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異世界転移したら自称魔王に取り憑かれていたんですけど  作者: にゃる
第4章 王都到着、そしてーー
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第81話 勘違いしてないか?

 

「何をしているのですか君は……」


「いやぁ、スマン!」


 その日の夜、慌てた様子でルークの屋敷にやってきたアーサーが俺を見るなり呆れたようにため息をついた。


 人のため息を聞くの今日だけで何回目だろう?


「これっぽっちも反省していないのであれば、謝罪など不要です。 そもそも謝る相手が違いますよ」


「アイツに謝る気は微塵もないな」


「やっぱり反省していないじゃないですか」


 いったい何故アーサーがこんな事を言っているのかと言えば、当然だがあの男、ラピーナとの一件が原因だ。


 端的に言えば俺は明日、あの男と決闘しなければならないそうだ。

 何故そうなったかと言えば――


「貴族が手袋を相手に投げつけるのは決闘の申し込み――それを拾うのは決闘を受けるという意思表示なんだよ! しかもそれは貴族同士の話で、普通平民が貴族に手袋を投げられたらその場で地に伏して許しを乞うのが当たり前だ。 平民が貴族の物に触れる、ましてやそれを拾い上げるなんて最上級の侮辱、不敬罪なんだぞ!」


 と、あの後ルークに言われた。


 そんな事言われても、俺がこの世界の常識なぞ知る訳がない。


「過ぎた事を言っても仕方ありません。 それよりも明日の決闘をどうするか考えてるんですか?」


「とりあえずぶっ飛ばして終わらせればいいかな? と」


「ぶっ飛ばしてって……何を言って――まさか決闘とルールを聞いてないのですか?」


 アーサーの目線がルークに向けられる。


「あ、そういやなんも言って無かったな」


 アーサーの冷めた視線を誤魔化す様にルークは視線を外し、頬を掻く。


「はぁ……そもそもルーク、貴方が居ながらどうしてこの様な事態に――」

「まぁまぁ過ぎた事を言っても仕方ないって言ったのはアーサーだろ? んで? そのルールってなんなの?」


 アーサーの視線が若干冷たくなりつつある事に気がつかないフリをしつつ話を先に進めていく。


「王国法における決闘とは剣技によってその決着をつけるのです。 なので貴方のスタイルである体術は使えません」


「え゛!」


 なにその意味不明なルール……


「そして勝者は敗者に如何なる要求でも課すことが許されます。 それこそ命すらもその対象なのですよ。 即ち敗北は死と同義です」


 あー……まぁそれはなんとなく理解出来るのよ。

 決闘のイメージ的に。


 ただ、剣じゃなきゃダメってのがなぁー……


 個人的に体術あっての武術な訳で、剣術も体術の上に成り立つものだと考えている。

 体捌きや歩法に始まり、体術に通ずる技は数えきれない。


 にも関わらず、体術がダメって……


 やっぱりこの世界の武術って基礎が浸透してないよね。

 クリス達もそうだったし、今日見た第2騎士団の騎士達もそうだった。

 魔法が存在するからなのか?


 なんにしても、自分で蒔いた種とはいえ――


「めんどくせぇ……」


 そう呟かずにはいられなかった。


 ♦︎


「……なにこのギャラリー」


 翌日――


 ルークの案内でやってきたのは王国闘技場と呼ばれる施設――


 闘技場の名の通り、巨大な円形の建築物でローマのコロッセオを彷彿とさせる造りなのだが、中央の闘技場を囲む観客席に大勢の人が押し寄せていた。


「殆どが貴族や商人だが、平民でも入れる。 誰もが決闘の証人になれるっつう事だ」


「絶対賭けとかあんだろ……」


 その問いにルークは答えなかったが、表情が物語っている。


「ミナトさん、頑張ってください!」

「がんばれー」

「ミナト殿! 無茶はしないで下さいよ!!」

「ミナトくんに全財産掛けてるんで頼みました!」


 ステラ、リサ、クリスの応援が耳に届く。


「おう、ちゃちゃっと終わらせてくるわ。 あとボガード、テメェは後でシメる」


 なにちゃっかり賭けに参加してんだ。


 なにやらボガードの悲鳴と言い訳が聞こえてくる気がするが無視だ。


「うおおおお!! やっちまえ!!ボーース!!」


 …………観客席の一角に周囲から浮きまくってる一団が見えた気がするが気のせいだろう。


 はぁ……早く帰りたい……


 ♦︎


 理解出来ません。

 これから決闘するのは王国でも屈指の実力者であるドレザル男爵なのですよ?

