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異世界転移したら自称魔王に取り憑かれていたんですけど  作者: にゃる
第4章 王都到着、そしてーー
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第70話 お人好し

 ルークが降参を宣言すると、一瞬の沈黙の後、瞬く間にあちこちからどよめきが聞こえてくる。

 そのどれもが、まさか師団長が負けると思っていなかった驚きによるものだ。


 うーん……よくよく考えたらこれ結構問題じゃないか?

 師団長の肩書きを持つ者がどこの馬の骨とも分からない奴に負けたのでは面子がよろしくない。


「はっはっは! まさかこうもあっさり負けるとは思わなかったぞ! 大した男だな」


 人の心配を他所にルークは負けたと言うのに高らかと笑っている。

 おいおい、ちっとは言い訳しろよ。


 仕方ないのでわざと大きめの声で一応のフォローを入れておこう。


「よく言うよ、アンタ本当は槍使いじゃないだろ。 しかも手抜いてたし」


 ルークの槍は確かに鋭いが、何というか槍を極めようとする人間のソレではない気がしたのだ。


「流石にお見通しか、だがまぁ俺がカイトとの関係を証明するにはコレしか無かったんでな」


 ルークは寂しそうに折れた槍を拾い上げた。


「……そうか」


 そんなの構えを見た時点で気がついていた。

 多分、ルークは親父に槍術を学んだんだろう。

 構えも動きも、親父の槍そのものだった。


「けどお前も大分手ぇ抜いてただろ!」


「手を抜いたつもりはねぇよ、様子を見つつ、な」


「あれで様子見か、つくづくアイツの息子だな」


 ルークは呆れた様にため息を吐くと、周囲を囲んでいた騎士達に訓練に戻るよう促した。

 まだ興奮が冷めない様だったが、そこら辺は流石と言うべきか一瞬で気持ちを切り替えた騎士達は来た時と同様にすぐに訓練に戻った。


「さて、じゃあ悪いがもう一度俺の部屋まで来てもらっていいか?」


 そう言うルークと共に俺たちは騎士の訓練場を後にした。


 ♦︎


 ルークとの手合わせ後、執務室に戻りようやくクリス達の現状を聞くことが出来た。

 幸い、拘束されているといった事はないそうだ。

 ただ概ねクリスの予想通り、今回派遣された部隊の報告とクリス達の報告が大きく異なっている為、調査が終わるまでは謹慎を厳命されているそうだ。


 クリス達の現状が確認後、今度は俺から魔獣の森で起こっていた異変に関してルークに説明する。

 一通り話したところで「クリス達の報告通りだな」とルークは納得した様に頷いた。


「悪いが、代表者としてミナトとフェンリルには明日それを騎士団会議の場で証言してくれないか?」


「ああ、元々そのつもりだ」

「やっぱり私も行かなきゃダメなのね……」


「すまんな、恩に着る」


 ルリは面倒そうだが、そもそもこの件に関してはこっちから首を突っ込んだ事だ、ここまで来たなら最後まで責任を持ってできる事はする。


 最終的に明日、今日と同じ時間に銀嶺荘に迎えを寄越してくれる事になった。


「じゃあ、明日な」


「おう、よろしくな」


 ステラ達も挨拶を済まし、ルークの執務室後にしようとしたところでルークから再び声を掛けられた。


「そうだ、お前ら宿はいつまで取ってるんだ?」


「ん? とりあえず今日までだな」


 質問の意図が掴めないが、とりあえず正直そう答えた。


「なら明日からは宿の心配はしなくていいぞ」


 いまいち意味が分からないな。

 多分、ルークが世話をしてくれるか当てがあると言う事なのだろうが、ルークは「明日のお楽しみだ」と言って詳しい事は教えてくれなかった。


 なんなの? この世界の人間って勿体ぶるのが常識なのか?


