惑かけるな噛みつくなって言っといて」


 そう言うとアレクセイは瞠目し、納得したかの様に頷いた。


「貴殿の命に従えという解釈で相違ないか?」


「ん? まぁそういう事になるかな?」


 若干違うが、まぁそんな感じか。

 とにかくもう突っかかって来なければそれでいい。


 などと考え適当に相槌を打った。


 ――それが間違いだったと気がつくのは直ぐだった。


「聞け!! ラピーナ・ドレザル男爵は冒険者ミナトに従属する事を決闘立会人アレクセイ・フィン・ダーレンドルフ、確かに聞き届け、ここに宣言する!! これは王国法における決定である! 如何なる異議も認められぬ!」


 ふむふむ、なるほ――


 は!?


 どうしてそうなった!!

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