 その名はこの国の者ならば知らぬものは居ない程です。

 本来であれば師団長や副師団長の座についていてもおかしくない実力者ですが、男爵という爵位故に部隊長というだけの話なのです。


 その事はこの場にいる彼らも当然知っているはずなのです。

 知らなかったステラさんやリサさんにも昨夜伝えたのです。


 ですが、どういう訳か彼女達もクリス達も皆一様にこの決闘に憂いが見受けられません。


「殿下、心配要りませんよ」


 ルークが私の胸の内を察してそう声をかけてくる。


「確かにミナトは剣士じゃありませんがね。あのカイトの息子ですよ? 土俵が変わろうが、あの男が負ける事など考えられません」


「それはそうかも知れませんが――」


 そこまで口にしたところで観客席から起こったどよめきと歓声に声がかき消された。


 それもその筈――


 目の前の光景に私は歓声はおろか言葉を失った。


 ♦︎


 おー怒ってる怒ってる。


 目の前に立つラピーナはその殺気を隠そうともしていない。

 開始の合図を待たずに切り掛かってきそうな気配だ。


「貴様だけは許さん、貴様の犯した罪を刻み、無様な命乞いを聞いた後にその首を刎ねてやる」


「物騒なやつだな」


 命乞いさせてから首を刎ねるって、殺す気満々か。


「ま、出来るもんならやってみな」


 こちらの挑発に分かりやすく激昂してくれる。

 扱いやすくていい。


 それより気になるのはこっちだな――


 横目で様子を伺うもまるで表情が変わらないのでなにを考えているかさっぱり分からん。


「立会いは私が務める」


 騎士総長アレクセイ――


 会うのはこれが二度目だが、この男は明らかに異質だ。

 仮に決闘の相手がこの男だったら俺は死を覚悟して臨む。

 そのレベル、明らかに他の騎士と次元が違う。


 絶対に敵対したくない相手だな……


「では、両者構えろ」


 ラピーナが剣を抜く。


 エストック――か?


 ラピーナの抜いた剣はエストックとレイピアの中間のような剣だった。


 レイピアは細く刺突用で刃がなく、小盾などとセットで使われる。

 エストックはレイピアとよりも刀身が長い事が多く、刺突を得意とするが、刃も造られ斬撃も可能だ。

 レイピアと異なり盾を持つ事より、両手持ちを考える事が多いとか聞いた記憶がある。


 エストックに比べかなり細身の刀身だ。

 普通ならとても実戦に耐えられる強度とは思えないが、異世界だからなぁ、見た目が当てにならない。


「これよりドレザル男爵家現当主ラピーナ・ドレザルと冒険者ミナトの決闘を始める。 双方、構え――」


 ま、とりあえず様子見だな。


「――始めっ!!」


「ッ!」


 開始の合図と同時にラピーナが突きを繰り出した。


 が、その突きは俺の左頬辺りの空を切った。


 当てる気の無い攻撃だ。


「ふ……反応すら出来んか、所詮は下賤者か」


「当てる気が無い攻撃に反応するだけ無駄だろ?」


「ははははは! よく回る口だ! まぁいい、抜きたまえ」


 ラピーナは俺の腰に下げられたモノに視線を向けた。

 そこには先日ルークから渡されたあの真紅の太刀が下げられている。


「貴様の剣を見てやろう。 まぁ体術使いの貴様がまともに剣を振えるのか疑問だがな! ははははは!!」


「はぁ……」


 ラピーナの言葉に俺はわざとらしく大袈裟にため息を吐いた。

 それを見てラピーナの眉がピクリと動く。


「おのれ……どこまでも!」


 沸点の低い奴だ。

 ま、その方がこっちも楽だけど。


「あのさ、なんか勘違いしてないか?」


 そう言って、俺はゆっくりと柄に手をかけた。

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