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異世界転移したら自称魔王に取り憑かれていたんですけど  作者: にゃる
第4章 王都到着、そしてーー
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第73話 王国騎士団総長

4章は最低でも一日おきに更新予定!

 ルークと共に馬車に揺られて向かう先は王国騎士第1師団の拠点だと言う。

 貴族街の王城近くにあるらしく、もちろん団員は全員何かしら爵位を持つ家の人間だそうだ。


「先に言っておくが、セレニア王国は絶対的階級社会だ。 間違っても貴族と喧嘩すんなよ?」


 何故かそうルークに釘を刺された。

 そういえば王都に着いた時にクリスにも同じ事を言われた気がする。


「無駄な助言ね」


 ルリがぽつりと零した言葉にルークが眉間を抑えて唸っていたのが納得いかない。


 なにもしないよ?


 向こうが何かしてこなきゃ。


 そんなやり取りをしつつ、第1師団の拠点に到着すると特に問題もなく一室に通された。


 部屋の中には十数人は座れるそうな巨大なテーブルが置かれており、既に数人は席についていた。

 その中にクリス達の姿もあるが、側から見ても分かるほどに萎縮している。


「遅いぞ」


 向かって左側の奥に座っていた男が苛つきを含んだ声でそう言ってくる。

 右側にクリス達が座っている事も加味すれば恐らく第1師団の人間だろう。

 というか事はその隣に座る男も第1師団の騎士っぽいな。


「いや、すみませんね。 でも時間より少し早いくらいの筈ですけどねぇ」


 ルークはまるで申し訳なさを感じない物言いで言い返した。


「揃った様だな」


 部屋の一番奥――

 上座に座った男が静かにそう口にした。


 ルークはテーブルの右側の奥に座り、その隣に俺、更にその隣にルリが座る。

 第1師団と向かい合う形になり、その両サイドを見渡せる位置に座った男が口を開いた。


「では魔獣の森の調査報告を始めてくれ」


「まさか、アレクセイが出張って来るとはな……」


 どうやら仕切っている男の名前はアレクセイと言うらしい。

 第1師団側に座っていないところから想像するにひょっとすると近衛師団の人間なのか?


「アレクセイ総長、失礼ながらこの者は我々第2師団の者とは面識がありますが、総長を始め、第1師団の者とは面識がありませんので紹介してよろしいでしょうか?」


「そうだったな、わざわざ足を運ばせておいて礼を失していた」


 アレクセイと呼ばれた男と目が合う。


 年齢はルークと変わらないくらいでグレーの髪、青く力強い瞳で気品と気高さを兼ね備えている印象だ。


 なにより一目で分かる程の実力。

 しかも底が見えない、ルークを見た時も驚いたが、この男もこの世界に来て見た中では頭ひとつふたつ抜けている、と言うかぶっちぎりじゃないか? 多分ルークより強いぞこの人――


「私は王国騎士団近衛師団長兼騎士団総長のアレクセイ・フィン・ダーレンドルフだ」


 さっきルークの口からも出ていたが総長ね、なるほどこの男が騎士団のトップか、納得だな。


「……私は第2師団長のスライ・アグレスティ、アグレスティ伯爵家当主である」


 スライと名乗った男は先程ルークに『遅い』と苦言を呈した男だ。

 青くウェーブがかった髪を手で払いつつ名乗ったが、その態度は明らかに不快そうだ。

 あれだな、多分平民如きに名乗るのは不本意だけど総長様が名乗った以上、下の立場である自分が名乗らない訳には行かなくなった不快感だな。


「本来ならば貴様の様な下民と交わす言葉など持ち合わせてはいないが……ドレザル男爵家当主ラピーナ・ドレザルだ」


 緑がかったストレートの髪を肩まで伸ばしているその男の名前には聞き覚えがある。

 確かクリス達を率いていた騎士団の男の名前がラピーナだった筈だ。

 コイツか、犬っころ相手に逃げ出したやつは。


 ラピーナは不快感を露わにしながらこちらを睨みつけてくる。

 うーん……むしろ若干の怒気も含まれてない?

