第79話 聖女
登場人物が増えてまいりました。
みなさま遅れずついてきて下さい!お願いします!
「どうだー? ママいるか?」
「分かんない……」
頭上から落胆の声する声が聞こえて来る。
人混みが凄いのでちびっこを肩車中なのだ。
「ま、大丈夫だろ。 ママもお前の事探してるだろうし、顔の怖いおじさん達も手伝ってくれてるからな」
顔の怖いおじさんとはポークの手下連中の事だ。
このちびっこを見つけた時点でついてきていた3人を使って手を打った。
まず手下ふたりに事情騎士団に通報するよう頼んでおいた。
状況はわからないが泣いている子どもがいるので呼んでも問題ないはずだ。
あと、ジュースを買いに行かせた奴にちびっこが迷子で確定した時点で他の手下に声を掛けて商業地区で迷子を探す親を探させている。
その上でこっちは子ども肩車し、周囲を探しているという訳だ。
「この場で探すより動いた方がよろしいのではないですか?」
なんだ、この白ローブさん居たのか。
しかもまた絶妙にズレた事を言うな。
「アンタも聞いてただろうけど、このちびっこは自分がどっちから来たのか、どのぐらい歩いたのか、それすら分かんなくなってんだ。 下手に動いて母親と余計離れたらどうすんだ? 騎士団も呼びに行ってるし、動くにしてももう少し人手が増えてからの方が間違いないんだよ」
「そ、そういうものなのですね」
納得したのか、それ以上なにも言わず、白ローブさんは周囲をキョロキョロする。
人手は多い方が助かる。
まぁ正直なところ、この方法で見つかる事は期待していない。
商業地区だけでもかなりの広さがある上、人の波は途切れる事なく行き交っている。
ちびっこを肩車して目立とうとはしているが、同じように子どもを肩車している親子も少なくない。
遠目で見つけるのは難しいだろう。
なので俺の本命は王都騎士団の方だ。
ルークの話だと王都騎士団は王都の治安維持が主な任務だ。
言ってしまえば交番のお巡りさんの様な立ち位置だ。
なら、迷子も管轄だろう。
多分親の方も騎士団を頼るだろうし、今はちびっこがこれ以上不安にならないよう一緒にいてやればいい。
「あ! ママ!!」
「え?」
なんて考えていたらまさかの母親発見だった。
「ケビン!! ああ! よかった!!」
人混みをかき分けながらこちらに近づいて来る女性のほかに最初に騎士団に向かわせたポークの手下が2人と軽鎧を着た男が2人ほど母親らしき女性の後ろにいる。
「ボス! 言われた通り騎士団とそのボウズの母親を連れてきやした!」
なんでも最寄りの詰所に騎士団を呼びに行ったところ、ちびっこを探していた母親と鉢合わせたそうだ。
そこでここまで案内してきたと言う。
「ご苦労さん」
「いえ! ボスのご命令とあらばお安い御用でさ!」
「ボスって呼ぶな」
「え? じゃあなんて呼べば――」
「そもそも俺はお前らのボスになるなんて一言も言ってないぞ」
人手は欲しかったのでちょっと利用しただけだ。
「ええ!!??」
さて、面倒臭い事になる前にさっさと退散しよう。
「あ、あの! この度はありがとうございました!」
ちびっこ、もといケビンだったか――
の母親が深々と頭を下げる。
「成り行きでちょっと一緒にいただけで俺はなにもしてないよ。 礼だったらそこで騒いでる強面の連中にしてやってくれ」
「そんな事ありません、貴方がいてくれなかったら今頃どうなっていた事か! 少ないですが受け取って下さい」
そう言って大銀貨一枚を差し出してくる。
「いや、いらないよ」
「ですがそれではこちらの気持ちが収まりません」
困ったな……こりゃ受け取らないと解放してくれそうもない。
後ろの手下連中もまだなんか騒いでるし、さっさと退散したいんだが――
「ならそっちの白ローブの子に――」
「わ、わたくしこそなにもしておりません! 当然受け取れません」
白ローブさんも固辞する感じだ。
仕方ない――
「えーっと、ちびっこ! お前のママがご馳走食べさせてくれるってよ」
