表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移したら自称魔王に取り憑かれていたんですけど  作者: にゃる
第4章 王都到着、そしてーー
72/85

第72話 勉強会

 一悶着あったものの無事買い物を終え、銀嶺荘に戻った俺たちは順番に入浴を済まし、夕食も終えた。


 と、言うわけで鍛錬のお時間です。


「ううぅ……」


「…………」


 テーブルに並んで座り、目の前の課題に取り組むステラとリサだが、その姿勢にはかなり差があった。


「むり」


「無理じゃないだろ、真面目にやれ」


「ミナトに騙された」


 そう言って不貞腐れるリサ。

 なにがそんなに不満なのかと言うと――


「騙したとは人聞きが悪いな、部屋で出来る簡単な鍛錬だ――頭の」


 そう、今ふたりが取り組んでいるのはいわゆる算数だ。

 今までも何度かやらせてきたのだが、とにかくリサは算数が嫌いな様で、一向に理解が進まない。


「出来ました!」


「ふむ、どれ我が見てやろう」


 ステラの方は根が真面目な事もあり、着実に実力をつけてきた。

 と言っても現状は足し算と九九の暗記だ。


「金貨2枚と大銀貨4枚に銀貨が6枚……に、大銀貨8枚と銀貨が7枚……」


 リサは必死に両手の指を折りながら数えるが、当然指の数が足りなくなる。


「……13枚か」


「おい」


 リサが俺の手の指を折ったり伸ばしたりする。

 なに人の指を勝手に使ってるんだ。


「だって、指が足りない……」


 うーむ……こればっかりは慣れるしかない。


「まずは10を作るといいっすよ!」


 少し驚いたのはウェインで、読み書きはもちろん四則計算まで出来るらしい。


「うぅ……目が回る……これならずっと走ってる方がマシ……」


「この後は約束を破った罰で読み書きの勉強だぞ」


「死ぬ」


 半べそをかくリサを宥めながら、勉強会は続くのだった。


 ♦︎


 翌朝――


 約束通り、昨日と同じくらいの時間に迎えの馬車が来た。

 迎えは昨日の騎士だけだと思ったが、ルークも一緒だった。


 今日の予定では俺とルリが行けば良い。

 だが、そうなるとステラ達に時間を潰して貰う事になる。

 爺さんとウェインがいるので昨日のような事があっても問題ないだろうが、リサは若干嫌そうだった。


 そこで、とりあえずその辺の事情を掻い摘んでルークに説明すると、何故かルークは都合がいいと言い出したのだ。


「全員乗ってくれ、ちと狭いがなんとかなるだろ」


 馬車は詰めればギリギリ6人乗りといった広さだったので辛うじて全員乗ることが出来た。

 ルリは嫌がったのだが『馬が怖がる』という理由で強制的に馬車に乗せられた。


 全員が乗り込むと馬車が動き出したので、ルークに宿の件を尋ねる事にした。


「それで都合が良いってどういう事だ? それに昨日言われた通り、今日の宿は取ってないぞ? 大丈夫なんだよな?」


「ああ、安心しろ、銀嶺荘ほどじゃねぇが部屋もたくさんあるからゆっくり出来るし、何よりタダだ。 予定がないなら嬢ちゃん達はそこでのんびりしててくれ」


「んな都合のいい場所あるのか?」


「俺の家だ」


 なるほど、そりゃ家主が許すならタダだな。


 ルーク曰く、まずはルークの家に向かうそうだ。

 ならわざわざルーク本人が宿まで迎えに来る必要無かったんじゃないか?

 と、思ったが、第2師団は朝の訓練があるらしく、既に拠点に居たので迎えに来てくれたそうだ。


 そんなこんなで馬車に揺られているとそのうちゆっくりと馬車が停止した。


 馬車を降りると予想外にデカい屋敷が目に飛び込んできた。


 銀嶺荘の様に、華やかさは無いが手入れの行き届いた広々とした庭は絶好の鍛錬場所になりそうだ。


「おー……」

「すごいっすね」

「立派なお屋敷です」

「……ミナトが考えてる事が手に取る様に分かってしまう」


 しかし、これはすごい。

 とても一般人が住む家じゃない。

 まさにイメージする異世界の貴族様のお屋敷って感じだ。


「ま、昔立てた手柄で陛下に下賜されたもんだ。 平民街の中でも裕福な家が多い地区だが貴族街じゃねぇから出入りも気楽だろ」


 確かにルークは騎士団の中でも指折りの地位だと想像出来る。

 なら普通よりいい暮らしをしていてもなんら不思議はないか。


「後で紹介するが住んでるのは執事とメイド、後はコックと庭師にその家族だけだから気も使わなくていい」


「……そうか」


「オメェ今『コイツ独身か?』って思ったろ? ああそうだよ! 痛ぇとこ突いてくんな!」


 いや、なんも言ってねぇだろ。

 しかもそんな事思ってねぇよ。


「……家の事情なんて簡単に聞くもんじゃねぇだろ」


 そう、世の中なにがあるか分からないんだ。


「……わりぃ、そうだな。 ま、でも俺は正真正銘気楽な独身だからよ!」


 そう言ってルークが俺の肩をバシバシと叩いた。

 失敗だったな、気使わせちまった。


 少しばかり気まずい空気になってしまったが、ルークはそれを表にする事なく屋敷へ案内してくれた。


 玄関の扉を開け、声を上げた。


「おーい! 誰か来てくれー!」


 その声に数人から返事が返ってくる。

 その中で一番最初に姿を現したのは執事服の初老男性だった。

 温厚そうな雰囲気で、髪の毛は白一色、開いてるのか分からないほど細められた目と柔和な表情は正に好々爺といった感じだ。


「紹介しておくぞ、我が家の執事でセルジュだ」


「セルジュでございます。 ミナト様でございますね? なるほど、本当にカイト様に良く似ていらっしゃる」


「え? ああ、よろしく」 


「そうだろそうだろ! 間違えるのも無理ないだろ?」


 どうやら俺の知らないところで既に紹介は済んでいるようだ。


「ほっほっほ、カイト様には申し訳ありませんが知的な雰囲気はナギサ様譲りですな、一目であのお二人の御子息だと気がつきます。 旦那さまももう少し冷静に観察する努力をなさいませ」


「っぐ……嫌味な爺さんだぜ」


 ルークは苦虫でも噛んだかのように表情を歪める。


 にしても、この爺さんもうちの親父とおふくろを知ってるのか。

 もしかして今後も結構な頻度で両親の知り合いに会う事になるのか?


「ステラ様、リサ様、ウェイン様、ルリ様、クロ様、タナトス様ですね? 改めましてルーク家執事のセルジュでございます。 どうぞご滞在に際し、ご不便などございましたら何なりと申し付け下さい」


 どうやらステラ達の事も既に伝わっているようだが、本人たちは慣れない雰囲気に恐縮している。


「じゃあ後は頼んだぞ? 俺は予定通りミナト達と会議に出てくる。 嬢ちゃん達はのんびりしててくれ」


 なんかステラ達が迷子の子犬みたいな目でこっちを見てくる。


 すまん、俺にはどうしようもない。


 頑張って打ち解けてくれ……


 なんか色々訴えかけるみんなの視線に気がつかないフリをしつつ、俺とルリはルーク邸を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