 なんか平民だからとか抜きにしても敵視されてるっぽいんだが?

 まぁ理由は簡単に想像がつく気もするが、それより名乗らせておいてこちらは何も無しって訳にはいかない。


「冒険者のミナト――です。 俺――私はこの世界で言うところの迷い人ってやつでして、礼儀作法などに疎いものですから失礼などありましても、そこは貴族様の広い器でどうぞお目溢しいただけますと幸いです。 あ、あとコイツはルリです。 魔獣の森の異変の原因です」


「ちょ! 私の紹介が雑な上にしれっと原因扱いしないでよね!」


 いや、完璧にお前が原因じゃん。

 犬っころどもが勝手にやったとか言ってもこの人達が信じるか分からんし、こういう事はさっさと伝えてしまうに限る。


「なるほど、クリス隊の報告に相違ないようだな」


「っく! アレクセイ総長お待ちください! この者たちの言葉を鵜呑みにするのですか!? こんな話下民の戯言に過ぎません! このような薄汚い狼があれ程の異変を引き起こすなど――」

「は? アンタ殺すわよ!」

「ちょ!ルリ落ち着け」


 秒で殺気立つルリをなんとか宥める。

 この子ちょっと沸点低すぎんだろ。


 ラピーナにしてみればクリス隊を捨て駒にし、さっさと逃げ出したとなっては困るのだろうが、ルリを刺激し過ぎたら弁解の余地もなく殺されるぞ。


「ラピーナ・ドレザル、貴殿はなにか思い違いをしていないか?」


 意外な事にアレクセイの冷ややかな反応はラピーナに向けられた。

 その言葉は静かに、しかし有無を言わせぬ凄みがあった。


「この場は調査結果の報告、それ以外は不要だ。 冒険者ミナトの証言、そして連れているルリなる獣には別個体ではあるが私も覚えがある。 高い知能と誇りを持つ狼だ。 よって虚偽の可能性は限りなく低いと私は考える」


 およ?

 もう少し揉めると思ったが、案外すんなりこちらの話を信用してくれているようだぞ?


「総長! それでは我々第1師団の者が第2師団の者を捨て石に逃げ出したとの汚名を受け入れろと申されるのですか!?」


「スライ師団長よ、貴殿も妙な事を言うものだな?」


「は? それはどういう――」


「確かに貴殿の部下であるラピーナ部隊長の指揮下で混乱があったようだ。 一方は"逃げ出した"と言い、一方は"装備を取り上げてられ囮にされた"と言っている。 この事は問題であり、ラピーナ部隊長の指揮能力は早急な課題だが陛下のご命令である"魔獣の森の異変の解決"という任務は完遂されたのではないか?」


「そ、それは――」


 おいおい、この総長様随分いい性格してるな。


「無論、後発部隊の調査結果報告を待つ事にはなるが、私はそう判断した。 報告通り魔獣の森の異変が解決、正常化しているとなれば本任務の功労者は冒険者ミナトとクリス隊のものという事にはなるが、部隊を率いたラピーナ部隊長にも相応の評価がなされる」


 要する"お互い言いたい事はあるだろうけど、今回はそういう事で手打ちにしておけ"って事だ。


「それでも尚、不服であると言うのならばより詳しく調査する必要が出てくるが、そうなればどちらか一方が王国、延いては陛下に虚偽の報告を行ったと改めて陛下にご報告せねばならないが、それが好ましいと言うのだな?」


「い、いえ! とんでもございません!」


 多分、アレクセイは今回の一件の真実がみえているのだろう。

 最早脅しとも言えるアレクセイの言葉にスライとラピーナは納得する他ない。

 万が一、この一件の真実が明るみに出れば貴族と言えど相当悪い立場になりかねない。

 なにしろアレクセイの言う通り、王様に嘘をついたって事になるんだからな。


「では以上で報告会議は終了とする。 いずれの者もご苦労であった」


 こうして俺が思っていたより遥かにあっさりと良い結果で終了するのであった。

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