 しかしもうこれ以上あれこれ聞く気にもなれず、何度目かもわからないため息と共にその場を後にした。


 ♦︎


 ミナト達が立ち去り、誰も居なくなった部屋の隅に声を掛けた。


「やれやれ、ありゃとんでもねぇぞ。 化け物だ化け物」


 カイトも初めて会った時から化け物じみていたが、ミナトは恐らくそれ以上だ。

 実際に手合わせした今でも実力の底が見えなかった。

 今日は様子見だったが、仮にお互い全力を出したとして、今の俺では勝てる自信がない。


「おい、いい加減出てこいよ、どうせ居るんだろ? これじゃ独り言みたいじゃねぇか」


 返事が返ってこない事に不満が口をついた。


「どこに話しかけてるのよ、こっちよ」

「うおっ!」


 突然背後から声が聞こえ、思わず声が出た。


「脅かすな! なんで普通に出てこれねぇんだ! マーリン!」


「仕方ないじゃない、一応貴方に会うのは極秘なのよ? 痕跡一つ残すわけにはいかないの」


 それは分かってはいるが、もう少しなんとかならんのか?

 姿を見せるまで気配が皆無なので心臓に悪いったらない。


「とりあえず、手紙にあった通り確認したぞ。 答えは"問題なし"だ」


「そう、なら良かったわ」


「わざわざ試さなくたって分かってたんじゃねぇのか?」


 マーリンは口では安心した様な事を言っているが、その表情は当然の事と思っているようだった。


「念の為よ、近接は貴方の方が本職でしょ?」


「そりゃそうだがよ……そもそもこんな回りくどい事する必要あるのか? かなり不信を買ってると思うぜ?」


 そもそも根本的にそこから疑問だった。

 何故、マーリンは()()()()()()を隠している?

 わざわざ俺やあのリッチにまで根回ししてまでだ。


「別にいいのよ、あの子はカイトや貴方と違って馬鹿じゃなさそうだから、私が()()()()()()()を持って隠している事にも気がついてるわ」


「チッ! サラッと人を馬鹿扱いしやがって……」


「それでもやっぱりあの子達の子どもなのよ……どうしようもないくらいの"お人好し"ね……だからせめてあの子自身でこの先どうするか決めて欲しいのよ――」


 そう口したマーリンは寂しさと慈しみが同居してような表情を浮かべていた。


「今日はやけに表情が豊かだな」


 長い付き合いだが、マーリンがここまでハッキリと感情を見せるのは珍しい。


「……そういう事を口にするから貴方はいつまでも独身なのよ?」


「へいへい、わるぅございました」


 マーリンの顔から目を逸らす。

 これ以上見ていてまた杖が飛んできたら堪ったもんじゃない。


「じゃあ引き続き頼んだわよ、また近いうち、今度はミナトがいる時にでも顔を出すわ」

「あ? おい! ちょっと待――」


 慌てて振り返るも既に姿はなかった。


「自分の用事が終わったらすぐこれだ、まったく……」


 昔から振り回されてばかりだが、これからはますます振り回される事が分かっているので頭が痛い。

 そういう女なのである。


「ミナトの奴は俺以上に振り回されるんだろうがな」


 まぁ、もう充分振り回されてるか――

 その点に関しては気の毒としか言いようがない――


 そんな事を考えながら俺は自分の仕事へと戻るのだった――


 ♦︎


 これは一体どういうことだ。

 訪れた廃教会の隠し部屋を見て思案する。


 秘密裏に用意された召喚用の魔法陣は無惨に破壊されていた。

 最初は何かの間違いかとも思ったが、やはりこの地に用意したリッチは何者かに討伐されたという事だ。


 だが、一体誰が倒したと言うのだ?

 この国でリッチ程の魔物を倒せる者などごく限られている。


 王国の騎士団かとも思ったが、この地を監視させていた者の報告では騎士団が派遣された様子はなかったという。

 そもそも一介の騎士程度ではリッチを倒せるとは思えん。


 これは早急な調査が必要になる。

 そうと決まれば長居は無用だ。

 私は足早に打ち捨てられた教会を後にした――

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