「え?」
「ホントにママ!?」
再会出来て余程嬉しかったのか、母親の足にしがみついているケビンにそう声をかける。
当然、なんでそんな話になるのか分からない母親は驚いた表情でこちらを見る。
俺は母親だけに聞こえる声でそっと言葉を続けた。
「親子で楽しい買い物のはずだったんだ、それでケビンに好きなもの食べさせてたくさん話を聞いてやってくれ」
それだけ言って踵を返し、その場を立ち去る。
「お兄ちゃーん!! ありがとー!!」
振り返らず手を返事代わりに右手を上げる。
「ボスー! 待ってくだせぇ!!」
人が格好つけてるのに変な連中のおかげで台無しだよまったく……
♦︎
「ちょ……ちょっと待って下さい!!」
しつこいポークの手下を撒き、一息ついたかと思った途端、そう声を掛けられる。
「撒いたと思ったんだが、体力あるなアンタ」
振り返るとそこには肩で息をする白ローブさんの姿があった。
「なんで逃げるんですか! わたくし何度も声をかけましたよね!」
「なんか面倒臭ささを感じたから」
「面倒臭い?!」
初対面であんな敵意を向けてきた相手の話なんて聞く気にならん。
「ま、そういう訳で」
再び踵を返しその場から立ち去ろうとしたのだが――
「あ、貴方がは何者なんですか!? その強い闇の魔力、人間とは思えません!」
……ほらな。
やっぱり面倒臭い話だった。
「なんの話だ? 俺はそこら辺にいる普通の冒険者だ。 アンタがなにを感じたか知らんが、人外扱いされる覚えはないぞ?」
とりあえず誤魔化してみたものの――
「そんな訳ありません、貴方のその気配は間違いなく闇の魔力です。 闇の魔力に適正を持つ方は珍しいですがいらっしゃらない訳ではありません」
「そうだろ? 俺の知り合いにもいるくらいだ」
「ですが! 貴方のソレは到底比較にならない程の強さです! 極めて高度に隠蔽しているようですが、こうして近づけば間違いようがありません!」
参ったな、誤魔化しきれないかもとは思ったが、白ローブさんはクロの気配を確信してるっぽい。
と言うか高度な隠蔽とか身に覚えがないけどクロがやってんのか?
それより雰囲気でなんとなくそんな気はしていたものの、この白ローブさん教会の人間かもしれん。
「なにか人には言えない悩みを抱えていらっしゃるのではないですか?」
白ローブさんは被っていたフードを外し、真剣な目でこちらを見つめてきた。
セミロングの亜麻色の髪に少し幼いが整った顔立ちはいわゆる美少女と呼んで差し支えないだろう。
なにより目を引くのは強い意志を感じる瞳だ。
そこには最初に感じた敵意はない。
どういう訳か今はこちらを案じているかのようだ。
とは言え、これ以上深入りされては面倒になるかもしれない。
特に教会の人間であれば、こちらの存在が露見しかねない。
なので今取れる行動はただひとつ――
「勘違いだよ――それじゃ、俺急ぐから」
そう言って踵を返し、全力で駆け出す。
再び背後から声が聞こえてくるが、なにを言っているかまでは聞き取れない。
――というかなんで俺が逃げなきゃなんねぇの?
♦︎
駆け出した彼を追う体力は残っていませんでした。
ここまでもかなりの速度で、追うのに精一杯でしたのにそれ以上の速度で走られては体力が残っていたとしても追いつくのは不可能でしょう。
聖女として厳しい修行を乗り越えたにも関わらず、です。
やはり只者ではありません。
あの闇の魔力といい、恐らくあの方がわたくし達が探している人物で間違いありません。
しかし、そうなると疑問が生まれます。
あの方が魔族?
確かにあの強大で濃密な闇の気配だけで考えればなんら不思議はありません。
ですが、それだけです。
あの親子に対する言動は一言で言えば慈愛そのものでした。
わたくしが近くにいたから?
いえ、あの方はわたくしが声を掛ける前からあの子どもを案じてらっしゃいました。
わかりません――
あの方の本当は――